夫が黙ってしまったから、私はリビングに置いたまんまのアルバムを手に取り、テーブルの上で開いて見せた。
写真の中で夫が楽しそうに笑っている。
満 「……うわ。わかっ」
キリコ 「お互い自分だけじゃ答えが出せないんだし、話を聞いてみようよ。それから考えたっていいじゃん」
満 「…まぁ、話だけでも聞いてみるか」
キリコ 「うん。で、そのフォトスタジオの名前はなんていうの?」
満 「名前は…あー、ファミーなんとかだった…あれ、俺のスマホ…あれ」
キリコ 「え? コートとか?」
私は席を立ち、ソファーに脱ぎ捨てられたコートのポケットに手を突っ込む。
…クローゼットにちゃんと掛けてくれ、と毎回言ってるのに…とイライラする気持ちはいったん置いといて…。
キリコ 「のど飴しかないけど」
満 「内ポケットは?」
キリコ 「ないよ」
満 「あれ? じゃあ、リュックかな」
コートと一緒にソファーに置かれているリュックを見て、イライラが再燃しそうになる。…今は抑えよう。
リュックのチャックを開けると、「あー、そこじゃなくて外ポケット」と言われ、「もー、自分で取ってよ!」と言いそうになった時、リュックの中に綺麗な庭が表紙の雑誌が見えた。
キリコ 「なにこの雑誌」
満 「え? あー、なんとなく買っちゃった。奏太が熱出したとき、ほら、電車の本買って来たでしょ?」
キリコ 「あー」
満 「昼休憩の時とかにさ、ちょこちょこ見てんの」
キリコ 「ふーん」
外ポケットにあったスマホと雑誌を持って席に戻ると、夫がさっそくスマホを開いた。
フォトスタジオの名前は「ファミーユウルーズ」だと言った。
キリコ 「どれどれ…」
今度は自分のスマホで検索してみる。
キリコ 「わぁ、すごいかわいい。見て見て、敷地内にカフェと雑貨屋もあるみたい。なんか小さな公園? 村? なんていうのこういうの、フランスの田舎町? みたいだね」
興奮しながら隣を見ると、夫はうっとりとした表情で雑誌を見ていた。
満 「俺さ、こーゆー家が理想。建物自体はシンプルな白い家でさ、庭にたくさんの緑があるっていう。小さな森、みたいな庭」
おいおい! 話聞いてんのかい!? と言おうとしたのに、雑誌に目がいってしまう。
キリコ 「あー、わかる。やっぱり庭ほしいよねー」
満 「うん」
それから義母がお風呂から出てくるまでの間、私と夫は「家」について話し合った。
日々なんだかんだで言い争うこともあるけど、やっぱり好きなモノは似ているようで、お互いの理想の家が具体的で、本当にそんな家に住むことが出来たらとっても楽しいだろうなと、想像するだけでその夜は幸せな気分になれた。
公開 2018年03月16日
夫とお互いの理想を話せるようになったのは、けっこう進歩だと思う。 / 11話 sideキリコ(2ページ目)
33,134 View4年ぶりにライターの仕事を再開するも、出産前と同じように原稿が進まず初めて仕事を落とし落ち込むキリコ。やっぱり子育てしながら仕事をするなんて無理なのかな…。そんな時、今度は以前仕事を受けていたヨリミチ日和の吉田から連絡がくる――。
※ この記事は2024年10月11日に再公開された記事です。
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連載「家族の選択」
#11
さいとう美如
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