迷ってるうちに「幸せ」は誰かのものになっちゃう、か。 / 13話 side満のタイトル画像
公開 2018年03月23日  

迷ってるうちに「幸せ」は誰かのものになっちゃう、か。 / 13話 side満(2ページ目)

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名古屋のフォトスタジオの求人に心揺れ、迷いながらも転職エージェント土井に連絡をとった満。「実際にお店を見に来ませんか?」と言われ週末に奏太を連れて実家のある岐阜へ帰省する。奏太と出かけた公園で、地元の同級生で不動産屋の江原と会うのだが――。


江原  「もう30年近い付き合いなんだから、すぐにわかりますよ」

長男  「30年!? すごーい。おじさん、何歳?」

江原  「お兄さんと呼びなさい! パパとおなじでまだ若いんだから!」

次男  「お兄さんこの家、買うの?」

   「いや…どうかなー」

江原  「売れちゃうよ~。みっつーが迷ってる間に、幸せが誰かのものになっちゃうよ~」

   「……」

江原  「だってこの好条件で3000万円切ってますもの」

   「えっ」

江原  「しかも決算期だから、俺が値引き交渉したる」


商売上手な江原に乗せられて思わず「ほしい。買う」と言ってしまいそうになるのを飲み込み、俺は冷静を装って、家の写真を何枚かスマホで撮った。



そして桜葉幼稚園のプレのことと、この家の価格を添えてキリにメッセを送った。

…果たしてどんな返しが来るか。


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――その後、「もっと遊ぶ!」という子どもたちを連れて、江原の車で運動公園に向かった。


奏太  「わきゃー!」


車から大きな遊具を見つけた奏太は俺の膝の上で悲鳴に似た声を出した。

奏太は江原の子たちと一緒に…は遊べないけど、何度も何度も大きな滑り台を滑って笑顔を見せている。


そんな奏太を江原が見守ってくれているから、俺は枯れた芝生の上に寝転がった。

空が広い。弾むボールの音、草の揺れる音、かすかにどこかで水の流れる音も聞こえてくる。


昔は地元に洒落たカフェもなかったし、ほしい服も売ってなかった。

でも子どもの頃の自分にとっては自由に楽しめる自然がたくさんあって魅力的だったことを今、思い出した。


奏太  「パーパ!」


聞き慣れたかわいい声がし、奏太は俺の横にコロンと仰向けになった。


奏太  「きもちいねぇ」

   「ちょっと寒いけどね」

奏太  「あ! くじらさんだ」

   「あの雲? そうだねー」


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あぁどうも、今の俺にもここは魅力的かもしれない――。


帰りの車で寝てしまった奏太が5時を過ぎても起きず、親には内緒でフォトスタジオを見に行きたい俺はそわそわしていた。

もたもたしてると閉店時間になるぞ…。


   「…キリがあと一時間くらいで名古屋だって。…どうしようかな」

真由美 「奏ちゃんのことは見てるから、名古屋駅まで迎えに行ってあげたら?」

   「あー…そうしようかな」

真由美 「たまには2人でゆっくりお茶でもしてきな」

   「あー…うん。じゃ行ってくる」


母ちゃんの軽自動車に乗り込みエンジンをかけると、ラジオから女性DJの声が聞こえてきた。


ラジオ 「熱い夏が待ち遠しいですね。青いぽんかんさんのリクエストで、ソイルアンドピンプセッションズ、サマーゴッデス」

   「…わー、懐かしいこれ」


キリと付き合い始めた頃、よく俺の家で聴いていた曲だ。

…そういえばキリ、打ち合わせはどうだったんだろう。朝は緊張してるように見えたけど、うまくいったかな? 

名古屋駅に向かって車を走らせながら、そんなことを考えていた。


まさかその打ち合わせが円田家の今後を変える決め手になるなんて思いもよらずに。

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▶︎▶︎ 次回、14話は、3/27(火)20時公開予定!

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※ この記事は2024年10月04日に再公開された記事です。

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