思わずため息を吐くと、夫が背筋を伸ばし、私を見る。
満 「やっぱり引っ越し案をもう少しがんばってみるのは…どうかな? うーん…。奏太の性格からして、初めての幼稚園でプレの初回を楽しめる方が奇跡なんだし…。川口つばさのプレも初回は泣いて大変だったよね?」
キリコ 「…そうだけど。プレのたびに岐阜に行ってたら、交通費だって…」
満 「でもプレも含めて、あの辺の環境に慣れる時間が必要な気がする。少し実家にいてみるのはどう?」
突然の夫の提案に私の眉毛がピクリと動く。ちょっと待ってよ?
キリコ 「それって……私と奏太がパパの実家に連泊するってこと?」
満 「まぁそうなるか…」
まぁそうなるか…じゃ、ねえよ。
キリコ 「……お義母さんとちょっと仲良くなったとはいえ、義実家に連泊はけっこうしんどいよね。お義兄家族もいるしね…」
満 「キリがあの戸建てを買いたい気持ちがゼロじゃないなら…」
あー、もうやだ。私、お母さんなのに、奏太のことが一番とか言ってるくせに。
でも義実家に連泊するのなんてしんどいよ。
夫が言ってることは正しいと思う。
奏太があの場所に慣れたら、もしかしたら幼稚園も桜葉でいいって思えるかもしれない。
でもでもでもでもでも、あー!
キリコ 「…ごめん。なんか今すぐ決められない。今日はもう頭が回らない。お風呂入って寝る」
頭から煙が出そうになって立ち上がると、背後から「…わかった」と夫の声がした。
――翌朝、モヤモヤしながら部屋の掃除をしていると、栃木の実家近くに住んでいる姉・洋子から電話が掛かって来た。
公開 2018年04月17日
人見知りな息子に、笑いあえる友達がいるのは私も心強い。/ 20話 sideキリコ(2ページ目)
40,809 View岐阜への引っ越しと満の転職。大きな選択に揺れる円田家。
満の実家近くの桜葉幼稚園のプレに行ってみるも、人見知りの奏太は号泣し教室で過ごすことができなかった。知り合いがいない環境で心細さを感じたのはキリコも同じで…。仕事も家族もすべてが100点なんてムリなのかな。沈んだ気持ちのまま、新幹線で川口へ戻った翌日――。
※ この記事は2024年10月13日に再公開された記事です。
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連載「家族の選択」
#20
さいとう美如
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