老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコのタイトル画像
公開 2018年04月24日  

老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコ(2ページ目)

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内見した岐阜の家は理想的な家だった。しかし、引っ越した場合に通うことになる桜葉幼稚園のプレに参加した奏太は、人見知りと場所見知りで号泣。川口に戻り、川口つばさ幼稚園で友だちと笑い合う奏太の姿をみたキリコは引っ越しが奏太のためになるのかと心揺れる。話し合いの中、奏太が環境に慣れるよう岐阜にある満の実家で少しの期間過ごしてみたらどうかと満に提案されたキリコは―。


洋子  「…ちょっとさー、勝手すぎない? 私たちに何の相談もなしにさ。お母さんは知ってるわけ?」

純一  「うん」

キリコ 「っていうか…お母さんとは仲直りしたの?」

純一  「仲直り?? なんで?」

キリコ 「だってお父さんがそんなんだから、お母さんは家出したんでしょ?」


私の言葉に父は大きく口を開けて笑い始める。

心底、愉快という表情で。


純一  「家出? あはははっ! おばさんの家出! 哀愁が漂うね! あーはははっ! お腹痛い! ちがうよ、ちがう。ほら、母ちゃん病気が見つかったでしょ」

洋子  「え? いつ」

純一  「鹿児島に行く前」

キリコ 「知らない…けど」


もー、何なの、家族内秘密が多すぎる!


純一  「そうだっけ? あの時ね、なんだかお腹が変な感じするわ~って言って、病院に行ったの。そしたらね、卵巣が腫れてて。悪性だったら、癌だからさ、母ちゃん長くないかもって話になって」

洋子  「えぇ!?」


もう何があっても驚かない。続けて。


純一  「そしたら母ちゃんが泣くわけよ。娘2人は嫁に行ってカワイイ子どももいて良かった。でも一つだけ心残りがあるって。鹿児島に1人でいるお母さん。お母さんともう一度一緒にゆっくり生活してみたかったって。それでね、したらいいじゃない、って言ったの」

キリコ 「で、病気は?」

純一  「良性だったの。だから大丈夫。経過観察」

キリコ 「そうだったんだ…。お父さんが何もしないから、お母さんは嫌気がさせて家出したんだとばっかり…」

純一  「おいおいおい。わかってないなぁ。母ちゃんと俺は仲良しだよ」

洋子  「なんだー知らなかったよー…」


しみじみうなずきながらあぶりサーモン握りを頬張った姉が頭を傾げる。


洋子  「…ん? 良性だったんだよね? じゃあ栃木に帰ってきても良くない?」

キリコ 「…だね。やっぱりお父さんも原因の一つなんじゃないの?」

純一  「あははっ。だから違うって言ってるじゃないの! おばあちゃんの代わりにデコポン作りをやってるんだよ。けっこう稼いでるよ、母ちゃん。俺も釣りしながら手伝うのよ」


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父はニコッと笑って、グビっとビールを飲み、マグロの握りを食べる。


純一  「それにさ、家を貸すことを娘に相談もしないで、っていうけど、お前たちどっちもこの家を出ていったじゃんよ」


うっ…。そうですね、婿をもらう考えはありませんでしたよ。


純一  「住んでないやつにこの家のことをどうこう言われてもなぁ」

洋子  「そうだけどさ…。でもここは私とキリコの実家だよ?」

純一  「まあ、とにかくね。俺はね、母ちゃんが死んじゃうかもしれないって時、結果が出るまで毎晩眠れなかったの。それで俺だったらどうしたいかなって考えるようになって。そんで思ったのよ。あー、思う存分、釣りがしたい。全国つり旅したら悔いが残らないかなぁって。だから家を貸して、お父さんは釣り旅に出る。お前たちも悔いの残らぬ人生を送りなさい。以上! 解散! って古いか。あはは」


一方的に話した父は酔って寝てしまい、姉は私と奏太の布団を敷いて自宅に帰った。

私は奏太とお風呂に入り、客間に敷かれた布団に入る。

なんだかんだではしゃぎ疲れていたのか、奏太はすぐに眠ってしまい、逆に私はなんだか目が冴えて冴えて…こっそり布団を出た。


リビングに向かうとちょうど父が大あくびをして目を覚ました。


純一  「…ん?」

キリコ 「もう10時だよ。お姉ちゃんは帰ったし、奏太は寝ちゃった」

純一  「あぁ、そうなんだ。俺もトイレ行って寝るわ」

キリコ 「うん」


リビングから父が出て行き、静まり返ったリビングを見回す。

スヌーピーの掛け時計。ずっと同じだなぁ。

企業名が入ったカレンダー。これも毎年同じ。

本棚の一番下にフォトアルバムがあることに気づく。

なんとなく手に取り、小さかった頃の自分、家族を見て思わず微笑む。

…よかった。父と母が本当は仲良しで。

大人になってもやっぱり両親には仲良しでいてほしいもんなんだな。

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思いのほか、安堵している自分に笑いながら見ていると、学校の卒業アルバムが出てきた。

小中高と「将来の夢」が書かれいて、その内容に自分のことながら笑えてくる。

小学校は「記者になりたいです」
中学校は「作家さん」
高校は「ライター」


キリコ 「ずっと同じじゃん」


そして本棚に並ぶ「文章が上手くなる本」「エッセイを書こう!」などの背表紙に触れる。

読む人が楽しい文章を書きたい、そう思ってたくさん本を読んで、毎月「公募ガイド」も買っていた。

今思うとすごいけど、小学校6年生から毎月のように何かしらの募集に自作のエッセイなどを送っていた。

怖いもの知らず、というか。

当たって砕けて泣くこともしばしば。

そんな私の元に一度だけ応募先から手紙が来たことがあった。

中学3年生の私が受け取った手紙が…本の間からパラリと床に落ちる。

その手紙の内容は、まるで今の私を励ますようなものだった――。

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▶︎▶︎ 次回、22話は、4/27(金)20時公開予定!

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※ この記事は2024年10月16日に再公開された記事です。

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