洋子 「…ちょっとさー、勝手すぎない? 私たちに何の相談もなしにさ。お母さんは知ってるわけ?」
純一 「うん」
キリコ 「っていうか…お母さんとは仲直りしたの?」
純一 「仲直り?? なんで?」
キリコ 「だってお父さんがそんなんだから、お母さんは家出したんでしょ?」
私の言葉に父は大きく口を開けて笑い始める。
心底、愉快という表情で。
純一 「家出? あはははっ! おばさんの家出! 哀愁が漂うね! あーはははっ! お腹痛い! ちがうよ、ちがう。ほら、母ちゃん病気が見つかったでしょ」
洋子 「え? いつ」
純一 「鹿児島に行く前」
キリコ 「知らない…けど」
もー、何なの、家族内秘密が多すぎる!
純一 「そうだっけ? あの時ね、なんだかお腹が変な感じするわ~って言って、病院に行ったの。そしたらね、卵巣が腫れてて。悪性だったら、癌だからさ、母ちゃん長くないかもって話になって」
洋子 「えぇ!?」
もう何があっても驚かない。続けて。
純一 「そしたら母ちゃんが泣くわけよ。娘2人は嫁に行ってカワイイ子どももいて良かった。でも一つだけ心残りがあるって。鹿児島に1人でいるお母さん。お母さんともう一度一緒にゆっくり生活してみたかったって。それでね、したらいいじゃない、って言ったの」
キリコ 「で、病気は?」
純一 「良性だったの。だから大丈夫。経過観察」
キリコ 「そうだったんだ…。お父さんが何もしないから、お母さんは嫌気がさせて家出したんだとばっかり…」
純一 「おいおいおい。わかってないなぁ。母ちゃんと俺は仲良しだよ」
洋子 「なんだー知らなかったよー…」
しみじみうなずきながらあぶりサーモン握りを頬張った姉が頭を傾げる。
洋子 「…ん? 良性だったんだよね? じゃあ栃木に帰ってきても良くない?」
キリコ 「…だね。やっぱりお父さんも原因の一つなんじゃないの?」
純一 「あははっ。だから違うって言ってるじゃないの! おばあちゃんの代わりにデコポン作りをやってるんだよ。けっこう稼いでるよ、母ちゃん。俺も釣りしながら手伝うのよ」
公開 2018年04月24日
老後なんてまだ想像できないけど、親になってもそれぞれの人生がある。 / 21話 sideキリコ(2ページ目)
25,881 View内見した岐阜の家は理想的な家だった。しかし、引っ越した場合に通うことになる桜葉幼稚園のプレに参加した奏太は、人見知りと場所見知りで号泣。川口に戻り、川口つばさ幼稚園で友だちと笑い合う奏太の姿をみたキリコは引っ越しが奏太のためになるのかと心揺れる。話し合いの中、奏太が環境に慣れるよう岐阜にある満の実家で少しの期間過ごしてみたらどうかと満に提案されたキリコは―。
※ この記事は2024年10月16日に再公開された記事です。
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連載「家族の選択」
#21
さいとう美如
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