――翌朝。
川口にいったん戻ったあとフリープランに向かった俺は、再度ケンゾーと社長に退職したいことを伝えた。
予想通りまた止められたけど、俺は手作りしたナポレオンジャケットを2人に見せ、自分の思いを話した。
俺の意志が固いと感じた社長は「わかった」と言って立ち上がり、俺は険しい顔をしたケンゾーと2人で会議室に残された。
沈黙が痛い…。
ケンゾー「これ、奏太くんに着せたんですか?」
満 「いや…まだ。キリと奏太は岐阜に行ってるからさ。奏太の幼稚園のこともあるし」
ケンゾー「いいっすね、これ。かっこいい」
満 「ほんと?」
嬉しくなって自然と口角が上がる俺を見て、ケンゾーが大きなため息を吐く。
…あ、すいません。
ケンゾー「はぁ。会社のことを思うと満さんが辞めるのは痛い。でもこんなジャケット作れちゃう満さんを…俺、止められないですよ」
満 「ケンゾーくん…」
ケンゾー「やるからには絶対受かってくださいよ。転職失敗して、服飾と関係ない仕事に就いたらマジで許しませんよ、俺」
顔も言うこともかっこいいなぁ…。
好きになっちゃうよ、男でも。
なんだか泣きそうな俺にケンゾーが手を出し、握手する。
ケンゾー「転職祝いのセッティングしますから頑張ってください」
満 「ありがとう…。ありがとうっ!」
公開 2018年05月18日
好きなことを諦める方法なんて、やっぱり分からないよ。 / 28話 side満(2ページ目)
18,067 View満が小さい頃からの家族行事だった「ほうれん草の収穫」は地域や子どもたちもたくさん集まるにぎやかなものだった。キリコと奏太と一緒に参加しながら、家族のこれからに向けて気持ちを共有できたキリコと満。そして、フォトスタジオの入社面接に向けて満が作り始めていた奏太の服が完成した――。
※ この記事は2024年08月22日に再公開された記事です。
連載「家族の選択」
#28
さいとう美如
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