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公開 2018年05月22日  

これから先も、家族で話し合いながら進んでいくんだ。 / 最終話 sideキリコ

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フォトスタジオへの転職の道を進むことに決め、社長とケンゾーにも退職したいと伝えた満。新しい幼稚園に通うのか、奏太の選択は…?


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第29話 side キリコ


月曜の夜、夫から「退職願をオッケーしてもらえた」とメッセが来た。

いよいよだ…後戻りが出来ない一歩を完全に踏み出したんだ。


ふぅ。あとは奏太が桜葉幼稚園でもいいよって思ってくれるかどうか。

無理強いはしたくない。

したくないから…本人の気持ちが動くのを願いたい!

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願いたかったけど――。

翌日の朝、奏太はプレに「いかない」と答えた。

ガラガラと補助輪を鳴らし、いつもの公園に向かう。

圭吾親子の姿はない。

プレに行ったんだよね。行くって言ってたもんね。


キリコ 「…なにする? お砂でもやろっか」


奏太は「うん」って答えたのに全然楽しくなさそうな顔をして、自転車を降りようとしない。


キリコ 「あぁでも…お砂セット持ってくるの忘れちゃったね。どうしようか」

奏太  「……」

キリコ 「…ブランコでもやる?」

奏太  「けーごくん…」

キリコ 「ん?」

奏太  「さくらにいったのかなぁ」


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奏太  「…まってるかなぁ、ぼくのこと」

キリコ 「うーん、奏ちゃんはどう思う?」


奏太の目線にしゃがみ込み、顔を覗き込むと奏太が私の目を見つめ返した。


奏太  「ママ、さくらに見にいってみようっか」

キリコ 「ん?」

奏太  「けーごくんがまってるか、見にいってみようよ。だってさぁ、待ってたらかわいそうでしょ?」

キリコ 「うん、そうだね。そうしよう!」

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奏太が自分で考えて判断してくれたことが嬉しくって、自転車を漕ぐ奏太のスピードに合わせて、私は幼稚園へと走り出した。

ちょっと待って、息が上がって…。
く、くるしい…。

そんな私をしり目に幼稚園の門のところまでくると、奏太は自転車にまたがったまま門に立っていた先生に声を掛けた。


奏太  「けーごくんは?」

先生  「奏ちゃんおはよう。けーごくんって、山口圭吾くんのことかな?」

キリコ 「そ…そうです…はぁ、はぁ」

先生  「もう来てるよ。圭吾くんもね、そーたくんは? って言ってたよ」

奏太  「……」

先生  「奏ちゃんもお部屋に行ってみようか?」


奏太はまだ笑顔はないけど、縦に大きくうなずいた。



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教室に行くと、すでにプレは始まっていて、きちんと席に着いている子どもたちを見て、奏太の顔はすぐ強張ってしまう。

…あぁ、やっぱりダメなのかな。

そんな風に思いそうになった時、「そーたくん!」と元気な声が聞こえ、前の方の席に座っていた圭吾が立ち上がって手を振ってくれた。


圭吾  「こっちこっち! はやくはやく!」


子ども達の視線が奏太と圭吾に注がれ、固まってしまっている奏太が私の顔を見てきた。

大丈夫。

私が笑顔でうなずくと、奏太はゆっくりと前に進み、圭吾の隣の席に座った。

…あぁ、座った。座ったよー!!

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先生  「今日はホールに移動して、マット運動で遊びます。いいですかー?」


子ども達「はーい!」


先生  「保護者の方もあとから移動をお願いします」


圭吾  「そーたくんいこう!」


圭吾が奏太の手を握り、引っ張っていってくれている。


圭吾ママ「奏太くん、来れてよかった」


声を掛けられ振り返ると、下の子を抱っこした圭吾ママが微笑んでいた。


キリコ 「はい、間に合いました」


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ホールに移動し、体操の先生指導のもと、子どもたちは4,5人に分けられた。

そして最初のグループが体操マットの上に座ると、先生が「魔法をかけると空飛ぶマットに変身するよ~!」と、マットの端を持って歩き出した。

きゃっきゃと笑う子。

こわいと言う子。

おどける子。

奏太は…ものすごく不安そうな顔をしてる。

圭吾は…うっそ、圭吾も不安そうな顔してる。


圭吾ママ「うちの子、実は怖がりだから、初めてやることは苦手かもしれないです」

キリコ 「あぁ…そうなんですね。大丈夫かな、あのふたり」

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最初のグループが終わり、奏太たちの番になった。

奏太と圭吾以外の子どもたちはすんなりマットに座っていたけど、ふたりは険しい顔をして動こうとしない。


先生  「ほーら、乗って乗って。大丈夫、怖くない」


ドキドキしながら見ていると、予想外に奏太が何か圭吾に話しかけた。

「やっぱりやめよう」「ママのところにいこう」なんて言ってないよね??

そわそわしながら見ていると、奏太が圭吾の手を握り、ふたりは同時に歩き出し、マットに腰を下ろした。

「いこうよ」って奏太が声をかけたってことかな…?


先生  「よーし、魔法の呪文ピッピップ~!」


強張ったままのふたりを乗せてマットが動き出した。

先生の走りが急に早くなって子どもたちが体勢を崩しそうになり、ふたり以外の子どもたちの笑い声が聞こえてくる。


先生  「おっと前から飛行機が来たぞ!よけろ~!」


先生が急カーブを曲がると、その勢いで圭吾がマットから転げ降りてしまった。


圭吾ママ「あ」

キリコ 「あ!」



圭吾  「……あははっ! おちた~!」


圭吾が笑いだすと、見ていた子どもたちも弾けるように笑いだした。

呆然と見ていた奏太も次第に笑顔になり、笑い始めた。



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奏太  「ふふふ。けーごくん、はやくのって!」

圭吾  「うん! これおもしろいね!」

奏太  「うん」


無事にプレが終わって、圭吾親子と幼稚園を出ると門の前にくたびれた自転車があった。

そうだ、必死で走って来たんだった。

「そーたくんじてんしゃできたんだね。じてんしゃすきだね」と圭吾に言われた奏太は「のっていいよ」と圭吾に自転車を貸した。

「どうやってやるの?」「やっぱりこわい!」と騒ぐ圭吾を見つめながら、私は奏太の小さな手を握る。


キリコ 「貸してあげられたね」

奏太  「うん」


おっかなびっくり自転車を漕ぐ圭吾と共に歩いていると、道の先に白い戸建てが見えて、奏太が「あ、ぼくんち!」と叫んだ。



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奏太  「けーごくん、ぼくんち遊びにきていいよ」

圭吾  「やった! ぼくんちもきてね」

奏太  「うん、いいよ」

キリコ 「あー、約束しちゃってる…。まだぼくんちじゃないのになぁ」

圭吾ママ「買うことにしたんですね」

キリコ 「え?あー、あはは…」



まだ購入手続きもしてないのに、「ぼくんち」とか「まだ」って言っちゃってたね、親子で。

この白い戸建て、夫もすごく気に入ってるし。

今夜もう一度、家族3人で話してみよう。

今がその時だと思う。

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※ この記事は2024年12月08日に再公開された記事です。

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