先日、書籍が出版されたコノビーの人気漫画「本当の頑張らない育児」。
本書を専門家の視点から読み解いてもらうべく、編集部・三輪の友人でもある、メンタルヘルスがライフワークの内科医「Dr.ゆうすけ」さんにお話を伺いしました。
Dr.ゆうすけさん、「人に頼る方法」を教えてください!
20,732 Viewtwitterフォロワー数16,000人を超えるメンタルヘルスがライフワークの内科医『Dr.ゆうすけ』さんの考える「頼り方のコツ」と「本当の頑張らないの意味」とは…?
―― Dr.ゆうすけさん、今日はよろしくお願いします。なんかこうやって改めてお話聞くの、ちょっと緊張しちゃうなあ。
こちらこそよろしくお願いします。いつも通り、「ゆーさん」でいいよ。
Dr.ゆうすけ:
twitterフォロワー数16,000人を超える、メンタルヘルスがライフワークの内科医。
身近な人の「生きにくさ」と触れあって感じたものをことばにするのが趣味で、こころのケアや、ネガティブ感情との付き合いかた、幸福観、豊かさなどについて、twitterやnoteにて発信している。
好きな言葉は「勇者とは、勇敢な者のことではなく、人に勇気を与える者のことだ」。
―― 今日はゆーさんと、累計500万PVを超えて、7/25(水)に書籍が発売された「本当の頑張らない育児」をベースに、お話できればと思っています。
書籍化、おめでとうございます。
500万PV、すごいね。ぼくも読みました。
―― ありがとうございます。たくさんの人が読んでくださってうれしいと思う反面、それだけ多くのかたが、育児の現実に悩んだり、苦しんだりしているんだということも改めて感じています。
「主人公の“わたし”を自分のことかと思った!」とコメントくださる方も結構いて。
「人に頼る」のがむずかしい理由
―― 特に、23話で育児や家事を頑張りすぎてしまう“わたし”に、妹が「本当の頑張らない」方法のひとつとして、『人に頼ること』を提案しているシーンがあるんですけど…
ここ、超いいですよね。
「人に頼る」って本当に大切。
―― メンタルヘルス的にも、「人に頼る」ってやっぱり大切なんですね。
大切大切!
―― 漫画のなかで「一人でやろうとせずいろんな人に頼りなよ」と言った妹に対して、主人公の“わたし”が、「そういうの一番苦手」って言いかえしているんだけど、この気持ち分かる人結構多いんじゃないかなあと思うんです。
編集部内でも、「私もそのタイプだから、人に頼ることがなかなかできない…」って人が何人かいて。
そもそも、「人に頼る」ことっていうのはすごくむずかしい技術なんです。
その中でもこの“わたし”のように、自分のことより人の都合や気持ちを先に考えてしまう優しい人や、自尊感情が低い人にとっては特にむずかしいと思います。
「こんなこと頼むなんて申し訳ない」という気持ちが勝ってしまって、援助要請ができないんですよね。
―― まさに主人公の“わたし”は、そういうタイプだと思う!
実際、うつや精神疾患になってしまった人の中で、医療機関に受診している人は3割程度だし、あれだけストレスフルな環境である学校でも、スクールカウンセラーの利用率は2.8%しかないと言われているんだよね。
根深い抵抗感というのが、やっぱりあるんだろうなぁと。
―― それは、「助けて」と声をあげることがむずかしいのか、そもそも自分が何に対して助けが必要なのかを気づくことさえむずかしい、ということなのでしょうか?
んー、気づくのもむずかしいけど、ぼくはマインドの問題の方が大きいと思っています。
「助けて」って言うことは、むしろ“人助け”
ぼくの友人である産婦人科医の吉田穂波先生が、「適切に人の助けを受けるのは、素晴らしいスキルである」っていう『受援力』という考え方を提唱しているんだけど。
―― 受援力、はじめて聞きました。
助けを求めることに対して、「弱い」とか「迷惑をかける」といったネガティブなイメージをもつ人もいると思うんだけど、吉田先生は『「助けて」って言うことは、むしろ人助け』と言っているんだよね。
―― 「助けて」って言うことが「人助け」ってどういうことでしょう?
ぼくもそうだけど、「助けて」と言ってもらえることは、自分が信頼されている証拠だから、嬉しいと感じる人は結構多い。
それに、先に「助けてもらった」「助けた」という経験を積んでいるからこそ、そこから互いに助け合う“互助の関係”がうまれやすくなる。
つまり、周りに力を借りられる人がいることで、みんなが生きやすい環境になっていくんだよね。
―― なるほど。
ぼくもこの考えかたにすごく賛成で。
最初に「助けて」って言えることって、まわりのみんなのハードルを下げて、安心を与えてくれる隠れたファインプレーだと思う。
だから、助けを求めたり、頼ったりすることは、むしろいいことだし、カッコイイことなんだというマインドを、まず前提にもてるといいよねと思っています。
―― たしかに、本当の頑張らない育児のなかでも、主人公や夫が他者に対して頼ることができるようになって、すごく関係や生活に変化がありました。
ぜひ今日は具体的な“頼りかたのヒント”を、ゆーさんに伝授してほしい!
「しょぼい頼みごと」をしておくいい
ぼくもそんなに得意な方ではないんだけどね(笑)。
まず頼るのがあまり上手じゃない人って、ヘルプ慣れをしていない人が多い気がしています。
援助を求めることそのものに慣れていない。
―― そういう人が、「手伝って」とか、「助けて」って急にお願いするのはむずかしいかもしれないですね。
「医師の53%は自らの心身の不調を他人に相談しない」って報告があるんだけど、わりと何でもできちゃう人とか、根性がめちゃめちゃある人とかほど、ヘルプを求めない傾向にある。
それは優秀さの裏返しだったりするんだけど、人に何かを頼らずにここまでやってこれてしまったから、頼りかたがわからないっていうのがあるんだよね。
そういう人が、本当にヘルプが必要になるときって、それまでに例を見ないほどに深刻な困りごとだったりするから、余計頼りにくい。
だから、ぼくはよく「“しょぼい頼みごと”を早めにしておくといいよ」ってアドバイスしています。
頼みごとを「小出しにする」、ってことをまずやってみてもらえると。
―― 例えばどんなことから始めればいいのかな。
生きていると、頼っても頼らなくてもできることのほうが多いよね。
そのどっちでもいい段階で人に頼むという経験をつむということなんだけど。
ほら、小学生の時とかにさ、気になる子がとなりにいる時に、シャーペン落としたりすると、本当は自分でも拾えるんだけど、ちょっとお願いしてその子に取ってもらったりするとか、そういうことあったでしょ。
ああいうレベルのやつ。
―― ……!! ゆーさんも、してたんですか(笑)?
ううん、ぼくは、教科書を忘れたフリをよくする子だった(笑)。
もちろん、ウソつかなくてもいいんだけど(笑)、トイレに行くときにちょっとだけ荷物を持ってもらったり、ほんの軽い頼みごとをしてみるというのはおすすめです。
そこで「あ、意外と、受け入れられるんだ」という感覚が得られると、頼ることのハードルが下がっていくので。
コミュニケーションの入口を変えると、結果が変わる
あ、あとは、「教えて」ってフレーズもすごく有効だと思います。
エドガー・シャインっていうぼくの大好きな組織心理学者が「謙虚なコンサルティング」っていう言いかたをしているんだけど、お互いにとっての望ましい動き方をするのに、こちらが「ちょっと教えてくれませんか」っていうスタンスをとることって効果的なんです。
ただ「やってもらう」のではなく、「やり方を教えてもらう」ことで、お互いのコミュニケーションのハードルが下がる。
「教えて」って言われてイヤな気がする人ってあまりいないからね。
―― たしかに、教えてって言われるとうれしいかも。
大好きな友人親子がこの方法でとても素敵なコミュニケーションを取っているんだけどさ。
「この時間までに保育園や学校に行ってくれないと、仕事も家事も回らない!」という日ってあるじゃない。でもそういう時に限って、なかなか子どもは思う通りに動いてくれない。
ぼくも子どもが3人いるからすごくその状況分かるんだけど。
そうすると、「早く!もう、いいかげんにして!!」みたいな感じになっちゃうことが多いと思うんです。
でも、その友人はね、「どうしよう、○○ちゃんがこの時間までに行ってくんないと、私ちょっと仕事に行けなくてめちゃくちゃ困っちゃうんだ。どうしたらいいと思う?」って、娘さんが3歳くらいの時から聞くようにしてるんだって。
―― 娘さんに「教えて」って相談するんですね。
そうそう。そうしたら、「しかたないなー。じゃあ、わたしが早く準備してあげたらいいんじゃない?」とか冷静に教えてくれるようになって。
他の場面でも、お母さんのほうが「助けてー」「教えてー」って頼りまくっていたら、娘ちゃんは「しかたないなー」っていろいろ助けてくれるようになったっていうんだよね。
そんな風にうまくいくことばかりじゃないと思うけど、コミュニケーションの入口をちょっと変えてみると、結果が変わることはあると思います。
「第三者」で関係性に安定を
―― 頼るためには、必ず“相手”という存在が必要だと思うんですけど、さっきゆーさんが教えてくれたみたいに「頼ることは悪いことじゃないんだ」と自分で思っても、その頼りたい相手がそう思ってくれていないと、頼りづらさがまだ残るよなあって思うんです。
そうだね、相手あってのことだから、まあむずかしいよね。
―― そうむずかしいですよね。そういう場合ってどうすればいいんだろう。
あ、でも、そのためにイベントやったりするんでしょ?
―― あぁ、はい。そうなんです(笑)。
相手に問題意識がない時に、それを問題だって思ってもらうのはかなりむずかしい。だから今回コノビーさんがするイベント、すごくいいなと思いますよ。
―― 第三者が入るのはいいと感覚的に私も思うんですけど、なんでいいんですかね?
関係が安定します。
特に、お互いが信頼している第三者に定期的に状況をシェアしたり、言いたいことを代わりに言ってもらったりするのは、関係を安定させる上でめちゃくちゃいい。
例えば、夫婦という関係であるからこそ、言えることもあれば、逆に言いにくくなってしまうことってあると思うんです。
でもそういう内容も、別の立場から言ったらそんなに苦じゃなく伝えられることって実は結構ある。
ワンクッションをいれることで、受けとる側の受けとりかたが変わるんだよね。
これは夫婦に限らず、お父さんに直接言いにくいからお母さんに先に言おうとか、仕事でも本当に伝えたい相手に言う前に、まずこの上司に相談してみようとかってあるでしょう?
それと一緒。
―― ワンクッションするっていう役割もあるし、あとは新しい視点をいれる、という点でもいいのかなと思うんですけど、どうなんだろう。
本当の頑張らない育児の中でも、主人公の“わたし”は妹から、パートナーの“夫”は会社の後輩から、それぞれに気づきを得てそれを自分たちの関係性や暮らしに反映してるんです。
二人だけの関係に閉じないで、依存先を増やしていくことが本当に大事だと思うよ。
ただ、その第三者がどっちかに肩入れしすぎて負の影響を受けることもありうるから、ふたりの関係を維持するのにいいと思える誠実な信頼できる人を選ぶというのも大切だと思います。
自分の感情を自覚して、忠実に生きる
―― でも、本当に信頼できる人を見つけるのって、けっこう難しい気がします。
本当にそうで、「こういうことで困ってる」って勇気を出して打ちあけてみても、誠実に対応してもらえないことだって正直あると思います。
でも、ぼくが尊敬する精神科医の先生が「『頼れる人に出会える確率はだいたい3分の1』。何度も受けいれてもらえないと「信頼できる人なんていないんだ」と思っちゃうかもしれないけど、サイコロを振って「1」の目が出つづけることがないのと同じように、次頼った時には、それに心からこたえてくれる信頼できる人に会えるかもしれない」って言っていてね。
だからもし仮にそういうことが連続してあったとしても、そこであきらめないでほしいなと思うんです。
まだ「本当に信頼できる人」に出会えていないだけかもしれないから。
―― たしかに同じ経験でも、そういう風にとらえると全然ちがいますね。
ぼくは、本当の頑張らないって「嘘をつかないでいられる」ことかなって思うんです。
自分の感情を自覚して、それに忠実に生きられるっていうこと。
そのためには、調子がいい時ではなくて、本当に弱った時の自分の本音を受けいれてくれるような、安心できる人とのつながりをどんどん強くしていけばいいんじゃないかと思っています。
それに、信頼できる人のそばには、信頼できる人がいることが多い。
その人ひとりに出会ったきっかけで芋づる式に頼れる人が増えていって、人間関係が一新されることもけっこうあるんです。
だから、人に頼ることはリスクに感じることもあるかもしれないけど、そのリスクを越えた先に得られる生きやすさはとても大きいよ、ということはメッセージとして伝えたいですね。
取材・ライティング: コノビー編集部 三輪ひかり
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