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公開 2018年08月10日  

親より友達。もう、そういう年頃なんだね。/娘のトースト 1話(2ページ目)

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小学生最後の春休み。友達と遊びに出かけた唯を見送り、部屋の片付けをはじめた母の庸子は、一枚の紙くずを拾う…。


唯の部屋


「お昼には帰ってくるねー」

「いってらっしゃい。気をつけてね」

勢いよく飛び出していく背中に声をかけ、手を振った。

さて、やらなきゃいけないことはたくさんある。たまっていた洗濯物を終わらせて、布団も干して。そろそろ真冬のコートもクリーニングに出しておきたい。

「まずは掃除から」と、私は物置から掃除機を取り出した。朝昼はまだまだ冷えるけれど、日中はもうだいぶ暖かい。

家中の窓を開け放して、全ての部屋に掃除機をかけて回る。リビングとキッチンを済ませ、次に唯の部屋に入る。

部屋はわりと片づいていた。

壁には、4月から着る中学の制服がかけられている。しばらくの間それを眺めてから、私は掃除機のコンセントを入れようとしゃがみ込む。

なんだこれ?

親より友達。もう、そういう年頃なんだね。/娘のトースト 1話の画像1


破ったノートか何かかと思ったら、ちゃんとした便せんのようだった。唯の好きな、きれいな水色をした紙。手に取ると、なにかが書かれているのがわかった。

ほんの少しのためらいはあった。でも、「ダメ」と思う前に、もう指先が動いて、丸められた紙を開き、目はそこに書かれた文字を追っていた。

すぐに目に入ったのは、最後の「唯より」という文字と、中ほどに書かれた「大好き」という文字。ラブレターだ、と思った瞬間、手紙の最初に書かれた宛名が目に入った。

「ママ?」

声がして、振り返ると、出かけたはずの唯が部屋の入り口に立っていた。

走って戻ってきたのか、肩で息をしている。私は身動きできないまま、張り詰めた表情の唯を見る。今まで見たことがない表情。見開かれた目は、手紙を握る私の手元だけを見ている。

その手紙に書かれた宛名の文字が、私の頭から離れない。丁寧に書かれた宛名。確かに、唯の文字で。

「ありさへ」

手紙は、唯となかよしの「女の子」の名前ではじまっていた。

次回、「この後ふたりは、どんな会話をしたのか?」

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※ この記事は2024年11月08日に再公開された記事です。

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