おーなり由子さんのイラストエッセイ『こどもスケッチ』(白泉社)より、ママやパパがひとときほっと笑顔になれるようなお話を、3回にわたりご紹介。
第2弾は、こどもが生まれると変化のある食事風景を優しくきりとった「おにぎりな日々」というお話です。
子どもが生まれて、“おにぎり”が特別なものに変わった。
21,077 Viewおーなり由子さん著作『こどもスケッチ』(白泉社)より、子育てエッセイを3回にわたりお届けします。(編集:コノビー編集部 三輪ひかり)
おにぎりな日々
あつあつのごはんを、
ぎゅっ、ぎゅっ、ころん――。
子どもが生まれてから、しょっちゅう
おにぎりをにぎるようになった。
もともと、おにぎりが大好きだったけれど――
今や、わたしにとって、おにぎりは特別な食べ物。
はじまりは、おっぱいの頃。
あっという間におなかがすく自分用だった。
なんというか、お乳の原料。
片手でさっと食べられるのが便利で、
雑穀入りや五目ごはんを炊いて、
一日分をころころにぎった。
おなかがすいたら、いつでもパクリ。
あーおにぎりって、
なんて素晴らしい食べ物だろう、と思った。
離乳食が終わって、
ごはんが食べられるようになったら、
さっそく子どもにもにぎった。
初めての子ども用は、
口に入れやすいように細長おにぎり。
指先でちょんちょん、ぎゅっ。
ごまをふったらできあがり。
ちいさい手が、ふわっとごはんを持って
「だいたい口はこのへん――」
という感じで、そっと口の穴に押し込む一瞬、
その指が愛らしくて、見とれた。
子どもが食べるのなんて、
ほんのちょこっとだったけど、
作ったものを食べてくれるのって、
ほんとうにうれしい。
エサをはこぶ親ツバメのような気分。
あの幸福は、大昔から
人間の遺伝子のどこかにもある気がして。
そうして、子どもが歩くようになったら、
ますます、おにぎりの日々になった。
まだまだ「ちっちゃ!」と、笑ってしまうような
ミニおにぎりだったけど、作っておけば、
突然の「おなかすいたー」の時、
おやつのかわりになるし、
なんといっても、出かけたくなったら、
さっとカバンにつめて持って行ける!
わたしはせっせとにぎった。
思えばあの頃は、家よりも、
外にいる時間の方が長かった気がする。
歩きはじめは、ちょっと目を離したスキに、
机の角で頭を打ったり、手をはさんだり。
家の中は危険だらけ。
ふたりだけの時は自分の目しかないなんて、
大変なことだなあ、と思った。
核家族の子育てって、みんなもう無理なことを
だましだましやってるだけなんだ。
ちっとも知らなかった――と、途方に暮れた。
でも、途方に暮れていてもしょうがないので、
晴れた日は外に出かけるようになった。
そう、おにぎり持って。
遊びに夢中でお昼に帰れなくても、
おにぎりがあれば大丈夫。
公園でもどこでも、気楽なところへ――。
毎日がピクニック。
いつのまにかおにぎりは、
わたしの「おまもり」みたいになっていた。
広々とした、やわらかい草や土のあるところに、
ちっちゃい子を放つと、家の中よりしっくり。
親ものびのびとする。
子どもらは、小犬みたいに走りまわって、
うっかり転んでも、あーんと泣いた声が、
ひかる青空に、すいこまれていく――。
ある日、お母さん友だちと待ち合わせて、
朝から公園に行った。
芝生に子どもを放って、
おひるごはんのおにぎりをほおばっている時、
友だちが言った。
「わたし、今までの人生で、
これほどおにぎりをにぎってる時は、ないかも――」
思わず「そうそう! わたしも!」と
身を乗り出し、しみじみと言ったその言葉に、
すごく幸せな気持ちになった。
「家の中は、めちゃくちゃだけどねえ」
ふたりで笑った。
あーんと泣いていたお口が、
おにぎりをもぐもぐ食べて、
鼻水と涙のついた顔で
「もういっこ」と、手をさし出す。
あー、この手と一緒に、
おにぎりも大きくなったなあ、
なんて思ったりして。
これからもまだまだ、おにぎり、ころん。
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