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公開 2018年09月21日  

息子はわたしの未熟さを、あっさりと許してくれる。

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おーなり由子さん著作『こどもスケッチ』(白泉社)より、子育てエッセイを3回にわたりお届けします。(編集:コノビー編集部 三輪ひかり)



おーなり由子さんのイラストエッセイ『こどもスケッチ』(白泉社)より、ママやパパがひとときほっと笑顔になれるようなお話を、3回にわたりご紹介。

第3弾は、子どもを叱ってしまった時のエピソード「いったり、きたり」です。

いったり、きたり


「いってきまーす」の時間に
子どもを叱ってしまった時は、がっくり。
  
この時間帯だけは穏やかに、といつも思うのだけど、
今朝も学校に行く直前、玄関で、

「そうや、おかあさん、エプロンってある?  
今日、つかうねん」。

さらっと言うので、むむむ、となった。
急には無理。
「もう忘れて行き!」 

何度目かのことだったので、
いろいろ言ってしまった。
 
言い過ぎたかなあ。

気配の消えた玄関でひとり沈む。
半べその悲しそうな顔を思い出す。

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言い方が良くなかったかな。失敗。
あーあ、未熟な母だ。

毎日毎日、忘れ物やら失敗やら困りごとが、
波のようにざぶんざぶんと寄せてはひいていく。

そのたびに、わたしは、いきあたりばったり。

立ち止まって、ふと思う。
もしかしたら子どもに
正しい事ばっかり言い過ぎているかも。

ルールを伝えるのは
親の役目のひとつかもしれないけど、
時々その役に嫌気がさす。

正しいことを言うのって、すごーく簡単。

でも本当は、
そんなに割り切れないもんなあ。

日々の大半はわけの分からないことでできていて、
正しくも正しくなくもない。

日々の大半は言葉にならない気持ちでできていて、
その気持ちには、
うれしいとか悲しいとか呼び名すらない。

自分が正しい話をするたびに、
いいかげんな自分に、「そんなこと言える?」と、
目に見えない誰かが
横から意地悪くささやく気がする。

正しさからこぼれ落ちる気持ちの中に、
愛しいものがいっぱいあるのに。

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今朝のことを、おかあさん友だちに話すと、

「朝、多いよねえ。そういうこと。
わたしも時々言い過ぎちゃう。
おこりたくないけど、ほったらかしもできなくてさ。

でもさ、考えてみれば忘れ物とかさ、
たいしたことじゃないんだよね。
元気だし、全然それだけでじゅうぶんっていうか、
ほんと、ほんとにさ、
たいしたことじゃないんだよね。
おこってることって」

胸をひらくように言ってくれたので、
笑って「そう、そう」とうなづいたら、
なにか、すっと明るい気持ちになった。

「わたしね、うちの母親に言われたんだ。
出かける前は、おこっちゃだめだよって。
出かけたあと、本当に、人間には何があるか、
わからないからって」

すごーくわかる。

大げさだけど、こどもを見送る時はどんな時でも、
無事に帰ってきますように、と願う。

帰って来るのがあたりまえみたいになっているけど、
時々、奇跡のように思う。

ここまで大きくなって自分で歩いて、
元気で、面白い話もしてくれて――

すごい。忘れてはいけない。
最大の望みはもう十分、かなえられている。

「いいこというなあ。おかあさん!」

「でも――わすれるよね」

笑った。
怒ると叱るは違うというけれど、
常に冷静な母なんか信じない。

大事だから、心がゆさぶられる。
おろおろ、どきどき。
みっともないこと、てんこ盛り。

でも、どんなことで人が腹をたてたり
悲しんだりするか。

それを知るのは、身近な家族の反応からだから、
素のままでいいや、って思うけど、
子どもに自分がどう映っているのか、
残念ながら、ぜんぜん自信がない。

「おかーさーん、おかあさあん」

あっという間に午後になって、
息子が帰ってきた。

あかるい声でガラス窓をたたく。
目があうと、にっこり。

朝のことなんか、けろっと忘れている。

入ってきてカバンを放り出すと、
わたしの膝の上に頭を乗せて、ごろごろしながら
学校であったことを色々と話しかけてきた。
うれしそうに笑って。

やわらかい手のひらで
わたしの腕をぺたぺたさわる。

わたしの未熟さなんか、
あっさりと許されている。

ああ、またもや――
愛されているのはわたし。

話しているうち、わたしの中に
あたらしい虹がかかる。晴れ間がのぞく。

大人も子どもも、
こうしたいと思いつつできないことだらけ。

失敗は日常。
失敗してやり直して、また一緒に笑う。

愛しさは、いつも、いったりきたり。
いったりきたりして、紡がれていく。

それにしても、子どもは――
いつでも、ほんとうに愛するのが上手だなあ。


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※ この記事は2024年10月03日に再公開された記事です。

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