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公開 2018年08月24日  

検索、検索、検索…。何が知りたいのかな、私。/ 娘のトースト 3話(2ページ目)

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唯との関係に行き詰まってしまった庸子。少しでも唯の気持ちを理解しようと、スマホを片手に検索に没頭する。


唯の宝箱

「そろそろ母の日で忙しくなるし、悩むのもほどほどにしないとね。一度、正直に話し合うのが一番かな」

中村さんは何度か頷きながら、「そっか、母の日か。じゃあ、今日はカーネーションをいただいていこうかな」と、お茶を飲みほした。

「いつもありがとうございます」

いえいえ、と言って、中村さんは片づけをはじめる。

私もテーブルの上の書類をしまおうと、手を伸ばす。

「そういえば、唯ちゃんの宝箱ってありましたね」

思いついたように中村さんが言った。

え、と私が手を止めると、面白そうな顔で続ける。

「ほら、小さい頃、唯ちゃんが隠していた箱。大事なものをたくさん入れてた」

「ああ、あったあった。なんか、ガラクタばかり入ってたヤツでしょう?」

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「リボンの切れ端とか、ペットボトルのフタとか。死んじゃったダンゴムシも入ってて、ビックリしたなあ、あれ」

突然なんだろうと思いつつ、私も笑う。

「あの時、庸子さん、『何これ』って言って、全部また箱に入れて、元どおりに隠したんですよね。『よくわかんないけど』って言いながらも、なんか楽しそうに」

中村さんは、しみじみと思い返すようにそう言った後、首をかしげる私に向かって、「カーネーション、何色にしようかな」と、にっこり笑ってみせた。

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変化の兆し

いくら検索したところで、唯のことがわかるわけじゃない。

そう気づいた私は、やたらにネットを見ることをやめにした。似たような記事ばかりで、ちょっと疲れてきたのもある。

唯と早く話し合わなければいけないという気持ちも、保留にすることにした。

無理に話しかけたところで、イヤな顔をされるだけだし。

そう思うようになってから、どことなく唯の態度もやわらかくなった気がする。

私の気持ちの変化が伝わっているのかもしれない。

きっと、そうだ。また元のような親子に戻れるのも、そう遠くはないはず。

その予感が勘違いじゃないと実感したのは、ある朝のこと。

いつものように、朝起きてリビングに入ると、すでに唯がキッチンに立っていた。

鼻歌まじりにガスコンロでトーストを焼いている。ずいぶん機嫌がいい。

「おはよう」と声をかけると、すぐに「おはよう」と返事があった。

少し戸惑いながら、冷蔵庫に手をかけると、今度は唯の方から口を開いた。

「焼く?」

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驚いて顔を見ると、唯は、何でもないことのように「どうせだから」なんて言っている。

私は、軽く咳払いをして、涙ぐみそうになるのをごましてから、「じゃあ、お願い」と、返事をした。



次回、「久しぶりの唯のトースト。平穏な朝食がしばらく続いたある日、庸子の気持ちを揺さぶる出来事が…」

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※ この記事は2024年11月18日に再公開された記事です。

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