宝箱の話をしてくれた中村さんを思い出して、私は大きくうなずいた。ほんとに、その通りだ。
朝食後、唯が皿洗いをしてくれるというので、私は洗濯をすることにした。今日の天気だったら、洗濯物もあっという間に乾きそうだ。
洗濯機に洗濯物を放り込み、キッチンに戻ると、まだ皿を洗っている唯が「ねえ、ママ」と呼びかけてきた。なんだか甘えた声だ。
「お店、手伝うからさ、ほしいものがあるんだけど」
「えー、そういうこと?」どうりで。皿洗いまですすんでやってくれるなんてめずらしいなと思ったら。
「ほしいものって、なによ?」
私が聞くと、唯は「あのねー、浴衣。夏祭りに着ていきたいの」と言った。
「去年に着たのあるじゃない」
「もうちょっと大人っぽいのがいいんだってば」
なるほど。気持ちはわからなくもなくて、「じゃあ、今度見に行こうか」と返事をしたら、唯は「あのね、あとね」と続けた。
まだ何かあるの? と、言いかけて顔を見ると、目が合った唯は、あわてたように泡まみれの手元に視線をそらした。
「夏祭り、一緒に行こうって、言ってもいいと思う?ありさに」
口ごもりながら聞く唯を見て、私は大雨の車内での会話を思い出す。
あの時は、とっさに「アドバイスしてあげる」なんて言ったけど、本当に相談してくれるなんて。
私は、愛おしさで口元がほころぶのをそっと隠し、とっておきのアドバイスをしようと、口を開いた。
公開 2018年09月28日
「この子にしてやれることは何だろう」娘の背中に想った/娘のトースト 最終話(2ページ目)
10,823 View中村さんの式を経たある日の朝、唯から庸子にお願いごとがあるという。それは、ここ数ヶ月お互いの関係に悩んだ母娘の「再出発」にふさわしい内容だった。
※ この記事は2024年10月13日に再公開された記事です。
#キーワード
おすすめ記事