父親と母親という家族は、息子にとって大切な存在でありたい。
また、友だちであれ恋人であれ師匠であれ、息子には家族のほかにも大切な人ができるだろう。
息子自身もいずれ家族を持つかもしれない。
身近で味方で、いちばん心を許せる相手が家族でありたいけれど、僕は伝えておきたい。
たとえ家族でも、「黙っていてもわかりあえる」なんてありえないと。
いくら親しくても、自分の言葉で相手に気持ちを伝える方法を、息子に知ってほしいから。
息子に知ってほしいのは、相手に気持ちを伝える方法。
39,871 Viewガンで余命宣告を受けた35歳の父が、2歳の息子に伝えたい、大切なことを記した書籍『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)。写真家・幡野広志さんの尊いメッセージを、ご提供いただいたお写真(奥様撮影)とともに、2つの記事でご紹介いたします。
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これはガン患者の「あるある」だが、ガンになると身近な人の言葉で苦しめられる。
僕も例外ではなく、身内の言動がきつかった。
悪気がないのもわかるし、ちょっとしたことなのだが、嫌なものは嫌だ。
たとえば僕が、「残りの人生をどう使うか」という話を妻にしようとしたときのこと。
妻は答えたが、ちょうどテレビを見ていて、画面を向いたままだった。
もしかすると妻は、僕の残りの人生の少なさに向き合うことが怖かったのかもしれない。
僕はメンタルもしっかりしていたし、鎮痛剤も使っていたから、見た目は元気そうだったのだろう。
毎日顔を合わせているから、つい病気のことを忘れて、健康なころと同じテンションで接してしまったのかもしれない。
だが、僕にしてみれば急激に体調が悪くなっていて、心も落ち込んでいる。
だから大事な話がしたいのに、テレビを見たままの妻にいらっとした。
妻は妻で、夫が突然ガンになってしまったのだから、ストレスがたまるのも当然だ。
それで喧嘩のようになり、そのあと僕はかなり落ち込んでしまった。
僕なりに考えて、その後、妻にははっきり伝えるようにした。
たとえば妻には昔から、「すごく悪いニュースがあるんだよね」と言う癖がある。
話を盛り上げるためのただの口癖で、健康なときは、「どうせたいしたことじゃないんだろう」と余裕で聞いていたのに、今のメンタルになると、深刻に身構えてしまう。
だから毎回、「そういう言葉はやめてほしい」と強くストレートに言う。
きつい物言いに妻が傷つくという気遣いや、家族なら言わなくても察してくれるはずだという甘えは、余計にことをややこしくするだけだから。
はっきり言うことで、妻と一瞬気まずくなるが、それが怖くて言わないでいたら、関係自体が悪化してしまうだろう。
息子には、言葉できちんと伝えられる人になってほしいから、親である僕と妻が、言葉できちんと伝えられる人にならなくてはいけない。
暴力を振るうことでしか思いを伝えられない親を持つ子は、思いを伝えるために暴力を振るってしまう。
親の振る舞いは連鎖していくのだ。
息子には、「言葉で伝える人になってほしい」と教えるのと同時に、「いくら伝えてもすべては理解してもらえない」ということも知っておいてほしい。
誰よりも自分を理解できるのは自分以外になく、答えは自分で出すしかない。
自分を救えるのは、自分自身。
そのちょっときつい事実を、しっかり引き受けて生きてほしい。
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