「ねえ、この子を産むときには娘も立ち会いさせたいんだけど……。」
二人目は里帰り出産をすることにしました。
夫はシフト制の勤務のため、私の入院中や産後に娘の保育園送迎をすることは難しいし、万が一、娘と私が二人きりの時に産気づいたとしても近くに預け先もない。
私の実家は両親と祖父母がいるので、何かあっても娘が一人になることはないだろうと考えての決断でした。
(自宅の近くに移転してきたばかりの、新しく綺麗で、ご飯も美味しくて、NICU併設の総合病院で出産したいという私の夢は妊娠2か月で打ち砕かれることに……。)
里帰り先の産婦人科で20週の妊婦健診を受けた時に子供も立ち会い可能と言われ、私は娘を立ち会わせる気満々。
娘を出産した時は夫も立ち会ったので、夫も同じ気持ちだろうと思い相談すると、意外な答えが返ってきました。
「娘を立ち会わせてもいいけど、俺が間に合わなかったらどうするの?」
(そうだった。娘を出産した時は初産とは思えないスピード出産だった……!)
娘は自宅から徒歩10分の産婦人科で出産しました。
出産予定日の4日前、朝に何か冷たい感触を感じてトイレに行くと、なんと破水!
そのまま病院へ行って入院するも、子宮口は開いておらず、陣痛もなく。
美味しい昼食も完食し、午後になっても陣痛は来ない。
15時を過ぎた頃、急にお腹が痛くなり、(あれ?これ陣痛かな?)と考えている間に、どんどん痛みが強くなり、痛みの合間にトイレに行こうとしたら、ベッドから降りて数歩のところで痛みで立ち上がれなくなる私。
そこへタイミングよく様子を見に来てくれた助産師さんに抱えられ、分娩室へ直行、18時前には夫立ち会いのもと、娘を出産。
陣痛開始から出産まではほんの2~3時間の出来事でした。
今回は里帰り出産ということもあり、自宅から出産する産婦人科までは車で1時間。夫の勤務先からだと車で1時間半。
夫と相談して、夫が出産に間に合い、なおかつ娘が起きている時間帯だったら立ち会うことにしようと決めました。
二人目もギリギリまで働いて、年末から産休に。
妊婦健診も毎週になるし、二人目だから早く産まれるかもしれないし、お正月に帰省するのに合わせて、私と娘はそのまま里帰りすることにしました。
実家で両親と祖父母に甘えて娘とのんびり過ごしつつ、正産期に入ってからは予定日よりも早く産まれるのではないかと毎日ソワソワ。
……が、待てど暮らせど出産の兆候はやってこない。
満月を調べてみたり、某栄養ドリンクを飲んでみたり、スクワットをやってみたり、いろいろと試してみたけれど、こないものはこない。
なぜか二人目は早く産まれるだろうと思い込んでいた私の気持ちとは裏腹に、出産予定日を迎えました。
そして予定日翌日の早朝、冷たい感触で目を覚ましてトイレへ。
(破水かな?)と思ったけれど、娘を出産した時のようにずっと羊水っぽいものが出ているわけではなく、破水かどうか自信が持てない。
寝ている母を起こして相談すると、「外は大雪だからもし何かあってからじゃ遅いし、一度病院に行ってみよう。」と。
病院に連絡してこれから向かう旨を伝え、父を起こして車が出せるように雪かきをしてもらっている間に、私は娘を起こして身支度をさせました。
「赤ちゃんが産まれるかもしれないから病院に行くよ。」と言う私に、「娘ちゃんも一緒に行ってあげるね。」と心強い言葉をかけてくれる娘。
すぐに出産になるかどうかも分からなかったので、夫には「破水したかもしれないから一応病院に行く。」とだけLINEをしておきました。
そこから父の運転で除雪前の雪道を50分かけてようやく産婦人科に到着。
あの冷たい感触はやはり破水でした。
でも内診した先生は「子宮口はまだ全然開いてないし、今日中に産まれるかもわからないね~。」と。
両親にまだ時間がかかりそうだと伝えると、一度娘を連れて帰宅して朝食を済ませ、母が家事を片付けてからまた来ると帰っていきました。
夫からも電話があり、「会社に休みをもらったからこれから準備して向かうけど、雪道だから時間がかかるかも。」と。
病室には私一人。
外は深々と雪が降り続き、心細さを紛らわせるためにつけたテレビと胎児モニタの音だけが響き渡ります。
母が帰る前に近くのコンビニで買ってきてくれたおにぎりを頬張りながら、ぼーっと朝の情報番組を見ていると、
(あれ?お腹が痛い気がする。)
モニタを確認すると、どうやら10分間隔で陣痛が来ているよう。
「陣痛始まったかも~。まだ10分間隔だけど。」
家事をしているであろう母と、運転中であろう夫にLINEを送ってみますが、案の定どちらも既読はつきません。
そこからは本当にあっという間でした。
モニタに表示される陣痛の間隔が、10分、7分、5分と短くなっていき、痛みもどんどん強くなっていきます。
ベッドの柵を握って痛みに耐え、痛みの合間に水分を補給して母と夫にLINEを送りました。
「陣痛の間隔短くなってきた。もしかしたら今日中に産まれるかも。」
「陣痛5分間隔になった。思ってたより早く産まれそう。」
陣痛の間隔が3分になったところで、助産師さんがやってきました。
「モニタ見てたら陣痛3分間隔みたいなんだけど、ちょっと見せてね。」
「あ~子宮口開いてきてるね。分娩室に移動しようか。歩けそう?」
「あ、母子手帳とガイドブック(産婦人科で配布されたもの)持ってね。」
指示されたとおりに母子手帳を持とうとベッドから降りて、ロッカーの中に入れた鞄を出した瞬間、すさまじい痛みが襲ってきてそのままうずくまってしまう私。
助産師さんが声をかけてくれましたが、答える余裕もなくただただ痛みに耐えていると、いつの間にか助産師さんが車いすを持ってきてくれていました。
抱えられて車いすに座らせてもらい、そのまま分娩室へ。
さぁ分娩台に乗ろうと、助産師さん二人に両脇を抱えられた瞬間違和感が……。
「えっ、今なんか出た感じがします!」
私の発言に慌てる助産師さんたち。
なんとか分娩台に横になると、内診した助産師さんから驚きの言葉が……。
「もう頭出てきてる!」
点滴をされたり、酸素マスクをされたり、もう何がなんだか分からないうちに「はい、お母さん、いきんでいいよー!」
言われるがままにいきんだ瞬間、すぽんと息子が産まれてきました。
娘を出産した時のような涙があふれ出るような感動はなく、あっという間の出来事にただただ呆然とする私。
会陰縫合や、息子の計測が終わったタイミングで、夫と娘が分娩室へやってきました。
夫は産まれたことを知らないまま病院に着いたため、ナースステーションで「おめでとうございます!」と言われて一瞬意味が分からなかったそうです(笑)。
産まれたばかりの息子を見た娘が「わぁ~赤ちゃんかわいい……!」と目を輝かせていて、そこで初めて息子が産まれたことを実感して涙が出ました。
破水した時にすぐに夫に電話して出発してもらえば……。
病院に着いたときに両親と娘に帰らず待っていてもらえば……。
と考えたりもしましたが、立ち会いは出来なくても娘は息子のことをとてもかわいがってくれているので、これはこれでよかったのだと思います。
・ライター:ジャスミン