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公開 2015年05月14日  

日本の帝王切開率は高い?低い?

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2015年4月に世界保健機関(WHO)から、医学的に適応が無いにも関わらず帝王切開を選択する例が多すぎる事に対し警鐘が鳴らされました。はたして日本の帝王切開率は、高いのでしょうか?低いのでしょうか?世界の帝王切開率も含め考察します。


日本の帝王切開率は?

日本の帝王切開率は年々上昇傾向にあります。平成23年9月の厚生労働省の統計によると、日本の帝王切開率は19.2%という数字でした。下に厚生労働省が発表した、一般診療所及び一般病院における分娩件数と帝王切開率の推移を示します。

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特にハイリスク症例を多く扱う一般病院における帝王切開率が顕著に増加している事がわかります。現在日本の妊娠動態は、以下の図表が示すように妊娠の高齢化や生殖補助医療により妊娠中のリスクが増加しています。さらに女性一人当たりが一生で産む子どもの数を示す合計特殊出生率が低下し、出産する子どもがやっと授かった貴重児であるケースも増えた背景があります。

【平均初産年齢の高齢化】

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【1人あたりの女性が一生に生む子どもの平均数である合計特殊出生率の低下】

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【生殖補助医療による妊娠の増加】

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WHOの提唱している数字は、日本の現状に即しているのか?

さて、日本の帝王切開率を考察する上で多く目にするのが【WHOが提唱している適正な帝王切開率は10-15%である】という1文です。この数字について考察してみます。実はこのWHOが提唱する数字は、1985年に算出されたものです。実際に臨床現場で働いている身として、1985年の産科医療と、現在の産科医療を同じ基準で語られるのは非常に違和感を感じます。



先ほどの初産妊婦の高齢化や合計特殊出生率の低下だけでなく、医療技術の発達により、以前では助ける事が出来なかった児を救命出来る様になった事や、帝王切開手術の安全性も全く異なるからです。特に新生児医療の発達は目覚ましく、切迫早産の定義が1979年から妊娠28週であったのが妊娠24週に変更され、さらに1993年からは妊娠22週以降とさらに早くなり、現在日本では、世界で最も早い週数の児が帝王切開により分娩となり、多くの児が救命されているのです。



その様な時代や国ごとの背景や医療水準により、適正な帝王切開率は大きく変動するため、WHOには現在の医療水準に即した適正な帝王切開率を提唱し直して欲しいと思います。しかしながら今回提唱されたのは、【世界で帝王切開率が異常に増加している!】というものでした。一体何故WHOはこの様な警鐘を鳴らさなくてはならなかったのでしょうか?

世界で急増する【医学的に不要な帝王切開】

さてWHOの警鐘の意味を考えるために、世界の帝王切開率を見てみます。アメリカ30-35%、ヨーロッパ諸国20-40%、韓国40%、アフリカ3.8%等々、世界の帝王切開率はかなり開きがある事が分かります。さらに中国では50%以上が帝王切開による出産で、地域によっては80%を超えるとも言われていますし、ブラジルでは2000年から2010年にかけて37%から53%へと異常な帝王切開率の上昇を呈しています。



この背景には、各国の帝王切開に対する考え方、診療報酬の違い、貧富の差等、様々な要因が複雑に絡んでいます。しかしながら本来帝王切開が医学的に必要かどうかを中立的な立場から判断すべき産科医が、急増する帝王切開率に歯止めをかけなければならないのですが、どうもそうでも無い様で、なかなか根深い問題です。



ただ、世界の帝王切開率から考察すると、医療先進国でありリスクの高い妊娠やお産が多い我が国における帝王切開率は、異常に高い訳では無いと言えそうです。

まとめ

帝王切開率の世界共通の適正水準を決める事は、各国の事情が全く異なる事もあり非常に難しいと言えます。ただし本記事の例に示したいくつかの国の様に、明らかに帝王切開率が高すぎる地域も存在するため、WHOは今回の警鐘を鳴らさざるを得なかったのだと思われます。

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