我が家には、小学校1年生の男女の双子がいます。
双子といえど、二卵性双生児で1分差で生まれた姉と弟は、外見も似ていなければ内面も似ていない。
まさに姉と弟が一緒に生まれた状態です。
小さい頃から「2人の異なる人」に対応することは、双子の母となった私にとって試練でもありました。
同じことを同じようにすれば良いわけではない。あたりまえのようなことですが、これは結構難しいのです。
特に娘は繊細で完璧主義なところがあり、息子と比べると些細なことを気にすることが多くありました。
例えば双子がケンカした場合、スッと気持ちを切り替えて他の遊びを始める息子に対して、娘はイライラが続く。
保育園でも学校でも、「嫌なことがあった」と口にする機会が多いのです。
誰かに嫌なことや困ったことがあったとき、我が家ではみんなで話を聞く機会を設けているのですが、その中で分かったことがあります。
娘は嫌なことがあると、そのことが頭から離れない。
一方の息子は、嫌なことがあったら、そのことはもう考えない。代わりに楽しいことを考えたり、おもしろいことを考えたりする。
2人の思考は、こんなにも違っていたのです。
正直なところ、双子でもこうも違うものなのか…と驚きました。
そして、私自身が息子寄りの思考のため、娘に「嫌なことはもう考えなきゃいいんじゃない?」「もっと他に楽しいことを考えてみたら?」「もう忘れなよ」と言ってしまっていたことに気が付きました。
もし娘が私の友人だとしたら、私はこんな言葉をかけるだろうか。
娘に対し、言われても嬉しくないであろう声がけばかりをしてしまっていたのではないか。
そんな風にこれまでのことを省みて、「娘の思考は娘の個性。でも、気持ちを切り替える方法が見つかるといいな」と思うようになりました。
そんな双子たちですが、この夏2人たっての希望で、子どもたちだけで私の実家に帰省することになりました。
小学生になって初めての夏休み。
1ヶ月間も家から離れて過ごすことに不安はありつつも、保育園卒園から学童に通い、いきなり小学校生活をスタートして4ヶ月を駆け抜けた双子たちへのプレゼントの意味も込め、実家へ送り出すことにました。
夏休みも終わりに近づき、1ヶ月ぶりに迎えに行くと、そこには少し背が伸びた双子がいました。
ラストスパートで宿題に取り組み、国語の教科書の音読をしていると、娘がどうしても上手に読めない箇所がありました。
何度読んでも、同じところでひっかかってしまうのです。
スラスラ読めない自分に対するイライラと、音読カードの「上手に読めた」という欄に◎がもらえないのではないかという苛立ちで、娘は涙目になっていきました。
かたや息子は、間違えてもあまり気にせず読むという、全く違うスタイルの音読。
私は1ヶ月ぶりの双子育児、それも「全く異なる人を同時に育てているのだという感覚」を痛感しました。
これまでの経験上、娘は感情が抑えきれずに泣き出すか怒り出すだろう。涙を浮かべながらジッと国語の教科書を見つめる娘に、なんて声をかけよう。
そう思った矢先、娘が突然、小声でなにかをつぶやきました。
「はらたったー!ムシムシ!」
私は意味が分からず、しばらく娘を見ていると、もう一度「はらたったー!ムシムシ!」と言いながら謎のポーズをしていたのです。
「なにそれ?」と聞いてみると、「おばあちゃんに教えてもらったんだ。嫌なことがあったら、ムシムシって言えばいいって。」とのこと。
そして、また音読を再開したのです。
こんな娘は初めて見ました。
こんなに上手に気持ちを切り替えたところを見たことがなかったので、驚いたとともに、そんな言葉がどうやって生まれたのかが気になりました。
娘は、こんな話をしてくれました。
ある日、娘と息子が些細なことでケンカをした時のこと。
いつものようにイライラしている娘をみて、私の母が「いつまでも腹を立てていても楽しくないから、そんな気持ちはどこかにやったほうがいいよ。」と言いました。
…と、そこまでは、私がいつも娘にしている声かけと同じです。でも、その後の行動に秘密がありました。
母は手をお腹にあてて、「腹たったー!(たぬきの置物の大きなお腹を上から下になでるような動き)ムシムシ(首を振りながら、頬の横でシッシッと手を払う動作)」として見せたそうなのです。
この言葉が、娘にまさかのクリティカルヒット!
娘はこの言葉と動作をすることで、嫌な気持ちをシッシとし、「自分の中からあっちへいって」と放念することができるようになりました。
私には到底思いつかない言葉に驚きつつ、母に子育ての極意を教えてもらったような気がしました。
思い返せば、母は子どもを楽しい気分にさせるのが上手。
きっと小さいころの私もそうやって育ててもらったからこそ、大人になった今、「嫌なことを考えるよりも、楽しいことを考えよう」のマインドになったのではないかと思うのです。
杓子定規に理詰めと言葉で伝えようとしていた私と、娘の姿を受け入れながらも、楽しんで切り替える術を授けた母。
娘にとって、今必要な言葉に出会えたことは、この夏の宝物だと思います。
自宅に戻ってきてからの娘は、嫌なことに遭遇すると「はらたったー!ムシムシ!」と言ってニコっとするようになりました。
特に「ムシムシッ」は首を全力で横に振り、シッシとするのが楽しいらしく、息子にも伝授していました。
最近はポーズを省略して、「ムシムシッ!」と言いながらやり過ごしていることもあります。
これから大きくなるにつれて、この魔法の言葉は娘の心の中から薄れていくかもしれません。
それでも、「気持ちを切り替えることができた」という体験は、嫌なことがなかなか頭から離れない娘にとっては、お守りのような存在になってくれるのではと願っています。