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公開 2019年09月11日  

他人と自分を比べてしまった長女。一晩で作り直した工作の行く末は…?

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夏休みの工作にこんなに振り回されるとは思わなかった。
鬼の来訪と、娘のクリエイティブの板挟みに苦しんだ新学期前夜の様子はこちら。


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2学期初日、長女は提出するはずだった夏休みの工作を、家に忘れていった。

その日の夜、「明日は工作忘れずに持っていくんだよ」と声をかけたのだけど、返事がない。

どうしたの、と訊ねると、長女は「みんなの工作がすごかった」と気まずそうに笑った。


「そっか。みんなどんなだったの?」

「うんとね、きこちゃんはハロウィンの飾りをつくっててね、かぼちゃがこんなに詰みあがっててね、けんと君はね、がちゃぽんをつくっててね、しかもちゃんとカプセルが出るの。まほちゃんもはるちゃんも、ひなたくんも、みんなすっごく上手だった」

そう言って、手元の自分の作品に目を落としていた。

長女の作品だって素敵だ。

百円ショップで買った、クリア板がついた木の箱の中に、ボンドで砂をたくさん敷き詰めて、貝やビーズや小さな人魚姫なんかを貼り付けた。

箱の周りには、彼女のお気に入りのマスキングテープがきれいに貼ってあって、天面のクリア板にもきれいなビーズが貼ってあった。

彼女がひとりで考えて、ひとりでつくったのだ。

どうしても糊がうまくくっつかなかった側面を、少し手伝った以外は、特に手を貸したりもせず、私は隣で見ていたり、末っ子のお昼寝の寝かしつけをしたりしていた。


材料も、百円ショップに行って、彼女が自分で選んできた。

私はお金を出しただけだ。

だって、それは彼女の作品だから。

自分が思い描いたものを、つたなくてもアウトプットすることに、意味があると思ったのだ。

出来上がった作品は、雑なところもあるし、過剰な部分もある。

全体のバランスだってよくない。

まだまだ集中力の限界もあるから、心が折れたんだな、と思う箇所もある。

でも、それが、7歳の長女のリアルな作品だから、私ははなまるだと思った。

「今」しかつくれない作品だもの。



だけれど、実際に学校でみんなの作品を見て、彼女はショックを受けたのだ。

みんなきっと、完成度の高い、隅々まできちんと仕上げた作品を持ってきたのだろう。

それを見て、自分の作品を思ったときに、少し惨めな気持ちになったのかもしれない。




「せっかく作ったけど、もしかして、これを持っていくのが嫌?」

と訊ねると、ちいさく「うん」と頷いた。

「これもすっごく素敵だよ?」

と伝えたのだけれど、長女は曖昧に微笑んでさらにつづけた。

「ここのところがちょっと取れちゃってるしね、砂がうまくくっつかなくてぐちゃぐちゃに見えるでしょ?蓋も割れちゃったし…」

作品が出来上がったとき、長女は嬉しくて嬉しくて、それを持ってお出かけすると言い張って、車の中に持ち込んだことがあったのだ。

その時に、天面のクリア板が割れてしまっていた。


テープで修復したのだけど、みんなの作品をみた後、それは長女にとって受け入れがたい傷になったらしい。

そのほかのちょっとしたアラも、きっと同じだ。前日まで気にならなかったいろんな部分が気になって、その作品が急に色あせて見えていたようだった。



時計を見ると時刻は20時。

長女がせっかくひとりでつくり上げた作品を、全肯定したいし、さらに言えば、明日も早起きなのだし、なるべく早く、なんなら今すぐにでも、お布団に入ってほしい。

が、長女はとてもしなやかな性格をしていて、ふわんとしていながら折れない心を持っている。

こうと決めたら、静かに、石のように、てこでも動かないのだ。

もし、もうすでに、この作品を持って行かない、と心に決めているのだとしたら、よほどの力技を使わない限り、彼女の意思は変わらない。

もし、いちからつくる、と決めているのだとしたら、もう決行しなければならない。

なんと言ってももう、20時だ。

我が家では21時には鬼が来ることになっている。

鬼が来る前になんとか決着をつけたい。

「新しく作品をもうひとつつくる?」

ほとんど提案する形で訊ねると、長女は、はっきりと「うん」と答えた。

やるしかない。



なにをつくるかあれこれヒアリングする時間もないから、「一年生、夏休み、工作」で、検索した。

ちがうのに、私はあなたのインスピレーションを大事にしたいのに、ともうひとりの私が頭の中で喚く。

そんなこと言われても、もうすぐ鬼がやってくるのだ。

誰かの知恵に寄り掛かるよりほかない。


検索結果の中に、「UVレジンでつくる貝殻の宝石」というのを見つけた。

長女はUVレジンでアクセサリーを作るのが大好きだ。

レジン液も、UVライトもある。貝殻もまだたくさんある。写真から察するに、貝殻にレジン液と、ビーズやアクセサリーのパーツを入れて、固めるのだろう。

ビーズもまだまだたくさんある。

これだ。

長女にスマホの画面を見せると、目を輝かせて喜んだ。

使い捨てのランチボックスに、きれいな毛糸を敷き詰めて、貝殻でつくった宝石や、余った貝殻やビーズを並べることにした。

長女が、貝殻にレジン液を流し込んで、ビーズを入れて、私がUVライトにあてる。

長男と末っ子がまとわりついたり、やりたいと泣いたり、パパじゃいやだママがいい!と叫んだりしながら、なんとか貝殻の宝石が9個出来上がった。

箱に入れるとあら、いい感じ。

あとは貝殻を入れる箱をそれっぽく装飾する。

表面に貝を貼るのだとか、ふたの裏に絵を描いた紙を貼るのだとか、側面に波を描くのだとか、長女のクリエイティブが暴走するのだけど、貝殻の宝石が出来上がった今、時刻はもう21時だ。

蓋の裏側に貼るらしい絵を、描き始める長女。

下書きの時点でなんだかいろいろと細かい。

下書きを描いて、色を塗るのだろうけれど、その1枚に何分かけるのか、胸がざわつく。

迫る時間と、彼女のクリエイティブの狭間で揺れながら、無粋と知りつつも、所々口を出してしまう。

さもないと出来上がるのは明日の朝だ。

隣で「末っ子ちゃんも描く!!!」と末っ子が椅子に座って叫んでいる。

階段の下では「ママとじゃないと寝られない」と長男がぼやいている。

夫はこの惨状を差し置いて、健やかに眠ってしまった。

なんていうか、無垢。



出来上がった作品は、とってもかわいらしかった。

長女が好きなピンクや薄紫のビーズが、とってもロマンティックだった。

ふたりでこうしてつくるのも、それはそれでいい思い出になるような気もする。



後日、子どもたちの作品を集めた作品展が学校でひらかれた。


教室の前にカラフルな作品がずらりと並ぶ。


驚くほど精密な力作もあれば、びっくりするほどシンプルな作品もある。


どれがいいとか悪いとか、そんなことはちっともなくて、どれもこれも最高に素敵だった。

まだまだ、創作の入り口に立ったばかりの子どもたちの、創意と工夫の集合が、ただただ、愛
くるしかった。

おばあちゃんに教えてもらったんだな、と思うものもあれば、おじいちゃんとつくったんだな、と思うものもあって、その背景もまた、微笑ましかった。

ひとりでつくっても、誰かとつくっても、上手でも下手でも、やっぱりみんな天才だった。

長女の作品も、紆余曲折を経たところも、私が口出ししちゃったことも含めて、これが今の長女の作品なのだな、と思うと、これが今の彼女の百点なのだな、と思った。

夜遅くに思い直して、妹と弟がぐずぐず言って、ママがやきもきして、眠たい中、やっとできた宝石箱、それが長女1年生の作品、だった。


じゅうぶんはなまる。


※ この記事は2024年12月04日に再公開された記事です。

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