上靴(とその他靴)を洗いたくない。
長女の上靴、長男の上靴と園庭履き、末っ子次女の上靴、合計4足が毎週のノルマとして課されている。
靴を洗うのはただでさえ億劫なのに、4足もあったら億劫で仕方がない。
洗っていたら、3人のうちのだれかしらがやってきて、やってあげる!とか、私が先!とか、くちゅ濡れちゃったのー??やだー!!とか、まぁ、にぎやかだ。
それぞれの主張を聞いて、じゃぁ、自分の靴洗ってみよっか、あ、じゃんけんね、じゃんけんで決めようね、とか、違うのよ、きれいにしてるのよ、ちゃんと乾かすからね、とか、あれこれ言って、状況を整えて、洗って洗って、洗うのがただ、大変だ。
4足洗うにはまあまあ、時間もかかるから、誰もまとわりついてこなかったらこなかったで、振り返れば何かしらの惨事が待ち受けている。
こっそりブドウを持ち出して、皮をまき散らしながら食べてるとか、ダンゴムシを大量に室内に持ち込むとか、まぁ、ごく一般的な感じのアレです。
つまり、どっちに転んでも悲鳴が出る展開なので、結論から言うと億劫なのだ。
この靴洗いから、なんとか足を洗いたいと(じょうず)常々思っている。
長女はそろそろ自分で洗えるのでは、と思わないでもないのだけど、芋づる式に真ん中と末っ子が、我も我もと参戦するのが目に見えているので、長女ももうしばらくはベンチで待機していてほしい。
じゃあどうしたらいいんだろうか。
そんな悩みを抱えていたところ、近所のコインランドリーで、靴洗いの洗濯機を見つけたのだ。
19cm までなら、洗濯槽に4足入れることができるという。
え、なに、神なの…。
たった200円で4足まとめて洗ってくれるとか、救世主以外だったらいったいなに。
とある週末、一緒に行きたい!と騒ぐ長男と末っ子をたずさえて、いざ、くだんのコインランドリーへ向かった。
「お金入れたい!!!」
「末っ子ちゃんもやりたい!!」
悶着したところでコイン1枚ずつだ。洗う手間を思えば心もおおらかになる。ひとり1枚ずつ100円硬貨を握らせたら、洗濯槽に靴を放り込む。
お金を投入させてあとはたったの25分待つだけだ。
近くの100円ショップへゴミ袋とか消耗品を調達しながら待つことにした。
ああでもない、こうでもない、と100円ショップを徘徊する間も高鳴る胸。
靴洗いの新しい扉を、今まさに開いているのだ。
今日はゴミ袋を買いに来たのよ、とか、それは買わないの、とか、ちょっとこれお風呂の掃除にいいわねぇ、とか、うろうろしているうちにあっという間に靴を取りに行く時間になった。
わくどきが止まらない。
満を持して蓋を開ける。
が、なんていうか、「うん、そうか」という感じだった。
べつに、私もいい大人だし、ピッカピカの真っ白け、なんてことは期待していなかった。
分かってる。どんなにがんばったって、やっぱり機械だから、しかも相手は幼児の上靴(と園庭履き)だから、いろいろと限界があることくらいわかっている。
広い心で受け止めたら、それはたぶん及第点と言っていい仕上がりだったと思う。
洗った、という既成事実が手に入ったのは素晴らしかったと思う。
でも、でも、やっぱりこれじゃぁなぁ、なのだった。
これがだめなら、あれだ、今流行のオキシ漬けだ。
幼稚園の保護者の誰それさんが、オキシ漬けのみで上靴洗いを終了させていると言っていた。
ドラッグストアに至急寄って、ふんだくる様にしてオキシなんちゃらを買った。
帰宅すると、長女と夫がお風呂に入っていたので、たらいを差し出して、お湯を入れてもらう。
オキシをぶち込んで、上靴(と園庭履き)を沈めた。
気分は破壊王だ。
汚れを一網打尽にするイメージである。
オキシなんちゃらの力を信じて、待って、待って、待った。
しばらくして、たらいから靴を取り出すと、うん、まぁ、悪くない感じだった。悪くない。悪くないんだ。
汚れが少ない長女の上靴に関しては、よかった。
末っ子次女の上靴も、まぁ、悪くない。
問題は、長男の上靴と園庭履きだった。
彼の性格なのか、男子たるゆえんなのか、そもそもの汚れのつき方が、女子チームとは全然違うのだ。
やはり、これじゃぁなぁ、だったのだ。
でも、ここまで来たら、てこでも洗いたくない。
たわしを持つのが癪だ。
いざ、ネットに入れて自宅の洗濯機に、えいやと放り込んだ。
コインランドリーでも洗濯機に放り込んであんな結末だったのに、往生際が悪い。
でも、諦めがつかないのだ。
どこかに、きっとこの面倒臭い靴洗いから、私を助け出してくれる救世主がいる、という希望を捨てたくない。
脱水に差し掛かると、洗濯機が甲高くピーピー鳴った。
「脱水できません。洗濯物の偏りをなくしてください」
洗濯機からアナウンスが流れる。
靴は重いので脱水しにくいらしい。
蓋を開けて適当に靴をばらけさせる。
脱水を再開するけれど、またすぐにピーピーが鳴る。
その繰り返しを経て、私が根負けして、もういいや、と取り出した靴は、うん、まぁ、いっか……、という感じの仕上がりだった。
コインランドリー、オキシ漬け、自宅の洗濯機(ピーピー付き)、の3段階を経て、少しづつ、上靴たちは白さを取り戻し、3段階目でようやく、まあ、いいかな、と思えるくらいになった。
夕方にコインランドリーへ出発して、靴洗いがゴールしたのは深夜23時だった。
足掛け5時間の長い道のりだった。
本末転倒感がすごい。
結論から言うと、手で洗うよりきれいになる手段は見つからなかったということになる。
仕方がないから来週も再来週もその次も、たぶん、きっと、たわしを握って靴を洗うんだろう。
それで白さが手に入るなら、どんとこいだ。全然いい。
でもやっぱり諦めきれないし、絶賛洗いたくないし、誰か素敵で華麗な靴洗いの方法を知ってたら、教えてほしい。
それか、「私も靴洗いたくない」ってただ言ってほしい。