自分の子どもを産めないかもしれない。
母になり、家族をつくれないかもしれない。
生まれつき生理と排卵がない私は、高校生の頃から、そんな思いを心のどこかに抱え持ってきた。
愛知の片田舎で、三姉妹の長女として、両親と祖父母の7人家族、同じ敷地内にいとこ家族、隣にはとこ家族が暮らし、いわゆる血縁・地縁でつながる賑やかな家庭で育ってきた私。
育児を一人抱え込むことなく、働きながら自分の趣味や家族との時間を楽しむ母の姿に、一番身近にいる女性として、小さな憧れのような気持ちがあった。
いずれ私も結婚して、子どもを産んで、自分の家族を築いていく。
いつか、母になる。
何の疑いもなく、そう思っていたのだ。
そんな未来が当たり前ではないということに気づいたのは、高校生の頃。
16歳になっても初潮がなかった私は、母に連れられ、産婦人科を訪れた。
詳しい検査をすることもなく、気さくな初老の男性医師は「現時点で子どもが産めるか産めないかはわからないねえ。子宮が退化するといけないから定期的に生理を起こしておこう」とだけ診断した。
生まれつき生理がない「原発性無月経」。それでも、母になる。
13,547 View徳瑠里香さん著作『それでも、母になる 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』(ポプラ社)より、一部をご紹介します。
生まれつき生理と排卵がない ー 私ー
高度な検査をすれば私に生理がない原因を突き止められるのかもしれないけれど、医師は「高校生の今からそこまでする必要はない」とどんな疾患なのか特定しなかった。
自分が「産む性」であることに実感が伴わず、他人事ごとのようで、動揺するわけでもなく「産めないかもしれない」という事実だけが静かに胸の奥底に染みついた。
産みたいのか、産みたくないのか、産めるのか、産めないのか。
自分の正直な心持ちも、待ち受けている現実もあやふやなまま、その日から定期的に産婦人科に通い、注射や飲み薬でホルモンを投与して生理を起こした。
その後、18歳を過ぎてから「原発性無月経」と診断された。
原発性無月経とは、満18歳になっても初潮がない状態を指し、そのなかにはさまざまな疾患が含まれ、かつそれぞれの疾患は稀なものが多いという。
私自身は、自然に生理と排卵が起きることはないけれど、子宮や膣などの機能や染色体等に異常があるわけではなく、その原因となる具体的な疾患はいまだにわからないまま。
産める可能性はゼロではないけれど、不妊症であることは明らかだ。
産めないかもしれない=母になれないかもしれない=家族をつくれないかもしれない。
当時の私は、産むこと、母になること、家族をつくることを「=」でつなげて考えていたから、ただ漠然と、「いつか、母になる」とは思えなくなった。
同時に、私のなかに「(産めるのなら)産みたい」「母になりたい」という気持ちがあることに気づいた。
そして、10年以上、何の保証もないまま、少しの可能性を信じて、ホルモンを投与して、生理を起こす治療をずっと続けてきた。
そんななか、29歳になる頃、奇跡的に、私の子宮のなかに小さな命が宿った。
本書は筆者の経験した「母になる道のり」からはじまり、さまざまな成り立ちの10組の家族の物語へと展開されていく。
"個人の人生と同じように、家族のかたちも千差万別で、ひとつとして同じものはない"
10通りの彩り豊かな人生を、ぜひ本書でお楽しみください!
(編集:コノビー編集部 瀧波)
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