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公開 2019年12月10日  

「食べない子」と悩む母の10年戦争。しつこい不安がついに成仏するまで

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長男は本当に食べなかった。
カスミを食べて生きていると言われるレベル。
彼の食べたいものは何なのか。
息子と私の約9年の記録(大げさ)


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かつて私は…

私は過去、『食事が気に入らない』と食膳の物を全て床にぶちまけるような男と暮らしいていた事がある。

好き嫌いが激しくて

「今日何たべたい?」

と聞いても、全然まともに答えてくれない。

仕方なく、アレなら食べるかな?コレは好きかな?と思い悩みながら苦労して作った食事を、面白半分に床に叩きつける。

その人の名は

息子(当時1歳)

ひどい 

お母さんつらい。


離乳食から、頭角があらわに

息子が離乳食をスタートしたのは、生後6ヶ月の頃。

「タベルコトタイセツ」
「ケンコウナカラダツクル..」

初めての育児に大変に肩に力が入っていた私。

十倍がゆ、人参ペースト、かぼちゃのスープ、初心者向けのハウツー本に載っていた前期離乳食を何でも手作りして、毎日息子の前にずらりと並べた。

「ハイ、タベテミヨウネー」

親の方が緊張しながら、ひと匙ずつ口に運んでみた…

が、肝心の長男は全く口を開こうとしなかった。

完全黙秘。

弁護士を呼べ的な。

そこからが受難のスタート。

離乳食前期、長男はそのまま完黙を貫いた。

離乳食中期にやっと、少し口を開け、お粥に少量塩を振りかけたものを食べるようになった。

但し、3くち。

離乳食後期はそのお粥ほんの少しと具の無い味噌汁のみを食べていた。

具は豆腐の一片でも混入しようものならテーブルから叩き落とす徹底ぶり。

戒律が厳し過ぎる。

修行僧の如き食生活。


いや、こんな食生活では仏門に入るどころか息子が入滅してしまうのでは。

私は焦ったが、息子はひたすら母乳を飲んで生きていた。

ついに私は、この母乳への執着が離乳食を思ように進めてくれないのだと思いつめ

1歳8ヶ月でまだまだ本人の執着が物凄く、絶賛飲み放題飲んでいた母乳を強制終了。

本人の意向は無視。

断乳の名の下、三日三晩お腹が空いた、ひもじいと泣く息子を抱き抱えて闘った。

「えー..なんか可哀想やん」

そう言って向こう三軒右隣まで聞こえる轟音で泣いている息子を心配する夫を

「アナタは黙ってて!」

一喝した。

普段、夜討ち朝駆けで全然家にいないアナタに何が分かるん!?と。

自分がこわい。

そうして「乳を寄越せ」「いや、やらん」の格闘は私に軍配が上がったのだった。

断乳を果たしたその後、息子は食事を

いつも通り、全然食べなかった。

食事中に、丁寧に出汁を取った味噌汁で、プラレールを洗車する始末 。

やめて。

「やらねばならない」総攻撃

この頃私は、夫の赴任に伴い引っ越してきた新しい土地で、知らない人だらけの中、初めての子育てに挑んでいた。

日中に向き合う人は長男ただ一人、その中で育児を『きちんと』しなくては、長男を健康な良い子に育てなくてはという思いが、つらいをはるかに通り越していたとおもう。

何ひとつ『かんたん!離乳食』的入門書に書かれている通りに行かない長男の食事に対して

『ねばならない』に取り憑かれていていた。

炭水化物、たんぱく質、ビタミン、カロチン、カルシウムなんでも『きちんと』食べさせなければならない。

好き嫌いの無い子に育てなければならない。

そう思いつめて、半泣きで、このお食事クラッシャーを宥めてすかして説得し続けた。

食べないなら、本人の希望を聞こうじゃないですか、何なら食べるんだお前は?と尋ねても

「息子くん何食べたい?」
「こまち!」
「いやそうじゃなくて」
「のじょみー!」

息子は当時『学研 乗りもの図鑑』を毎晩母親に朗読させる程の鉄道オタクで、発する単語は2歳を過ぎても全て電車・特急・新幹線だった。


要するに、この子は食べ物に全然興味が無いのだ。


お菓子なら食べるのかと節を曲げて、ビスケットやおせんべいを与えてみても、完全に無視される始末。

そんな生活を3歳になるまで続けた長男の体格は、やはり小柄でかつ細身。

母子手帳の成長曲線グラフの中から大幅に逸脱するような体格ではないにしても、長男が『平均』より軽く小さい体躯だという事に、私は結構不安になった。

この母は昔から気が小さいというのにお前と来たら。


そんな『毎日修行僧食』の続く我が家に、長男が2歳5ヶ月の時やって来た長女は、同じく6ヶ月頃に離乳食をスタートさせ、これが意外と一口ずつなんでも食べてくれた。

私は手作りした、離乳食が無駄にならなかった事や、何より長女が美味しそうに食べてくれるのが本当に嬉しくて

「ホラ!長男君見てごらん、長女ちゃんは好き嫌いしないで何でも食べるよ!」

そう言って、その時幼稚園の入園を目前に控えていた長男に『アンタも何でも食え』とアピールしたが

「ひかりれーるったー!」

山陽新幹線についてアピールされただけだった。

もう、電車ネタは結構です。

しかし、私は次の一手を用意していた。

長男の入園先を『完全給食』の幼稚園に決めていたのだ。

さよなら、希望の光…

私の『給食のなら食べるんじゃないの、それで世界広がるんじゃないの』という目論見はまんまと外れ、幼稚園生活の3年間も、更に長男は小学生になっても給食と戦い続けた。

それどころか

「給食を残さない」という縛りが厳しくなった小学校1年生の当初など、多少の努力はするものの絶対に食べたくないという食材、特に見慣れない食べ物は嚥下する事を断固拒否、口の中に持ったまま5時間目まですごして自宅まで持ち帰る。

「オマエはリスか」

的なワザまで持ち出して食べたくないものを回避していた。

ここまで行くと天晴れというか、笑いがこみあげてくる。

小学生になって米と味噌以外ではお肉を食べられるようにはなったが、野菜も果物も全く好まず、よくあれで便秘にならないものだともう心配を通り越して感心する。

この子は何でこんなに食べたくないものが多いのだろう。

私は子どもの頃から兎に角なんでもよく食べたらしいし

3つ下の長女は、少し偏食だけれどお菓子も果物も大好きなのに。


そんな中、長男が4年生の頃、我が家に言語聴覚士さんが週1回来ることになった。

『言語聴覚士』さんは、言語と聴覚、ならびに摂食と嚥下のリハビリの専門家。

この言語聴覚士さんがウチにやって来てくれたのは、長男と9歳違いで生まれた次女の先天性心臓疾患の治療の過程で、食べ物を口から食べる、もしくは飲み込むという事が一時的に出来なくなっていた為だった。

この言語聴覚士さんが、息子のいきすぎた偏食の原因の答えをくれる事になる。

拒否は、悪いことではないらしい

言語聴覚士さんは、次女のリハビリを始めるにあたってこう言った。

「次女ちゃんは、今とてもお口の中が過敏になっていて、食べることに臆病になっているので」

「はい!」

「コレ!っていう好きなものを見つけてあげましょう」

「甘いものでも、多少塩辛いものでも、例えば溶かしたアイスでもいいです!」

「はい?」


先生、斬新すぎない?

アバンギャルド離乳食。


「あと、最初の内は全然食べません、慣らしですから、無理に手作りしなくて良いです」

「ベビーフードの、個包装になってるお粥とかスープとか便利な物が沢山ありますよ」

「ママが思い詰めると次女ちゃんもつらくなりますから」

私は目からウロコで

「先生に10年前にお会いしたかったです...」

そう心から思った。


先生の提案は長男の時には全て禁じていたというか、出来ていなかった事で…長男がアレ過ぎたと言えばそれもあるが。

だってアイツ、昔プラレールを筑前煮の皿に盛ったんですよ先生。

でもあの時もそんな風に言ってもらえていたら、大分気が楽だったんでしょうね~と話した。

すると先生は更に続けた。

「健常の子どもって、ママが『全然食べない』と思っていても意外と食べてるもんです」

「あと長男君は、味覚が鋭敏なんでしょうね、苦いとか酸っぱいとかは本来自然界では毒ですから」

「慣れないもの、初めてのものを拒否する感覚というのは人間の本能ですから悪い事ではないですよ」

私はそういう考え方もあるのかと感心して、長男にもこの話をしたら大喜び。

「そうやろ、僕はミカクがエイビンで、それは人間としての本能なんや」

天下御免で食事から野菜や魚、果物を排除していたが、10歳にもなって本能のままに生きているというのもどうなのか、理性を探して来い息子よ。

何かしらは食べられているんですから、少しずつ少しずつですよ、そして長男君は健康ですという先生の言葉に励まされて私は今日も、長男の好物の肉ばかりを油で揚げている。

ちょっとお腹がプーさんなパパの内臓脂肪のことも、すこしは考えてあげてくれまいか。

私の子育てはどうにも理想通りに全くいかないが

もう致し方なし。

食べることに関しては医療関係者の方が鷹揚なのか、次女をいつも診てくれているドクター達も、次女がお菓子ばかり食べて肝心の食事を取らないと相談した際には、あっけらかんとしたものだった。

「え?体重が増えてればいいよ」
「そのうち食べるでしょ」

そのうちっていつ?何年後の何月何日?と聞きたくもなるが。

私は今日も、長男の数少ない好物のおかずのメンチカツに、こっそりキャベツの細切れを混入させる。

そして、そんな野菜片入りのメンチカツを

「お母さんの料理おいしい!」

といって食べるのだから、ドクターや言語聴覚士の先生のおっしゃるように野菜も果物もいつかは食べるのかもしれない。

で、

それって、いつなん?




※ この記事は2024年11月21日に再公開された記事です。

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