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公開 2020年01月17日  

「双子だって同じにできなくてもいい」。助産師の言葉に涙がこぼれた<第三回投稿コンテスト NO.55>

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1年前に男の子の双子を出産した、しらりこさん。授乳がうまくいかず焦っていたとき、助産師さんがかけてくれた言葉が忘れられないといいます。



2019年1月、二男と三男にあたる一卵性の双子の男の子を出産しました。

今でこそ多胎育児の過酷さへの関心が高まってきましたが、このときはまだ情報も少なく、妊娠中は「産後のイメージが湧かない」というのが正直なところでした。

また、医師から「多胎妊娠は異常妊娠」と説明を受けていたこともあり、何よりまず無事に2人が産まれてきてほしいという思いが一番でした。

1か月の管理入院を経て37週0日で無事に出産し、そっくりな赤ちゃんが2人いるのを見たときに、ようやく本当に双子がお腹にいたことを実感しました。

2000グラムと2300グラムで生まれた2人はNICUや保育器のお世話になることもなく、出産翌日から母子同室で過ごすこととなりました。長期入院と出産でヘトヘトの状態で双子育児がはじまりました。

いざ双子の入ったコットが病室に来ると「長男を育てているから基本的なノウハウはあるし、どうにかなるのかな」という楽観的な思いは一瞬にして無くなり、抱っこするのが怖くなるほど細く小さい2人を前にして、自分にこの小さな2つの命を守ることができるのか、とても不安になりました。


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特に苦労したのは授乳です。

私が出産した病院では、授乳するときには授乳室に行って助産師さんに指導してもらいながら授乳するスタイルでした。

2人がふにゃふにゃと泣き始めたので授乳室に行き授乳を試みましたが、なにせ4年ぶりの授乳。

しかも長男よりも小さく生まれた2人。

切迫気味だったため妊娠中の乳頭マッサージもできておらずまだ胸の張りもない私…

どうしたらいいかわからずにいると、それに気付いた助産師さんがすぐさま助けに来てくれました。

助産師さんに手伝ってもらいながらどうにか乳首を口の中へ持っていきますが、口が小さいのでなかなか入りません。

やっと口に入ったと思っても吸啜力が弱いため母乳が出てきません。

そしてそうこうしている間に授乳待ちのもう一人は泣き疲れて寝てしまう始末。

とりあえず2人にはミルクを与え、私は助産師さんに激痛の乳頭マッサージをしてもらいました。

これを1日に10回。長いときは1時間半以上も授乳室にいました。

当然ながらほかのお母さん達はどんどん授乳を終えて部屋に戻っていきます。

自分一人では授乳すら満足にできないことへの焦りや苛立ちで私の気分はすっかりどん底に。

でも2人分のお世話は待ったなしで、おむつ替えや寝かしつけ、ぐずりの対応をしているとすぐに次の授乳の時間になってしまいます。

自分のふがいなさに涙する暇もありませんでしたが、ほとんど眠ることもできませんでした。


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翌日からは少しずつ胸が張るようになりましたが、2人はなかなかおっぱいを咥えることができず、助産師さんの手伝いが欠かせません。

4日目からは少し大きく生まれた弟くんは助産師さんと2人がかりでどうにか乳首を咥えることができるようになりましたが、お兄ちゃんは胸が張っている状態の乳首はまだ咥えることができずにいました。

弟くんはできるのにお兄ちゃんはどうして同じようにできないの?

私が不器用だからいけないの?

もっと大きく産んであげられたらよかったの?

寝不足と疲労で働かない頭の中でぐるぐるとそんなことばかりを考えていました。



そんな中、双子の体重が退院の基準に満たさないため、私だけが先に退院することが決まりました。

産後ノンストップだったお世話から解放される安堵感もありましたが、それよりも大きかったのが「うまく授乳してあげられなくてごめんね」という罪悪感と、「このままお兄ちゃんがおっぱいを吸えなかったらどうしよう」という焦りでした。

退院前夜、授乳室に行くと珍しく他のお母さんたちは誰もおらず、ベテランの助産師さんが1人いるだけでした。

私はまだ1人では上手く授乳させることができなかったので、授乳のお手伝いをしてほしいとお願いしました。

どっちから母乳を飲ませる練習する?

と聞かれたので、弟くんからです。まだお兄ちゃんは胸が張ってるとうまく口に入れることができなくて。

弟くんが吸った後ならなんとか口に入れられることもあるんですけど、母乳の出も多くないのに毎回こんな感じでいいのかなって思って…

そこまで言いかけると不安で涙が出そうになりました。

そんな私の様子を見た助産師さんがゆっくり話し始めました。


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私はね、双子って意味があって一緒に生まれてくるって思っているの。

この子たちはね、お腹の中にいるときから2人で助け合ってここまで大きくなって生まれてきたでしょ。

だから生まれてからも助け合っていくのは当たり前。

どっちかができないことは、できる方が助けてあげればいいの。

お兄ちゃんも母乳を吸えるように、弟くんが先に吸ってその準備をしてあげているんだから、それでいいの。

どっちもが同じようにできないといけないなんてことないのよ。



私の緊張の糸は切れ、涙がこぼれました。

双子だからって、見た目がそっくりだからってすべてが同じな訳じゃない。

それぞれにできること、できないことがあって当然なんだ。

今こうして文章にしてみると当たり前のことの様ですが、その時の私は「2人が同じようにできるようになること」にとらわれすぎていて、お兄ちゃんも弟くんも、それぞれが小さい体で精一杯頑張っている姿に目を向けてやれずにいたことに気づきました。

助産師さんは

2人はこれからもそうやって助け合いながら生きていくの。

そして大きくなったらきっとお母さんのことを助けてくれるようになるからね。

だから思い詰めなくても大丈夫!

体は小さいけどこの子達は助け合えるんだからすごく強いよ。

と続けながら、疲れて眠ってしまったお兄ちゃんを抱っこして優しく頭を撫でてくれました。

助産師さんからの言葉で自分の心の中にたまっていた不安や罪悪感が少しずつ昇華されていくのを感じました。

この子達は双子として何かと周りから比べられることが多いかもしれません。

だからこそ私は「同じじゃなくていい」を認めてあげようと思えるようになりました。



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あれから1年、永遠に続くかのように思えた新生児期の時間はあっという間に過ぎ去ってしまいました。

それでも悩みは尽きることはありませんが、その度に助産師さんの言葉を思い出し、「お互いに助け合いながらそれぞれのスピードで、それぞれの個性を持って成長してね」と思うようにしています。

そして私自身も、ゆとりのある育児はできていませんが、それでも過ぎてしまえばあっという間に感じるであろう双子育児という貴重な時間を大切に、日々を過ごしたいと思っています。

そんな母の思いを知ってか知らずか、双子は今日も助け合いながら部屋のドアを開け、2人で仲良く脱走していくのでした。

(ライター:しらりこ)

※ この記事は2024年11月11日に再公開された記事です。

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