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公開 2020年02月06日  

産まれてすぐ保育器に入った娘。初めての抱っこが私を“母”にした<第三回投稿コンテスト NO.104>

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予定日よりも1ヶ月以上早く出産し、なかなか、その腕に娘さんを抱くことができなかったという、さえきあんずさん。やっと抱っこすることが許された時の気持ちを綴ってくれました。



私が育児をしていて一番エモかった瞬間、それはムスメを初めて抱っこしたときです。

初めての抱っこは、辛い陣痛に耐え、最後の力をふりしぼって出産、「おめでとうございます!」と助産師さんが取り上げた赤ちゃんを抱かせてくれて、運よく立ち会いに間に合った夫と3人で写真撮影、幸せオーラ全開!・・・のはずでした。

しかし、私の初めての抱っこはまったく違うものだったのです。

ムスメは妊娠34週で産まれた早産児です。

出生時の体重は約1,900g、身長は43cmでした。

予定日よりも1ヶ月以上前の月曜日、私はなんだかおなかが痛むので出産予定の病院に向かっていました。

激痛とかではないけれど、なんだか違和感のある痛み。

切迫早産気味で自宅でゆっくりするように指示されていたので念のため受診しておこうという感じでした。

まさかその日に出産するとは夢にも思っていなかったので、鞄には母子手帳と保険証と待合室で読む用の小説のみ。

診察前にNSTをとると、看護師さんが「これ、ちょっと陣痛っぽい・・・。診察早めますね!」と慌てて診察室へ向かっていきました。


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「陣痛ってもっとのたうちまわるような痛みなんじゃないのかな?前駆陣痛ってやつかな。」とぼんやり考えているとかなり順番を早められて診察室へ。

内診をした先生がすぐに、「子宮口が7cm開いてて、もう産むしかないです。救急車で大きな病院へ行って下さい。」とおっしゃいました。

そこからはあっという間で、「えー!」と驚いている間に救急車に乗せられて大学病院へ。

そして、担架のまま分娩室へ。赤ちゃんが危ない場合の帝王切開に備えて分娩台の上でレントゲンを撮ったりしつつ、陣痛に耐えていました。

そうこうしてるうちに子宮口が全開になり、2回いきんでムスメを出産!

ここまでで最初に病院を訪ねてから3時間の出来事。

初産ってほぼ1日仕事なんじゃないの?とびっくり。

そしてここで冒頭の初めての抱っこシーンが訪れるはずでした。

しかし、現実は赤ちゃんの泣き声がしない静かな分娩室。

「あれ?赤ちゃんって産まれてすぐ泣かないんだっけ?」

出産してほっとしたのもつかの間、不安がどっと押し寄せてきました。

ムスメの小さな泣き声が聞こえるまでの時間は実際は数分だったと思うのですが、とても長く感じました。

そのあと私のところに連れてきてもらったムスメは、保育器に入っていて、抱っこどころか一瞬頭をなでただけであわただしくNICUへと運ばれて行きました。


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その日は体力が回復しなかったのでムスメに会いに行けず(自分の病室とNICUは別病棟でした)、ムスメとちゃんと会えたのは出産から2日後でした。

薄暗いNICUのたくさんの機械に囲まれた保育器の中で、オムツ1枚でうつぶせで丸まっているムスメの体は、まだ脂肪がついておらず、あばらが浮き、手足は細くて皮が余っていました。

鼻と口にはチューブが入り、腕には点滴などの管がたくさん・・・痛々しい姿に「早く産んじゃってごめんね。」ととても辛い気持ちになりました。

ムスメの手に自分の指を近づけたときも、手が小さすぎて私の指を握れなくて、その小ささにショックを受けました。

「我が子に会えて嬉しいはずなのに辛い気分になってしまった」とそんな自分にも落ち込みました。

それからの入院中の私の生活は、NICUに面会に行き、授乳の代わりに3時間おきに搾乳をして、保育器に手を入れてオムツを替え、ムスメがグズっても抱き上げられないので背中をトントンして見守るというものでした。

子どもが産まれたら、抱っこして、おっぱいをあげて、寝かしつけての繰り返し・・・

そう思っていたのに、抱っこもできない、おっぱいもあげられない、眠るまで見守るだけ・・・

私はこの子のお母さんをできてるのかな?と保育器の中のムスメを見ながら涙が出ることもありました。


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数日後、産後の経過がよかったので、私だけ先に退院が決まりました。

退院の前日にムスメに会いに行くと看護師さんが「少しだけ抱っこしてみる?」と声をかけてくれました。

待ちに待った抱っこ・・・!

「はい、してみたいです。」

そう答えて、私は緊張しながら看護師さんが保育器からムスメを出してくれるのを待ちました。

タオルにくるまれたムスメを看護師さんから受け取り、センサーのコードや点滴がからまないように気を付けながら膝にそっと乗せました。

ムスメのからだはタオルにしっかりくるまれているのにふにゃふにゃで、小さなからだは片腕にすっぽりと収まりました。

タオル越しにムスメの体温と体重を感じたときに、やっと抱っこができた!

向かい合って顔を見ることができた!

という喜びで胸がいっぱいになりました。

このときにはじめて

「あぁ、私はこの子を産んだんだなぁ。」

としっかり実感することができました。


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それまで、予想外のタイミングでの出産に気持ちがついていかず、早産児のムスメを育てることに不安ばかりでしたが、自分の腕の中ですやすや眠るムスメを見たときに、この小さくてか弱い子をちゃんと守って育てようと強く思ったことを覚えています。

初めての抱っこは思い描いていたものとはまったく違うものでしたが、不安でいっぱいだった気持ちが取り払われ、親になる自覚が芽生えたとってもエモい経験になりました。

抱っこのときに片腕にすっぽりおさまっていたムスメですが、3歳を過ぎた今では両腕で抱えるのも大変です。

イヤイヤ期や二人目の誕生など、目まぐるしい日々についていけなくなりそうになることもありますが、そんなときはムスメが産まれたときの身長と体重で作ったクマのぬいぐるみを抱っこして初心を思い出しています。


(ライター:さえきあんず)


※ この記事は2024年10月26日に再公開された記事です。

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