昔から子供好きだった私は、子供を産んだらのびのび育てたいと思っていました。
本人がやりたいことをさせてやり、やりたくない事は無理にさせない。
命に関わるほどの危険な行為でなければ、多少危ないことでも見守ってやり、口出ししない。
遊びに集中している時は思う存分させてやる。
出来ることは誉めて、出来ないことは責めない…などなど。
私にとっての理想は「のびのびその子の個性を活かす」育児だったわけです。
子供を持ったら絶対に愛していく自信があり、溺愛でもいい、むしろたくさん可愛いがってやりたい一心でした。
のびのび育児派だったわたしが、イヤイヤ期を経験して気づいたこと<第三回投稿コンテスト NO.105>
24,918 View出産前から子どもが好きで、自分の子どもはのびのび育てようと考えていた、ひとみんさん。しかし、息子がイヤイヤ期を迎えると、全てが思い通りにはいかなくなり、完全に敗北した気分だったといいます。
実際に息子が産まれてきて、乳児期はまだ一人では何もできない赤ちゃん。
危険なことは親が排除してやればいいことであり、良いことも悪いことも導いてやれば済む事でした。
昨日出来なかった事が今日出来るようになる…成長めざましい一歳代までは、世話が大変と感じることはあっても育児の方針に悩む事はありませんでした。
順調に言葉が増え、2歳を目前にしてやって来ましたイヤイヤ期!
加えて元々の本人の性格が際立ってきたのもこの頃。
のんびり屋でマイペース。
おっとり、素直。
活発な面もあるけれど、トイレ、着替え、お片付け、靴を履く。
何をするにもクラスで最後。
ま、12月産まれだし…月齢が低いから…徐々に出来ればいいやという風に思っていた私も、息子が2歳児クラスに進級し焦りはじめました。
言葉も通じるようになってきたこともあり、あれやこれやと口を出すことが次第に増えていきました。
ところが相手はイヤイヤ期真っ只中、一筋縄ではいきません。
どの子にも親にだけ見せる表情というのがあると思いますが、一番可愛いのもママの前でだけなら、わがままを言うのもママの前だけになっていました。
それは息子が保育園ではみんなに合わせようとして頑張っているからでもあり、ママである私にはわがままを言ってもいいと気を許しているからだったのですが。
当時の私には余裕がなさすぎました。
優しく言っても厳しく言っても諭しても「やりたくないことは絶対にやらない」「急かしても早くならない」気がつけば一日中小言。
説教、雷ドカン。
子供のイヤイヤ期を経験したパパさんママさんならお分かりかと思いますが「やりたくないことは絶対にやらない」のが食事、着替え、トイレだったり風呂だったりするわけです。
基本的な生活習慣を身につけさせ自立出来るように導くのが親の役割ならば、「やりたくない事は無理にさせない」のびのび育てるという育児方針は、もう前提からして成り立たないのです。
だって息子のやりたくないことを全部しなかったら、それはもう子育てを投げ出しているのと同義。
イヤイヤ期についての見通しが甘かった…。
しかも無理矢理やらせても自らやった事にはならないのだから、一向に身についていないのです。
挫折。
完全に敗北しました。
保育園から帰らない。園庭で遊ぶ。自転車乗らない。帰らない。歩いて帰る。歩かない。抱っこ。抱っこも嫌。でも歩けない!
ゴミ箱投げる。拾わせる。謝らせる。不服。再度ゴミ箱投げる。拾わない。捨て台詞。唾をブーっと吹きかけられる。
何これ?
もう嫌。
あーくんじゃなくてママがもう嫌。
もう無理。
「もう嫌――――っ!」
気がつけば叫んでいました。
自分に自信がなくなり、私は子供を支配しているのではないか?と思うようになりました。
些細なことで叱り、自分の望むいい子にさせたがっているだけではないのか?
また今日も強く言い過ぎた。
と思う一方、なんでママの言うこと聞いてくれないんだとも思う。
ママのこと嫌いなのかな。
もしかしてわざとこちらが嫌がることをやっているのではないか?
「ママ、ちょっと許しといてよ。」
「ママ、あーくんさみしくなっちゃった。」
口やかましく叱った後はそんな風に言うこともありました。
本当に、ママの言うことをそつなくこなせることがいい子なんだろうか。
それとも私自身に余裕がないから苛立ってしまうのだろうか。
そもそも、いい子じゃなきゃダメなんでしょうか。
もっとのびのび育てたい。
この子の良さを認めてやりたい。
親の顔色を窺うような言葉を言わせたいんじゃない。
ママは本当はあなたが大好きなんだとわかって欲しい。
それから、少しずつ子供を受け入れるように心がけました。
そしてなるべく遊び心を意識した声かけを試してみました。
ママが遊んでくれるとわかるや、息子のやる気がアップ!
そうか、うちの子にはこういうやり方が合っていたんだ。
おふざけで脱線するときも、少し待ってみると機嫌よく行動するということも…。
イヤイヤ期の突破口が見え始めました。
そして、息子の態度もわがまま一辺倒ではなくなってきました。
「お風呂でドンドンしたら、下の(階に住んでいる)おねえちゃんが困るから、いけないよね?」「うん、そうだよ」
「ご飯の前は、オヤツ食べない?」「…そうだね、よくわかったね」
やったらダメと注意したことを、理解できるようになってきたのです。
私の小言の回数も減ってきました。
少しずつですが、自発的に生活習慣にも取り組めるように。
ある日。私が夕食作りをしていると、疲れたのか息子が半ベソをかいていました。
「あーくん、スプーン落ちちゃったの」
「そう?自分で拾いなさい」
「うん…」
横目で確認すると、椅子を降りてスプーンを拾おうとする姿が目に入りました。
(頑張って拾おうとしているな)
また料理を続けると
「マーマ、できないよう。あーくん、できないよう」
振り返ると、息子が椅子に座り直して涙を浮かべていました。
一旦降りたもののスプーンは拾わなかったのか。
いわゆる〝ママにやってほしかった〟という一種の甘え…。
涙を浮かべた息子がとても可愛く思えて、優しくしてあげたい気持ちになりました。
「はい、どうぞ」
すると…
あの時の嬉しそうな顔は忘れられません。
自分が愛されていることを実感した顔。
子供の為にほんの小さな願いを叶えてあげること、その為に少し手を止めて子供に向き合うこと。
それだけで子供は愛されていると感じられる。
それこそ、私がやってみたかったけれど実践出来ていなかった育児のカタチでした。
もちろん今でも理想どおりとはいかず、小言も言うし思うようにはいきません。
でも、私がとった何気ない一つの動作が息子にとっては〝ママの愛〟と感じたように、息子の笑顔は私に〝愛情を持って接することを忘れてはいけない〟と強く印象づける出来事となったのでした。
(ライター:ひとみん)
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