双子たちが保育園の年長クラスになった時のこと。
卒園式終了後に開かれる保護者主催の「謝恩会」に向けて、準備を進めることになりました。
でも、当時通っていた保育園には、PTAや保護者会のようなものはありません。
バタバタと連絡網を作り、ついに第一回目の打ち合わせを迎えました。
IT系のベンチャー企業で働く私は、最初の打ち合わせの日、いつもの癖でノートパソコンを持参していました。
そしてバッグの中にふと手を入れた時、以前職場の先輩から言われた“ある言葉”を思い出したのです。
「保育園や小学校のPTAでは、パソコンを使えることをあまり言わない方がいいよ。」
今思うと、この“忠告”には大きく2つの意味合いがあったと思います。
まずひとつ目は、「ママ」でつながる人たちは様々なバックグラウンドを持っているということ。
仕事をしている人もいれば、していない人もいる。
仕事をしていても、必ずしもパソコンを使う人ばかりではありません。
パソコンを家に置いていない家庭だってあるでしょう。
だからそのような場で、普段と同じような感覚でパソコンを取り出すことは、もしかすると場の雰囲気に合わないかもしれないのです。
そしてもうひとつは、パソコンを使う作業を一挙に引き受ける可能性もあるということ。
一度使い始めると引っ込みがつかなくなるので、自分に引き受けられる責任範囲をしっかりと見極めてからにするべき、という意味合いもあったと思います。
もちろん、その日の打ち合わせにパソコンなんて持参していたのは、クラスで1人だけ。
みんなが手帳を開いているなか、完全に浮いてしまっていることを感じた私は、「これは、ちょっと失敗してしまったかもしれない」と思いました。
でも、どうせならば……ということで、その日は議事録係を担当することにしました。
打ち合わせが始まると、いつもの仕事の感覚でいうと「アナログだな」と感じる場面がいくつかありました。
例えば、上の子がいるママが提供してくれた、過去の謝恩会資料の回覧。
これを見ながら打ち合わせしようということだったのですが、資料をみんなで回覧すると時間がかかってしまうし、手元にあった方が話をしやすいはず。
かといって普通にコピーをするとなると、一旦コンビニなどに外出する必要がありますし、コピー代もかかってしまいます。
こういう時に、つい「効率化」したくなってしまうのは、仕事の癖なのかもしれない……。
今は「仕事」じゃないんだから、何も言わない方がいいのでは?
そう思い少しためらいましたが、「みんな忙しい合間をぬって集まってくれているので、試してみる価値はあるかも」という気持ちも拭いきれず、まずは小さなことから試してみることにしました。
まず、資料を提供してくれたママに許可をいただいて、資料の写真を撮る。
それをその場で参加者にメールで送って共有すれば、それぞれ自分のスマホを見ながら話をすることができる。
試しに「どんな人にとっても、それほどハードルが高くなさそうなこと」からスタートしてみたところ、「あ、これ便利だね!」という声が上がったのです。
これで全員で資料を見ながらの打ち合わせが可能になりましたし、その後もみんなが同じ方法を積極的に取り入れるようになり、保護者内での情報共有が格段に早くなりました。
打ち合わせ中に回覧が始まった時に、その流れを変えるのは、ちょっと勇気のいることでした。
でも、思い切って発言してみてよかった。そう思えた出来事でした。
その後も、オンライン上でメモした議事録をすぐに共有したり、オンラインで確認する習慣がない人には、PDFにしてメールで送ったり。
そんなことをしていたら、その日の打ち合わせが終わる頃には「IT系」というあだ名が付けられていました。
たしかに私はIT系企業で働いているし、間違いではない。これはむしろありがたい。
…ということで、このキャラ設定を最大限に活かすことに!
私が心がけたのは、「いろいろな人がいる」ことを念頭に置いて、「みんなが無理なく取り入れられること」を第一に、少しでも効率よくなりそうなことはとりあえず提案してみるということ。
オンライン上の無料サービスを使って情報共有したり、みんなの意見を集約したりと、いろいろなことをやってみました。
そして……この謝恩会準備の経験を通して、私は改めて、先輩ママから言われていた言葉について考えました。
「保育園や小学校のPTAでは、パソコンを使えることをあまり言わない方がいいよ。」
確かに、その側面もあるのかもしれません。
パソコンを「使える人だけが使ってしまう」のでは問題になりますし、使わない人への配慮も必要になります。
一方で、最近はスマートフォンも普及していて、PCを使うかどうかにかかわらず、ITサービスを利用しやすい時代になっています。
大切なのは「便利なものを使ってIT化する」ということではなく、「自分が便利だと思うものを、周りの人にも『便利だね!』と感じてもらえるように工夫する」ということ。
私の場合は、「集まる保護者の人数が多い」「みんなそれぞれ忙しい」という状況下での謝恩会準備に、たまたま自分の得意分野であるITサービスの領域で、自分の持ち味を発揮できるチャンスがあったのかなと思います。
保育園などのママ同士の関係って、お互いの温度感を確かめ合ったりして配慮が必要な面もありますが、「使えるものは使ってみる」というスタンスも悪くないのかも……。
いよいよ来春、私は小学校の保護者会デビューを迎えます。
保育園とはまた違った難しさがあるかもしれないですが、あの時私なりに試行錯誤した経験も胸に、頑張ってみようと思います。