私の育児パートナーである夫は、妊娠中から私をとても気遣ってくれる人でした。
つわりで何も食べられないときも、精神的にガタガタだったときも、意味も無く涙が止まらず八つ当たりしてしまったときも、決して責めることなく優しく受け入れてくれました。
なんて恵まれているのだろう、と心から感謝する一方で、私には疑問に感じることがありました。
夫は私には良くしてくれる。
では、子どもには、どのように接するのだろう?
どんな風に可愛がるのだろう?
もちろんお腹の中の子どもに話しかけたりする姿から、子どものことも大事に思ってくれているのはわかっていました。
きっと子育ても一緒に頑張ってくれると信じていましたが、それはあくまでも予想でしかありません。
あんまり期待しすぎても、その期待が裏切られたらつらいなあ、とさえ思ったこともありました。
「夫」としての彼なら、よく知っているつもりです。
しかし彼が、どのような「父親」になるのかが、うまく想像できずにいたのです。
沐浴でまさかのミス…!夫のとっさの行動にたくさんの愛が詰まってた<第四回投稿コンテストNO.35>
33,726 View子どもが生まれる前の夫はパートナーとしては最高。でも父親としては?そんな疑問を吹き飛ばすきっかけとなった、ある日の出来事をしらたまさんがつづってくれました。
ことは、私と息子が退院してから2週間ほど過ぎたある日に起こりました。
我が家では、リビングのテーブルにベビーバスを持ってきて沐浴を行っていました。
夫が在宅の時は二人がかりで、主に夫が息子を支え、私が身体を洗っていました。
最初はおっかなびっくりだったものの、毎日行っていれば少しは慣れてきます。
そのため、二人とも油断をしていたことは否めません。
いつものように息子を裸にし、夫が息子を抱き上げ、ベビーバスに近づきます。
私も沐浴に必要なものを揃え、今日もチャチャッと洗いますかと顔を上げたその時です。
私は目撃してしまいました。
夫に抱かれる息子の股から、水芸のごとく、おしっこが噴き出すその瞬間を…!!!
やばい!
そう思いましたが、今から動いたところで間に合いません。
夫もすぐに異変に気がつきました。
けれど、乳児をしっかり抱えたままでは、どうすることもできません。
「「あーーーーーっっ!!!」」
夫と私の絶叫は見事にシンクロし、その場に響き渡りました。
弧を描くおしっこの動きはスローモーションに見え、これから起こるであろう惨事が易々と目に浮かびました。
あっこれ床べしょべしょになるやつやな。
このあとカーペット掃除大変だなぁ。
しょうがないね、こんなこともあるよね…ホントにやらかすとは思わなかったけど…
もはや諦めの境地だったのでしょうか、妙に冷静に様々なことが頭を過った気がするのですが、実際に私が出来たのは、間抜けな声を上げることのみでした。
しかし、夫は違いました。
彼は、絶叫のさなか、咄嗟に息子の身体をぐっと抱き寄せました。
息子のおしっこは止めることはできない、ならばせめてとおしっこを堰き止めようとしたのです。
自身の衣服を犠牲にすることで。
私たちの絶叫が止んだ後も、しゃー……というか細い放尿音は途絶えていませんでした。
その音ごと、夫のジャージが吸い込んでいきます。
私も彼も為す術なく、部屋着がじっとり濡れていく様を見つめるほかありませんでした。
やがておしっこは止まり、静寂に包まれるリビング。
後に残るはスッキリ排尿して満足そうな息子。
その光景がシュールすぎて、夫には申し訳ないですが、思い切り笑ってしまいました。
つられた夫も裸の息子を抱えて大笑い。息子本人は「何でこの人たち笑ってるの…?」と言わんばかりの表情できょとんとしていました。
夫の犠牲のお陰で床はほとんど被害ゼロ。
服を洗濯するだけで済みました。
のちに当時の行動について聞いてみたところ、「あの瞬間、これはもう受け止めるしかないと思った」とのこと。
私にとってこの出来事は、夫が「いざというとき、そういう行動ができる人」ということを知ることが出来た経験として、強く残っています。
突然の放尿という惨事を予測し、オムツをギリギリまでつけておくなり、飛び散らせないようガードをつけるなり、他に取るべき対策があっただろうと今なら思うのですが…。
それでも、「おしっこでさえ受け止める」という気概を見せた彼を、誇らしく思います。
おしっこで床が汚れるのを防いだファインプレーというだけでなく、文字通り、息子を全身で受け止められる人だと、はっきり理解できたのです。
この人となら何があってもこの子を育てていける。
一緒に頑張っていける。
息子のことを、一生懸命に支えてくれる。
そんな風に感じられた出来事でした。
あれから半年。
今日も夫と私は、一緒に育児を頑張っています。
夫は縦横無尽に動き回る息子と遊び、お風呂に入れ、寝かしつけてくれます。
そしていちいち心配性な私の話を聞き、大丈夫だよと安心させてくれます。
「ナイス育児!!!」と叫びたい経験が増えていく日々です。
それでも、一番心に残っているのはあの沐浴前の出来事です。
今でも思い出したように「あのときの夫はすごかった」と口にすることがあります。
その度に、この人となら育児を頑張っていける、と感じたことを思い出し、原点に帰った気持ちになるのです。
息子が大きくなったら、語り継ぐつもりです。あなたのお父さんは、あなたのことを愛しているんだよ、と。
(ライター:しらたま)
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