【医師監修】産前産後のママを悩ます“痔”。症状、治療法をチェック!
1,539 View産前産後のママに多い体のトラブルのひとつに痔があります。産前産後は痔の発症や悪化がおこりやすい時期であり、多くのママが痔を経験しています。そこでこの記事では、ママがなりやすい痔の種類と、症状や予防法を中心に詳しくお伝えします。 <監修:ポートサイド女性総合クリニック 清水なほみ医師>
妊娠中、出産後の体はさまざまなトラブルを招きやすいものです。
また、育児に追われて自分のことは後回し…気づけば症状が悪化していたということも大いにあります。
そのなかでも痔というと、「恥ずかしくて誰にも相談できない」という方も多いことでしょう。
しかし痔は、ホルモンバランスの関係で便秘になりやすい女性に多い病気なのです。
痔の種類
痔には、主に「腫れる」「切れる」「膿が出る」といった症状があります。
痛みを伴うものや、出血を伴うもの、もしくは一切自覚症状がないものまで、タイプや進行度によって異なります。
まずは大きく分けて3つある痔の種類とそれぞれの症状についてみていきましょう。
痔核(いぼ痔)
血管がうっ血し、いぼ状に血液が膨らんだ状態のものが痔核とも呼ばれるいぼ痔です。
肛門の外側にできる外痔核と内側にできる内痔核があります。
外痔核は痛みがあり、大きく腫れると激しく痛むこともあります。
一方で、内痔核はほとんど痛みがなく、排便時の出血で気づく人もいます。
いぼ痔は、肛門をしめるクッションの役割をしている部分に強い負担がかかることで発生します。
裂肛(切れ痔)
硬い便の排出や下痢、無理ないきみによって肛門部の皮膚が切れ、痛みや出血を引き起こすのが切れ痔です。
切れ痔になると強い痛みを恐れて便意を我慢するようになり、便秘が悪化します。
排便しづらい状態が続くことで、切れては治りを繰り返し、傷の周りが硬く切れやすい状態になります。
痔ろう(あな痔)
あな痔とは、肛門や直腸の周囲が細菌の感染によって化膿することからはじまります。
化膿したところが次第に大きくなり、切開したり、破れたりして肛門の中と外がトンネル状に繋がります。
あな痔は自然に治ることはないので、手術が必要です。
妊娠中に痔が発生しやすい理由
妊娠によって体にさまざまな変化が起こるため、妊産婦の多くが痔になるといわれています。
ママが痔になりやすい理由として、便秘や運動不足、子宮が大きくなることにより腸が圧迫されることなどが挙げられます。
このように、妊娠中の女性は痔になりやすい体であるため、痔を患うのはしかたがないことなのです。
実際、妊娠中期・後期以降に痔を発症する人の割合は約85%というデータもあるほど(※)、おしり周りのトラブルに悩むママはたくさんいます。
(※)Gojnic, M. et al.: Clinical Experimental Obstetrics and Gynecology, 32: 183, 2005.
ママが一番なりやすいのはいぼ痔
痔を患う妊産婦のうち、95%以上がいぼ痔だというデータがあります。(※)
ママが痔になりやすい理由は前項でお伝えしたとおりですが、上記にくわえて出産時のいきみで肛門周辺に大きな負荷がかかることも影響しています。
(※) Poskus, T. et al.: BJOG, 13: 1666, 2014.
厄介なのは内側のいぼ痔
妊産婦に多いいぼ痔のうち、肛門の内側にできるいぼ痔(内痔核)には注意が必要です。
内痔核というのは、便やおならが外に漏れないよう、肛門部をしめるクッションの役割を果たしている部分がうっ血によって大きくなったものです。
内痔核の症状の度合いはⅠ~Ⅳ段階に分類されます。
初期の内痔核の場合、排便のときに出血はありますが、痛みが少なく、いぼも飛び出さないため気づきにくいとされています。
そのため、Ⅲ度やⅣ度になるまで放置しがちです。
しかし、痛みがないからといって放っておくのは危険です。
症状が進行した場合、手術が必要になるケースもあります。
段階別の症状を知り、体の状態をしっかり把握しておきましょう。
前段階
排便時だけでなく、日常生活において多少の負担が肛門にかかります。
網目状に広がっている肛門部の静脈(内痔静脈叢)もある程度ふくらんでいるのが一般的です。
しかし、便秘や出産によって、肛門への負担が続くといぼ痔へと進行していきます。
I度
肛門をしめる役割を担っているクッション部がふくらんで、いぼ痔ができます。
排便時のいきみなどによって負担がかかり出血するようになりますが、いぼは飛び出ません。
また、I度のときは痛みを感じません。
この段階のいぼ痔は、生活習慣の改善などで対処することが可能です。
便が出やすいように腸内環境を整え、肛門を清潔に保ち、長時間いきむことがないように心がけます。
Ⅱ度
肛門部の組織が弱くなることでいぼ痔を支えられないようになります。
そのため、排便時にいぼが肛門から飛び出すようになりますが、飛び出たいぼは自然にもとに戻ります。
Ⅱ度の段階でも痛みはありませんが、排便時に出血することがあります。
Ⅰ度、Ⅱ度のいぼ痔の場合は生活習慣の改善のほか、うっ血、浮腫みを軽減させるために軟膏や座薬を用いることがあります。
Ⅲ度
Ⅲ度まで進行すると、排便時に肛門から飛び出したいぼは、手で押し込まないと戻らなくなります。
また、体を動かしたり、重いものを持ったり、おなかに力を入れたりしただけでもいぼが飛び出すようになります。
Ⅲ度まで進行したいぼ痔は、病院での受診が必要です。
Ⅳ度
指で押し込んでもいぼは戻らず、外に飛び出た状態のままになります。
痛みや出血はほぼなくなりますが、摩擦などの刺激によって粘膜の分泌液が増えたり、肛門の周囲がかぶれてかゆみや不快感が常にあります。
重症度としては最終段階ですので、早めに専門医で診てもらいましょう。
いぼ痔の多くは、痛みを伴わないため、放置してしまう人が多いようです。
しかし、いぼ痔を放っておくと、気づかないうちに進行していきます。
安易に自己判断せず、専門医の診断を受けることをおすすめします。
いぼ痔の予防法
まだ症状があらわれていない方で、ご自身の生活習慣が気になる方は、今からできる予防法を試してみましょう。
生活習慣を見直すことが、健康なおしりを保つためには大切です。
朝食をしっかりとる
朝、胃に食物が入ることで腸の動きが活性化され、便意を引き起こしやすくなります。
一方で、朝食を摂る習慣がない方は、腸の動きが活性化されず、体が排便しやすい状態になりません。
腸内に便がとどまる時間が長くなると、便はどんどん硬くなり、さらに排泄しづらい状態になっていきます。
便秘は痔の原因のひとつですから、毎朝朝食を摂る必要があるのです。
毎朝規則正しい時間に食事をするためには、就寝・起床時間も整えることをおすすめします。
ただ、特に産後は、夜間の授乳などで、睡眠リズムも整えにくいため、「規則的に生活しなければいけない」と思う必要はありません。
忙しくてゆっくり朝食をとる暇がなかったら、起き抜けに白湯やレモン水を飲むだけでも、腸を目覚めさせる刺激になります。
朝食には、以下のような食物繊維を多く含む食品を摂るといいですよ。
・イモ類(じゃがいも、里芋、山芋、さつまいも)
・穀類(玄米、胚芽米、全粒粉パン、ライ麦パン)
・野菜(ごぼう、にんじん、ブロッコリー、かぼちゃ)
・果物(バナナ、キウイ、りんご)
・海藻(わかめ、昆布)
・キノコ(しいたけ、しめじ、舞茸、えのき)
刺激物、腸内環境を悪くする食べ物を控える
刺激が強い食べ物は、消化されずに便に付着することがあります。
肛門部の皮膚が直接刺激され、痔の発症リスクが高まりますので、刺激物の摂取はなるべく控えましょう。
また、腸内に悪玉菌が多くなると便秘や下痢につながる可能性があります。
腸内環境を悪くする食品添加物を多く含む食品なども極力避けたほうがいいです。
食べすぎに注意が必要な食品
・唐辛子、わさび、しょうが、カレー
・ファストフード、インスタント食品、コンビニ弁当
適度な運動
妊娠中や産後の体に激しい運動は禁物です。
しかし、気持ち良く感じる程度の運動は、腸の動きを活性化させるだけでなく、リラックス効果もあるためおすすめです。
その日の体調をみながら、1日30分~1時間程度でも大丈夫です。
また、毎日やる必要はなく、無理のない範囲で週に2~3回程度でも便秘になりにくい体づくりができます。
運動で汗をかいた後は軽くシャワーを浴びて、肛門部を清潔に保つことも忘れずにおこないましょう。
おすすめの運動
・ウォーキング
・ヨガ
トイレは行きたいときに行く
「毎朝決まった時間に排便するようにしている」
「便はなるべく家で済ませるようにしている」
「通勤で長時間電車に乗ることがあり、便意を我慢することがある」
上記の内容に当てはまる方はいらっしゃいますか?
実はこのような行為は便秘を引き起こす原因になるので注意が必要です。
尿意を感じたらトイレに行くのが一般的だと思いますが、便意も同じく「行きたいときに行く」のが便秘予防にはいいのです。
例えば、「毎朝決まった時間に排便する」という行為は一見、生活リズムが整っていて良さそうな印象を受けます。
しかし、決まった時間にトイレに行っている場合、便意がないのに便が出るのを待っているという可能性があります。
無理ないきみは肛門部がうっ血し、いぼ痔を発症させる可能性がありますので、5分待っても出ない場合は諦めましょう。
また、一度にすべて出し切ろうとして必要以上にいきまないようにしましょう。
我慢するという行為も、便が体内にとどまる時間が長くなり、硬くなってしまうので気をつけましょう。
お風呂に浸かる
夏場の暑い時期はシャワーだけで済ませる方も多くいることでしょう。
しかし、いぼ痔は血管を通る血が膨らんでできるものなので、血行を良くさせる必要があります。
ゆっくりお風呂に浸かることで、血液循環が改善され、いぼ痔の予防につながります。
いぼ痔の治療法
痔の治療は進行度によって異なりますが、日常生活の改善や肛門部を清潔に保ち安静に過ごす保存療法が基本です。
また、ドラッグストアなどでも手に入る座薬や軟膏等を使用することもあります。
症状が進行した場合は手術を行うケースもあり、3日~2週間程度の入院と2週間に1回くらいの通院で経過観察をおこなうのが一般的です。
肛門からの出血は痔以外の病気の可能性もあります。
気になる症状があり、出血や痛みを感じる場合は、早めに受診しましょう。
保存療法
生活療法とも呼ばれます。
保存療法では、痔の症状を悪化させないために、日常生活の改善をおこないます。
生活習慣が整えば、痔が治ったあとの再発リスクを軽減することにもつながります。
座薬、軟膏、飲み薬
出血、炎症などの症状に応じた薬剤を選択します。
どの段階でも、まずは薬剤の使用で様子をみます。
症状がなくなればそのまま経過観察を続けます。
ゴム輪結さつ法
専用の器具を使っていぼ痔の根元を小さなゴム輪で縛ります。
いぼ痔への血流を止めることでいぼをえ死させる治療法です。
治療中や治療後の痛みが比較的少なく、外来で処置を受けられます。
硬化療法(注射療法)
いぼ痔の根元に特殊な薬剤(硬化剤)を注射して、いぼを小さく硬くする治療です。
これにより、いぼが肛門から飛び出すのを防ぐことができます。
ゴム輪結さつ法と同じく、外来で処置を受けることができますが、程度によっては2~3日程度の入院が必要な場合もあります。
手術
内痔核の手術で、最も一般的なのが「結さつ切除術」という手術です。
いぼに通じる血管を糸で縛り、血流が止まった状態のものをメスで切り取ります。
重症度が高いⅣ度のいぼ痔だけでなく、日常生活に支障をきたす状態の場合には手術をおこなうケースがあります。
入院期間は概ね1~2週間程度です。
気になる症状があれば早めの対処を
「私っていぼ痔かも?」「思い当たる症状がある」といった方は早めの対処が必要です。
例えば以下のような項目は要チェックです。
・肛門が痛い、痒い
・便に血が混じっていることがある
・残便感を感じることがある
妊産婦で痔を発症する人はとても多く、それは体に起こるさまざまな変化が原因のひとつとなっています。
少しでも心配なことがあれば生活習慣を見直し、おしりの健康を保ちましょう。
【監修】清水 なほみ先生
2001年広島大学医学部医学科卒業。中国がんセンター産婦人科・ウィミンズウェルネス銀座クリニック・虎の門病院産婦人科を経て、2010年9月「ポートサイド女性総合クリニック~ビバリータ~」を開業。日本産科婦人科学会専門医/日本不妊カウンセリング学会認定カウンセラー
日本産婦人科学会・日本性感染症学会・日本思春期学会・日本不妊カウンセリング学会所属。
ポートサイド女性総合クリニック http://www.vivalita.com/
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