一般的に“つわり”と言えば、妊娠5~6週に始まり、11~13週くらいにピークを迎えるもの。
妊娠初期に起こるものというイメージが大きいのですが、中には後期に入っても、つわりの症状で苦しむ方がいます。
これが、俗にいう“後期つわり”です。
“後期つわり”という病名があるわけではありませんが、妊娠後期につわりのような症状が起こることから、このように言われることがあります。
妊娠後期のつわりは、妊娠8~9ヶ月(妊娠32~35週)くらいから起こりますが、早い人では妊娠中期の終わり頃、7ヶ月くらいから起こることもあるようです。
なお、妊娠週数がさらに進み、37週、38週くらいになると、後期つわりの症状は楽になることが多いようです。
後期つわりの代表的な症状は、嘔吐や吐き気、胸やけなど。
さらに、げっぷや、みぞおちのあたりや胃に痛みを感じることがあります。
これは、赤ちゃんが成長するに従い子宮が大きくなって、胃を圧迫するからです。
この胃の圧迫によって、食事をした際、食べ物が胃を通過するのに、普段よりも長い時間がかかってしまうのです。
また、ホルモンの分泌も大きな原因の一つ。
妊娠週数が進むにつれて、胎盤から“プロゲステロン(黄体ホルモン)”というホルモンが分泌されるのですが、胃や腸などの筋肉がゆるみ、動きが低下してしまうのです。
食道の筋肉もホルモンの影響を受けて緩んでいることがあり、胃酸も食道まで上がってきやすくなります。
こうした状態を「胃食道逆流症」と言いますが、いつまでも続くなどあまりにひどい場合は、胃薬や吐き気止めなどが必要になることもあります。
自己判断で市販薬を使うことなく、必ずお医者さんに相談しましょう。
妊娠初期のつわりは、ホルモンバランスの変化などで起こると言われています。
後期のつわりも、出産の準備に向けてホルモンの分泌が起こることで症状が出ますが、さらに、物理的な胃の圧迫も大きな要因として加わります。
これが、初期のつわりとの違いと言えるでしょう。
ただし、胃への圧迫は、出産までずっと続くわけではありません。
妊娠10ヶ月(37週~38週)の臨月になると、体が出産の準備に入り、子宮の位置も下がってきます。
そのため、胃への圧迫は少なくなり、吐き気などの症状はおさまってくるのです。
お腹が大きくなってから臨月までの、一時的な状態なのです。
とはいえ、大きくなった子宮は胃だけでなく膀胱も圧迫し、膀胱への圧迫は、臨月になっても続きます。
トイレの回数が増えたり、くしゃみなどで尿モレを起こしてしまったりすることもあるでしょう。
また、この後期つわりの時期には、吐き気などのほかに、動機、息切れ、むくみなどを訴える方もいます。
これは、血液の循環量が増えることで、心臓や腎臓、肺への負担が大きくなるからです。
妊娠中は、体の状態がどんどん変わっていくもの。
戸惑うことも多いかもしれませんが、その都度、自分の体の声に耳を傾けて、大事にすることが必要です。
嘔吐や吐き気があり、「これって後期つわりかも?」と思ったら、まずは以下のようなことを試してみてください。
軽い症状であれば、妊婦さん自身の工夫で、ある程度改善させることができるかもしれません。
1日3食を5~6回に分けるなどして、少しずつ食べるようにしましょう。
ポイントは、「普通の食事を何回かに分ける」こと。
食事量が増えてしまうと体重増加の原因になります。
また、普通の食事の量を減らし、間食を増やしてしまうと、栄養バランスが崩れてしまいますので注意してください。
仰向けに寝ると、胃が圧迫されやすくなります。
クッションなどを使って、少し体を起こした状態(半座位)で寝てみるなど、自分の楽な姿勢を見つけてみてください。
なお、食べた後にすぐ横になる、寝る直前に食べるのもNGです。
後期つわりに限らず、嘔吐や吐き気の際に注意したいのが、脱水です。
意識して水分をとるようにしましょう。
このほか、症状が軽いなら無理のない程度に適度に運動する、疲れたら休む、しっかり睡眠をとることなども大切です。
働いている妊婦さんや、上のお子さんがいる場合なども、周囲の協力を得ながら、無理をせずしっかり休めるようにしておきたいですね。
後期つわりの対策として、特に気をつけたいのが食べ物。
ただでさえ圧迫されている胃に、なるべく負担をかけないようにするのが基本です。
脂っこいものや辛い食べもの(刺激物)、においの強いものなどは避け、消化がよくあっさりしたものを食べるようにしましょう。
うどんやおかゆ、果物、ヨーグルト、豆腐など食材選びを工夫するほか、食材を細かく切る、柔らかく煮るなど、調理法を変えてみるのもおすすめです。
「揚げ物がダメ」
「水分の少ない食べ物のほうが食べやすい」
「果物なら食べられる」
「水分ならとれるので野菜ジュースを飲む」
「冷めたもののほうがニオイが少なく食べられる」
などなど…。
好みもあると思いますので、やさしいものを無理のない範囲で食べるようにしましょう。
適正なカロリー、十分なたんぱく質、塩分控えめ、不足しがちなビタミン、ミネラル類の摂取などは、この時期に気を付けたい「妊娠高血圧症候群」や、「妊娠糖尿病」の予防にも効果的です。
また、このように食べるものを意識するのは、出産後の授乳期にも大切なこと。
つわりの症状がある中、食事を工夫するのは大変なのですが、実践する価値は大いにアリ!です。
「どうしても後期つわりがつらい」
「いろいろな対処法を試したけど、改善しない」
そのような場合は、一度かかりつけのお医者さんに相談しましょう。
ひどい場合は点滴が必要になることもあります。
こういった場合、ただのつわりではなく、病気の可能性もあります。
特に疑われるのは、「妊娠高血圧症候群」です。
「妊娠高血圧症候群」は、妊娠32週以降の、妊娠後期に発症しやすくなるのが特徴。
重症になると、ママの血圧上昇や蛋白尿、けいれん発作、脳出血を起こすことがあります。
また、お腹の赤ちゃんにも影響します。
・急に全身がむくむようになった
・気を付けているのに体重が増える
・頭痛がする、頭重感がある
このような時に妊娠高血圧症候群が疑われますが、嘔吐や吐き気も、症状の一つです。
また、つわりと思って我慢していたら、消化管の病気だった!ということもあります。
妊娠後期に限ったことではありませんが、気になる症状がある、症状がひどい、いつまでも続くという時には、早めに医師に相談しましょう。
妊娠初期との共通点もあり、また違った点もある妊娠後期のつわり。
「あんなにつらかった初期のつわりを乗り越えたのに、また…」と落ち込んでしまう人もいるかもしれませんが、多くは、妊娠後期に差し掛かかった時期特有の自然なことなので、過剰に心配することはありません。
お腹の赤ちゃんとの対面まで、もう少しです。
今回ご紹介したような対処法を実践しつつ、しっかり休んだり気分転換を図ったりしながら、乗り越えていきましょう。
どうしてもつらい時は、医療機関を受診しましょう。