ちょっと忙しくなるとすぐに、家事がおざなりになってしまう。
家事とひとくくりにしてしまうと、うんと気が重くなってしまうから、どおれ、と解体してみるね。
例えば、玄関の掃き掃除。
例えば、シーツの交換。
例えば、排水溝のお掃除。
例えば、トイレの床拭き。
例えば、洗面所の鏡拭き。
例えば、洗濯物のお畳み。
ひとつひとつはなんてことない、かわいいやつらだったりする。
なんだけど、ありんこだって、群衆になれば象だってやっつけられるのと同じように、細々も集まれば心身を圧迫する。
これに立ち向かうには、解体されている状態で、日々、その都度手を打たなければならない。
玄関が目も当てられない状態になる前に、ほうきで掃く。
そうすれば、靴箱の下に信じられないくらい埃が溜まることだって、避けられるはず。
お風呂場も、2日に1回くらいは床もブラシで軽くこする。
お風呂のイスだって、スポンジで軽くこすっておく。
排水溝の蓋も洗う。
そうすれば、洗い場の隅が茶色くくすむこともないだろうし、お風呂イスだってずっと白い。
キッチンのシンクも、1日の終わりに忘れず洗剤でざっと洗って、コンロもその日のうちにお湯で絞った雑巾できゅっと拭いておく。
そうすればシンクが曇ることもそうそうないだろうし、コンロだって汚れがこびりついて手に負えないなんてことにもならない。
洗濯ものだって、大きなお山になる前に、毎日きちきち畳めばいい。
そうすれば、パンツがないとか、靴下がないとか、誰も大騒ぎしたりしない。
負債を残さないことが大事なのだ。
なんだけど、そうやって、小さいありんこを、ぷちぷちつぶしていたら、あっという間に日が暮れる。
1日の終わりに、腕を胸より下に下げていたのは、今日という日にいったい何分あった??食事以外に座った時間ってありましたっけ、ってなる。
最近の私は、家事負債にうんと嫌気がさしてしまって、もう2度と負債を残さない、ノーモア負債の意気込みで暮らしていた。
暮らしていたら、なんと、すごく疲れた。
人が暮らすって、ものすごく汚れを産むし、それは誰かが処理をしていかなければならないし、そしてそれと同時に、汚れとはまた別次元の、避けようもない家事が常にそこにある。
つまり、ごはんの用意であるとか、消耗品の補充。
ごはんの用意なんて、ひと口に簡単に言っちゃいけない。
これも解体するととんでもないんだから。
まず、冷蔵庫の中を把握しておくために、脳のストレージをずいぶんと圧迫する。
私みたいに、ニワトリみたいなおつむを持っていると、これだけで重労働。
あれとあれがそろそろ賞味期限が、とか、あれとあれは今日、もう一回火を通しておかないと、とか、牛乳が明日の朝まで足るか微妙だよ、とか、とか、冷蔵庫の中はとっても奥が深い。
そして、お財布の中の塩梅も、常に気にしていないといけない。
我が家は、スーパーでのお買い物用のお財布を分けてあって、そのお財布の具合をいつだって気にしている。
今月はペースが行き過ぎているから、ここらで胸肉を投入しなくては、とか、今月はやや余裕があるから、この歩みを緩めてはいけない、とか。私はけっこう真面目でもある。
そして、つくる段になれば、これは全員にウケるだろうけれど、これは冒険だから、もうひとつ安パイを用意しようか、とか、家族全員のご尊顔を浮かべながら真摯につくる。真面目だから。
そして、つくって食べて、食べさせたら、もちろん後片付けがあるわけで、後片付けをするには、水切り籠から乾いた食器を仕舞わないといけないわけであって、食事だけでも連綿と家事が連なっている。
すごくない?この事態。みんな普通にやってるの??天才過ぎない????
そして、忘れてはいけない、消耗品の補充。
あれこそ、なに。
例えば、トイレットペーパーをうっかり切らしたりなんかしちゃったら、ああもう、だ。
3人のちびっこを引き連れて、今一度夕暮れの街に戻らないといけない。
トイレットペーパーを買うために、また、「ゼリーは買わないよ」とか、「そのキャラクターのバンドエイドはまた今度ね」とか、「歯ブラシはまだ予備があるでしょ」とか、「歯磨き粉は(以下同じ)」、「末っ子ちゃんがいない!!探して!!」をやるということ。
つまり、なにがなんでも切らせてはいけない。
最後の2個くらいになったあたりで緊張が走る。
ティッシュだって、トイレットペーパーだって、歯磨き粉だって、三角コーナー用のビニール袋だって、ハンドソープだって、食品用ラップだって、アルミホイルだって、使えばなくなるのだし、だけれど、この家でなくなっていないように見えているのは、誰かがそっと補充しているという驚愕の事実をみんな胸に抱きしめていてほしい。
妹がいつか、「心地良いことには人は鈍感。不快には敏感」と言っていた。まさにその通りなんだよな。と思うばかり。
私のこの、負債を残さないムーブメントがいつまで続くのかとっても未知だから、とりあえずムーブメントが終わる前に、ひとしきりこうやって全力で褒めておく。
そして、家事を大幅に担っているどこかの誰かが、「え、やばい、私ってとってもえらい…」、と思うための材料と、家事を家族の誰かに大幅に委託している誰かが「うそ…まじごめんだし、まじありがとう…ケーキ買って帰ろう…」って、思うための材料を、こうしてインターネットの海の片隅に放流しておく。
ほんと、家事ってなんなんだろうな。
たぶん、全人類にとって、最高に荷が重いよね。