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公開 2020年10月28日  

末っ子の成長欲の源は、「自分がいつも下」だということだった。

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この所、末っ子にじゃんけんブームがきています。

明けても暮れてもじゃんけん、じゃんけん。

じゃんけんを理解できるようになったのが、どうやらとっても嬉しい様子。


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3歳の末っ子がここの所、じゃんけんブームの中にいる。

なにかにつけ、じゃんけん。遊びと言えばじゃんけん。さらには、賢さと言えばじゃんけん、であるらしい。


ようやくじゃんけんの理屈がわかってきた末っ子は、最近ここぞとばかりに、じゃんけんの知識を披露している。

たぶん、彼女にとって、グーがチョキに勝つとか、チョキがパーに勝つとか、パーがグーに勝つとか、それらの仕組みが長らく闇に包まれていたんだろう。

姉兄のじゃんけんに、今までも加わっていたんだけれど、自分が勝っているのか負けているのかまでは理解ができず、姉や兄に「じゃあ、負けたから鬼ね」やらなんやら、突きつけられる答えだけが、すべてだった。

それが、この勝敗の理屈が分かるようになったんだから、きっと目の前が拓けるような心地だったと思う。

そして、どうやら、「私、とってもお姉さんになった」と思ったんだろう。



先日、お友達のお宅に赤ちゃんが生まれたというので、お邪魔した。

長女も長男も、ほくほくと赤ちゃんを眺めて触れて、かわいいねかわいいね、と言い合った。

子どもたちが、楽しく遊んでいると、ふと末っ子がベビーベッドにかじりついていて、なにやら赤ちゃんに向かって話している。


どおれ、と聞き耳をたてていたら、まさかのじゃんけんをレクチャーしていた。

赤ちゃんの握ったおててを見て、グーを連想したのかもしれない。


小さな小さな声で、「チョキが負けちゃったから、次はパーしてね、○○(自分)はチョキするから、そしたら○○(自分)勝つからね」とかなんとか。


それはそれは、小さな声で話していた。

いつも兄姉に、あれこれ言われるがままの末っ子が、やっと見つけた、自分より小さい存在。

その彼に向けた、最初の言葉がそうか、じゃんけんなのか、と感心するやらかわいいやら、頭が忙しかった。



またある時は、兄と姉がなにやら口論しているのを、末っ子が頬杖をついて眺めていた。

ああしょうがないわね、といった風情がよく出ていた。

本人にもそのつもりがあったんだろう。

ああしょうがないわね風情を出すために、それらしいなにかを言いたかったらしい。

小さな声でため息交じりに、なんごとかを言い出したので、耳をそばだてて聞いていたら、やっぱりと言おうか、それもじゃんけんだった。


「はぁ、もう、ね。だってね、グーとパーだとね、グーが負けちゃうんだから……うんたらかんたら」


もちろん、兄姉の喧嘩に、じゃんけんは関係がなく、ただ、末っ子は自分が知っている中で、一番お姉さんらしいことを言いたかったんだと思う。

その、賢さの権化がじゃんけんなのだった。かわいいが渋滞する。



私には3歳離れた妹がいて、2歳離れた姉がいる。

1、2年位前に、妹家族と姉家族と母とで、旅行に行った。


そのときに、なんでだったかは忘れてしまったんだけど、我が家の子どもたちがとっても喜んで、飛び跳ねた。

長女と長男が「わーいわーい」とぴょんぴょん飛び跳ねて、末っ子もふたりを見てそれに倣うように、ひざをきゅっきゅと曲げながら万歳をしていた。

まだ2歳かそこらだったから、ちゃんとしたジャンプは当然できなくて、でも姉兄の真似をしたい末っ子が、とても微笑ましくてかわいいなと思っていた。


「真似してるね」と私が笑うと妹が、「うん。でも同じようにはできないって、わかってるんだよ」と言った。


妹曰く、自分には「姉たちと同じようにはできない」が、ずっとついてまわったらしい。

そういうものだと思っていた、とも言っていた。

以来、末っ子がほんの少し背伸びをするとき、それは姉や兄の背中を追っているのかもしれない、と思うようになった。

そして、同時にほんの少し「ねーねやにーにみたいにはやれないけど」と思っているのかもしれない、とも。



今、末っ子にとって今一番お姉さんらしくて、賢そうなトピックはたぶん、じゃんけん。

じゃんけんについてを話すとき、末っ子はどこか誇らしげだ。

なんだけど、ときどき勝ち負けがあやふや。

そこはやっぱり3歳。

つい先日の夜だった。

すっかりじゃんけんが得意になった末っ子と、じゃんけんをして遊んでいて、どこまで、勝つとか負けるとか理解しているんだろうと、ふと、聞いてみたくなった。

「グーとチョキはどっちが勝つの?」

「グー!グー固いから!」

賢い。自信満々なところも大変いい。

「そうだね。じゃあ、パーとグーは?」

「パー!グーは隠れちゃう!」

すごい。お姉さん。

「そうだね。じゃあ、チョキとパーは?」

「パー!」

「…チョキとパーだよ??」

末っ子はしばらく考えた後、間違えを認めるより、強引に押し通すほうを選んだらしい。

じゃんけんに潜む知性を、手放すわけにはいかない。

「今日はパーがかたまってるから!パーが勝つの!」

とても強い目をして言った。

パーに開いた手のひらに、ぎゅっと力を込めて、「硬いパー」を突き出していた。短い指がピンと伸びていた。

強引で新しい理屈。

なるほど、チョキの歯がこぼれてしまうかもしれないしね。

そういうこともあるかもしれない。

そのあと末っ子は、シャワーをかけたらパーはまた柔らかくなるとか、でもシャンプーするとシャンプーが目に入って痛いからチョキの目が痛くて(チョキの目というのは2本に突き出た指の先っぽらしい)…どうたらこうたら、と後ろめたいのか、しばらくぼそぼそと説明していた。

いいんだよ。間違えたっていいんだよ。

かたいパーという新しい概念も、とても利発で素晴らしいじゃないの。



最近ブームのじゃんけんを通して、末っ子の成長意欲が、びしびしと感じられる。

双子のような姉兄と、ひとり小さい自分を思うと、早く大きくならなくちゃ、と思うんだろうか。

こちらとしては、あまりにかわいいその拙さを、まだまだすべての毛穴から吸い込んでいたいから、どうかそのままでいてよと思うんだけど。


因みに末っ子は、3月生まれでもあるので、毎月お誕生日会の日には、4歳になるお友達を見送っていることになる。

それもまた、彼女の成長意欲に拍車をかけるんだろう。

なかなか4歳になれない末っ子は、ついに先日、「4歳になった」と言い出した。

「まだお誕生日じゃないんだよ」と、遠慮がちに答えると、しばし逡巡した後、「内緒にしとけばいいんじゃない?」と上目づかいで囁いた。

そんなにお姉さんになりたいのだな、と思うと、母としては頷くしかない。

じゃんけんもできるようになったことだし、もういっそひと足お先に4歳でいいか、と思う。


※ この記事は2024年11月20日に再公開された記事です。

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