夫は注射が大の苦手。
針が自分の皮膚に入ってくる感じが、どうしても受け入れられないのだそうです。
基本的に健康体で体力もあるため、ここ10年くらいは注射や点滴を打つ場面もなく過ごしてきた夫。
結婚した時に今後の妊娠に備えて、採血を伴うはしかの抗体検査を受けてもらおうと説得するのも一苦労。
なんとか了承してもらえましたが、検査を受けたその日は一日中、夫の顔色は真っ青でした。
そんなわが家にも2人の子どもが産まれました。
そしてある年の秋、なるべく家族全員で健康に過ごすために、インフルエンザの予防接種を皆で受けようと夫に話したところ、返ってきた言葉にびっくり。
夫の返事は「いや、俺はいいよ」でした。
「俺はいいよ」
つまり、予防接種を受けない、ということ。
子どもが注射をいやがるのは覚悟していましたが、まさか夫が予防接種を受けないと言い出すとは、全くの予想外でした。
私はすぐに「いやいや、一番インフルエンザにかかりそうなのはあなただよね」と考えました。
私は在宅ワーク。
それよりも、全国を出張で飛び回り、色々なお客様と会う機会のある夫の方がインフルエンザウィルスを家庭に持ち帰る可能性があります。
不在がちの夫はたしかに、家族に感染させるリスクは低いかもしれない。
でも、だからといって予防接種を受けないでいい理由にはなりません。
そんなことわかっているはずなのに……と思い、「何で?」と聞いてみると、即「注射がイヤだから」との返事。
じゃあ、子どもたちが病気になったら?
仕事を中断して、病院に連れて行って、看病するのは全部私です。
そして、子どもたちから病気をうつされるのも、これまで、いつも私でした。
何だか不公平だし、しかも自分が注射が苦手だからと言って、感染症対策に万全を尽くさないのは家族の一員として「無し」だ。
だんだんと怒りが湧いてきました。
また、インフルエンザは大人でも重症化リスクがあり、以前自分が1週間高熱を出して寝込んだ時はかなりつらかったという経験もあります。
夫にも、そんなつらい思いをしてほしくない……とも思いました。
ただ、夫の注射嫌いは根強く、説得にもかなりの労力が必要そう。
そこで、私は一つのアイデアを思いつきました。
夫も珍しく休みの、10月の土曜日。
ちょうど子どもたちの健診や塗り薬の処方があったので、お願いして一緒に病院に行ってもらうことに。
その時、私は前から考えていた計画を実行することにしました。
それは、「できるだけ逃げ場の無い状況を作り出し、夫に自然な形でインフルエンザの予防接種を受けてもらう」こと。
私は看護士さんの問診中に、夫の目の前で、「ついでに家族でインフルエンザの予防接種も受けて帰っていいですか?」と聞いたのです。
ちょうどインフルエンザの予防接種が始まり、まだワクチンの在庫もあるというその病院。
当日申し込みでも、家族も一緒に予防接種を受けられることは、もちろん事前に確認済み。
夫がいくら注射が嫌いでも、看護士さんの前で「注射嫌いなんで予防接種受けないです」とは言いにくいだろうなと踏んでのことでした。
注射嫌いの夫には、少々可哀そうな事をしたなと思いましたが、夫は「やられた……!!」と、渋々ながらも予防接種を受けてくれました。
そのおかげなのか、その年は、誰もインフルエンザにかかることなく過ごすことができました。
そうは言っても注射嫌いの夫には、気の毒な事をしたなという気持ちもあり、若干後味の悪かったその翌年。
なんと、夫が「今年は予防接種いつ受ける?」と自分から聞いてきてくれたのです。
私が驚いて「え、どうしたの…?注射、もう大丈夫なの?」と聞くと、驚くような言葉が返ってきました。
「いや…自分が注射が苦手だからって予防接種受けなかったとして、そのせいで家族がインフルエンザにかかったら俺もつらいなあと思って。」
「そしてその負担は、全部、貴女にかかってくるってことに気付いたんだよね。申し訳ないなぁと思ってさ」
「注射は俺がちょっと我慢すればいいかなって」
私はとにかく去年との違いにびっくりしてしまい、言葉も出ませんでした。
私の大変さをわかってくれたのか……と嬉しい反面、よっぽどあの時の怒りが顔に出てたのかも?と焦りました。笑
けれど、自分が嫌いな注射を受け入れてくれるくらい、夫も家族の一員として色々と考えてくれているんだなぁと嬉しく思った出来事でした。
今年もインフルエンザの予防接種は予約済み。
今度、家族みんなで受けに行く予定です。