我が家には小学校2年生の男女の双子がいます。
ある日息子がこんなことを言いました。
「Aくんは、おつかいしたことあるんだって。学校の近くにある、野菜の売っているところあるじゃん。あそこで、お母さんに頼まれて、野菜を買ってきたことがあるんだって」
”野菜の売っているところ”とは、家の近くにある無人野菜販売所のことです。
近所で畑を耕している方が、自分の家の敷地内に設置し、その日に採れた野菜を並べています。
「そうなんだ。おつかい行ってみたいの?」
と尋ねてみると、「いや、いい」と言ってその会話は終わりました。
我が家では、まだ双子におつかいを頼んだことがありませんでした。
小学校2年生の男児2人が、どんな経緯でおつかいの話になったのか。
想像すると面白いな〜と思いながら、きっと息子はおつかいに行ってみたいんだろうな、と思っていました。
そんな会話をして数日経った日のこと。
夕方仕事を終えて、夕食の準備に取り掛かろうとしたとき、明日の朝食用のパンが無いことに気づきました。
お米を準備すればよい話ですが、ひらめきました。
せっかくなら、双子におつかいを頼んでみよう。
「明日の朝のパンを買うのを忘れていたんだけど、買いに行ってくれる?」
そう双子に声をかければ、きっと喜んでおつかいに行ってくれるだろう。
そんな母の目論見に、「行く!行く!行く!」と言ったのは娘でした。
息子はというと「え?2人で行くの?じゃぁ行かない……」との返事。
あれ?予想外の反応。
おつかいに行ってみたかったんじゃないのかな……
娘は嬉しくてたまらないという様子でルンルンしていましたが、息子はやはり乗り気じゃありませんでした。
結果、何が起こったかと言うと、“おつかいに行きたい娘”対“おつかいに行きたくない息子”の口げんかが始まったのです。
「せっかく、パン買ってきてって言ってるんだよ!行こうよ!2人で行けるんだよ!」
という娘に対して
「行きたくない……」
と一点張りの息子。
お互い平行線のまま、結論は出ませんでした。
息子はなにか行きたくない理由があるのかな?
そう思ってしばらく双子の会話を見守っていたのですが、「せっかくだから、スーパーのパン屋さんで好きなパンを買ってきたら?」と言ってみました。
すると、息子が「お金が足りなかったらどうするの?」と言い出したのです。
そうか、息子は買い物に行った先で、お金が足りなかったらどうしよう?と心配していたのです。
「2人のパンが買えるだけのお金を預けるから大丈夫だよ」と伝えてみたのですが、「でも、パンがいくらかわからないじゃん」と息子。
なるほど。
そこで、好きなパンを買うのはやめにして、「いつもの食パンなら、絶対1,000円で買えるから大丈夫!」と、毎朝食べている食パンを1袋だけ買ってきてもらうことにしました。
息子は、ようやく生まれてはじめてのおつかいのミッションを納得しました。
部屋にあったビニールの透明ポーチに1,000円札を入れて、お買い物バックとともに渡しました。
最初は神妙な面持ちだった息子も、「食パンって種類があるよね!いつも食べてるの売ってるかな~」とちょっと楽しそう。
娘は嬉々として「いつもの食パン買ってくるから任せて!」と張り切っていました。
果たして、いつも食べている食パンを買ってくることができるのだろうか。
最近は小学生になり、”子育ての初めて”が減っている我が家に訪れた、ひさびさのドキドキでした。
双子が出かけたあと、私自身が小学校低学年の頃、母におつかいを頼まれて1人でスーパーに行った経験を思い出しました。
あの時、私も母から「いつもの砂糖」を頼まれました。
でもいざスーパーに着いてみたら、いつもの砂糖がわからなくなって、とってもドキドキした記憶が心の片隅に残っています。
いつも母と通ったスーパーなのに、自分1人だととても広く感じて、沢山の砂糖が並ぶ中でいつも買っているのはどれだろう……と悩んだ光景が蘇りました。
今考えると、どの砂糖を買ったとしても母はおつかいが出来たことを喜んで、褒めてくれただろうと思います。
でも、当時の私は絶対に間違ってはいけないと真剣だったのです。
そのとき、そうか、息子も同じような気持ちなのかもと思いました。
普段立ち寄るパン屋さんは、1個200円以内のパンを売っています。
双子はもう足し算もできるし、2人分で500円渡せばお釣りが来るだろう。
私は気楽にそう思っていましたが、息子は、はっきりと値段がわからないので、買えなかったらどうしようと不安だったのでしょう。
私が初めてのおつかいに行った日、不安でドキドキしたあの気持ちを、今双子も体感しているのかもしれない。
今日のことは、双子が大人になっても忘れない出来事になるだろう。
そんなことを考えながら、帰りを待ちました。
しばらくして、双子が「ただいまー!」と元気よく帰ってきました。
私はまず、無事に帰ってきたことにホッとしました。
「買えた?」と聞いてみたら、行く前は弱気だった息子が「食パン178円だったよ!1,000円でお釣りくるじゃん!」と言ったのです。
娘はというと「いつもの買ってきたよ!はい、6枚入!」と、パンとお釣りを差し出しました。
双子は得意げな顔。
達成感で一杯のようでした。
我が家のいつもの食パンは、双子のリクエストにより8枚切りなんだけど、もうそんなことどうでもいい。
明日の朝、いつもより分厚いと文句を言いながら、自分たちの買ったパンを頬張る2人が想像できました。
双子はどんなドキドキや嬉しさを感じたのだろう。
もう少し大きくなったら今日の日のことを聞いてみよう。
そんなことを思いながら、無事におつかいができたその日は、我が家の歴史に残る1日になりました。