待望の第一子は女の子だった。
主人は
「女の子は無条件に可愛がって育てる。愛情を存分に受けた子は、愛される子になるのだ!」
と、誰かから聞きかじった中途半端な理論を、産まれる前から熱く語っていた。
うちの主人は、自分の主義を語るのが好きで、めんどくさくもあるのだが、押し付けることはないので、まぁ、しようがないと広い心で黙認していた。
私自身の育児信念としては、産前は
「甘やかさず甘えさせる」
と、第一子ならではの、意識高い系の目標をかかげていた。
だが、産後はあっさりと、「元気でいればバンバンザイ」と、ざっくり系に転換した。
結局、育児に必要なのは、信念より、辛抱。
小さい子は掟やぶりの無法者だ。
まだまだパターン化されてない行動は、その都度、こつこつと注意していくしかない。
と、いうことに気付いたら
「どうして、私の育児は理想通りにいかないのかしら?」
と、しょげることもなくなった。
親子がお互い楽になるなら、信念は、とりあえず、棚上げしておいて、必要なとき取り出して、ホコリを払って使えばいい。
夫のゆるがない信念がもたらした、正しい反抗期<第5回投稿コンテスト NO.5>
3,381 View「愛情を以て接す」が信念の、ママンレーヌさんのご主人。娘が生まれてから、一度も変わらないその姿勢とは。
愛情に満ちた父親と、得意技は棚上げの母親は、グッドコップ&バッドコップコンビ。
娘がわるさを働くと、私が叱り、主人が慰めるという役割分担で育児をしてきた。
私は、「後で、お父さんがフォローしてくれるから」と、安心して叱ることができ、主人は思う存分娘を甘やかし、娘からの愛情を勝ち得ていた。
小さいくせに、なぜか女の子は結婚願望があるものだ。
父親の愛情を欲しいままにしていた娘は、「大きくなったらお父さんと結婚してあげる!」と、上の立場から主人に申し出た。
愛して結婚するより、愛されて結婚するほうがいいと察するとは、幼いながら、実に打算的な小悪魔娘だ。
(だが、そのあざとさも我が子だとかわいらしい。)
主人はすでに妻帯者でありながら、ニッコニコの満面の笑みで
「こいちゃん(娘の愛称)を必ず幸せにするよ!」
と、約束していた。
私が娘に「お母さんは、お父さんのお嫁さんさんなんだけど、どうしたらいい?」とたずねると
「お母さんは、ご飯係ね!」
と、とてもいい笑顔で任命された。
時を経て、娘は成長して、反抗期に突入した。
惜しみない愛情を注いだ主人は、今、子育ての逆風にさらされている。
「お父さん、うっとうしい!」
「お父さんは、何にも分かっていないのに、口出さないでよ!」
「お父さんて、どうして人の話を理解できないの!?」
主人は、最愛の娘に悪しざまに言われても、へこんだりしない。
自分への甘えだと、分かっているから。
分別のある母親を気取りたい私は
「父親に対して、ああいう態度はよろしくない。ちゃんと叱るべきではないか。」
と、提言するのだが、主人は、一向に気にしていない。
「こい(娘)は、今、自分が反抗期なのを分かっていない。自分が全て正しく、周囲が間違っていると思い込んでいるだけだ。頭ごなしに否定しても、仕方ない。まず、今は受け入れる。ありのままの自分を受け入れてもらえたら、自分を振り返ることが、できるようになるから。」
「あら、カッコいい。なんかの映画のセリフ?」
淡々と言う主人を、ついヒヤかしたが、実は感心していた。
あんな暴言をさらりとかわせるなんて、私にはできない。
「何を言っても、お父さんは自分の味方だ」と、娘は意識下で信じている。
主人への攻撃は、甘えなのだが、それを言うと、「そんなんじゃないから!」と激怒するだろうから決して口にしてはならない。
怒った娘は、私に瓜二つで、けっこうコワイ。
主人は言う。
愛情を注いだ娘は、愛されている自信があり、正しく反抗期を迎えていると。
なるほど、主人にたいするように、私には反抗してこない。
私の愛情は、スパイスたっぷりで、複雑なお味だったもんね。
主人は、どんなに言われても、娘の自分へ対する信頼を、微塵も疑わない。
「愛されてきた自信があるからこそ、親に反抗できるのだ」
なんという愉快な逆説だろう。
だが、それでなんとなく、子どもの反抗期をやり過ごせる気分になる。
「愛情を以て接すれば、必ず分かりあえる」
そんな古典的な言い伝えを、なぜ、うちの主人は妄信してるのだろう、とかつての私は、頭を45度に傾げていた。
だが、愛情で地盤改良されていれば、根底は揺るがないのだ。
そんな、小さな奇跡を目の当たりにできて、母は、幸せです。
(ライター:ママンレーヌ)
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