「心臓が、く…苦しい」
夫が胸を押さえてうめき声をあげる。
「うん。」
わたしは聞き飽きたそのセリフに軽く相槌をうつ。
夫は苦しみながらも、眠る娘を見つめながら、続けてこうつぶやく。
「どうしてこんなにかわいいの?オレ、つらい」
そう言って、もがき苦しむ。
これが毎日の夫の茶番劇である。
娘が産まれて半年以上経つが、このやり取りが毎日、毎日行われている。
でも、わたしは不思議とこの光景が嫌ではない。
10年前のわたしだったら、もしかしたらこの夫の茶番劇にイライラしていたかもしれない。
そう、わたしは10年前にも出産をした。
そのときは、何もわからなくて、すべてがうまくいっていない気がして、何に対してもイラついた。
夫がテレビを見て笑っているのを見るのも、不快だった。
「どうして誰もわたしの気持ちをわかってくれないんだろう」
「自分はこんなに頑張っているのに報われない」
「わたしばっかり損している」
そんなことばかり考えて育児をしていた。
10年前のわたしへ「誰もほめてくれないときは自分で自分をほめて」<第5回投稿コンテスト NO.29>
8,874 View10年ぶりに出産したつきママさん。昔の自分に伝えたいことがあるそうです。
そして、今年10年ぶりに娘を出産した。
不安しかなかった高齢出産。
それが、どういうことか、今回の育児は不思議と気持ちが穏やかでいられる。
娘が寝なくても、ミルクを吐いてしまっても、上の子どもが大きな音を立てたせいで娘が起きてしまっても、夫の帰りが遅くても、ぜんぜんイラつかない。
どうしてこれほどまでに違うのだろう?
何気なく母に聞いてみると
「それは経験値の差だろう。あなたも年をとったしね。」
という答えが返ってきた。
うん確かに。
10年前とはわたしも随分と変わった。
まず“人と比べること”がどれだけ無意味かということがわかってきた。
先日、近くの保育園で園開放があり、娘を連れて遊びにいった。
同じ月齢の赤ちゃんも何人か来ていて、もうお座りをして、おもちゃで遊んでいる子もいた。
うちの娘といえば、やっと寝返りができたばかりで、わたしのそばで寝ころがっているだけ。
10年前のわたしなら、周りと比べて落ち込んでいたはずだ。
でも今のわたしは知っている。
成長に個人差があるのは当たり前。
うちの子はうちの子。
できれば、このまま成長がとまって、赤ちゃんのままでいてほしいとさえ思う。
つぎに“見返りを求めてはいけない”ということも人生経験の中でわかってきた。
「わたしはこんなに頑張っているのに、誰も褒めてくれない」
と昔は嘆いてばかりいたが、待っていても誰も褒めてはくれないので、最近では自分で自分を褒めるようにしている。
子育ても同じ。誰も褒めてくらないのなら、自分で自分を褒めてあげればいいのだ。
「昨夜は娘の夜泣きに5回も付き合った!えらいぞ、わたし。ご褒美にこの高級チョコを買おう」
こんな風に、頑張った時のご褒美スイーツを忘れてはならない。
SNSで自分の頑張りを投稿して、みんなに褒めてもらうのもいい。
待っていても誰も褒めてくれないのなら、自分から「褒めて褒めてー」とアピールしていけばいいのだ。
タイムマシンがあったなら、10年前のわたしにいろいろ伝授してあげたいのだが、そういうわけにもいかない。
だからこれを読んだ方で、もし子育てに毎日イライラしている方がいたら、
「まわりと比べなくていいよ。あなたはとっても頑張っているよ。」
と伝えてあげたい。
子どもが手のかかる時期はとても短い。
今この一瞬一瞬を、穏やかに娘と一緒に過ごしていきたいと思う。
さて、きょうも夫の茶番劇が繰り広げられている。
夫は胸を押さえながら「娘可愛い!可愛すぎてオレ、つらい!」
と叫んでいる。
この茶番劇には続きがあって、このあと夫はわたしに必ず、こう聞いてくる。
「オレ幸せ。ママも幸せ?」
と。
わたしは、夫と娘の寝顔をみつめながら、毎日こう答える。
「とっても幸せ。」
昨日も、きょうも、明日も。
ずーっと幸せだよ。
(ライター:つきママ)
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