「僕もいつか、ママとお別れするの?」
息子が真顔で聞いてきたのは、ある平日のお風呂タイムのことでした。
その手には、ついさっきまで水遊びで使っていたカラフルなオモチャ。
その鮮やかな色味と対照的に、4歳の無垢な表情は少し翳っており、真剣に質問していることがわかりました。
驚いた私は、「急にどうしたの?」と、つい質問で返してしまい、そのせいなのか、聞いて気が済んだのか、息子からは返事がありませんでした。
ワンオペお風呂タイムはバタバタで、息子の質問はそのまま保留となり、怒涛の寝かしつけタイムへ。
そんな慌ただしい中でも、頭の片隅には息子の質問と、少し元気のない顔がチラついていました。
なぜ、息子はこんな質問をしたのだろう。
考えていると、思い当たることがありました。
それは先週、園のイベントで「音楽会」があった時。
クラスのお友達が、引っ越しで転園するというお話が担任の先生からありました。
進級したクラスには、これまで一緒に過ごしてきた3人のお友達がいなくなるということ。
さらに年長さんのお別れ会も行われたばかりでした。
これまで当たり前に会えていたお友達の引越しや、たくさん面倒を見てもらった年長さんの卒業は、息子にとって「別れ」を意識する大きなきっかけになったのだと思います。
「さて、なんと答えたものか……」
私はつい考え込んでしまいました。
そして、数日後のお風呂タイムのことです。
2人で話せる時間があったので、私から切り出してみました。
「あのね、息子くん。ママもパパも、息子くんが大きくなるまで一緒にいるよ。でも、ずっと一緒にはいられないんだ。」
息子は、前の質問を覚えていたようですぐに「大きくなるって、いつ?」と聞き返してきました。
「息子くんが、18歳になるまでかな」
キョトンとした顔の息子を見ていると、私は急に切ない気持ちになりました。
息子は続けます。
「じゃあ、今、僕は4歳だから、4.5.6.7…(順に数える)18!まで?それからはもうお別れなの?」
「お別れではないよ、ママはずっと、息子くんのママだよ!でも、18歳になったら、息子くんももう大人の人だから、ママがいなくても大丈夫になるんだよ」
こんなふうに答えながら、私はなんだか、巣立ちの時を想像して早くも寂しくて仕方ない気持ちに……。
そんなことに気づかない息子は、「そっか〜。仕方ないな〜」と意外にもあっさり。
えっ、もっと寂しがってくれないの?
私はこんなに切ない気持ちなのに、息子君は平気なの…!?
まだまだ子どもだと思っていたけど、もしや、もう自立しかけているの?
と、なんだか色々焦った私は、つい、こう尋ねました。
「大人になってもママと遊んでくれる?」
息子はにっこり笑って、「うん、いいよ!」と返してくれました。
ふと、「こんなふうに、母親と話してくれるのはいつまでなんだろう…」と考えてしまい、ものすごく切なくなった、お風呂での会話でした。
自分のことを振り返っても、成長するにつれて親とは距離を置いていたのに、息子の事となると、もうすでに寂しくてたまらない。
「別れ」という出来事に、不安や寂しさを感じているのかと思いきや、意外にもケロッとしていた息子。
単に疑問が解決してすっきりしたからなのか、それともまだ「別れ」に実感が湧かないのか……。
息子の心境はわかりませんが、親がいなくても独り立ちできるように手助けしていくのが、親のつとめでもあります。
寂しいけれど、親のつとめもしっかりと果たすというジレンマも感じながら、せめて今、一緒に過ごせる時間を大切にしよう…と改めて思えた出来事でした。