我が家には、この春小学校3年生になった男女の双子がいます。
中学年になり、リコーダー、絵の具セット、書道セットと、一段と小学生らしいアイテムが加わりました。
そんなある日のこと、学校から帰宅した娘がこんなことを言いました。
「わたし、書道大会に作品を出すことにした!」
学校で書道をして、何かの大会に出すのかな?と思って話を聞いていたのですが、どうも話が噛み合いません……
すると娘が1枚のプリントを出しました。
そこには、地元の書道大会への応募要項が書かれていました。
「え?家で書道をして自分で応募するってこと?」と聞くと、「そうだよ!」の返事。
娘は今まで書道を習っていたわけでもありません。
学校での書道の授業もまだなので、未経験な娘が自宅で書道のお題に取り組み、提出するということになります。
しかも提出期限まで1週間もありませんでした。
これはなかなかハードになってきたな……。
そんなことを思いつつ、私はあることを思い出していました。
以前、夫について義母からこんな話を聞いたことがあったのです。
「中学生まで書道教室に通っていて、近所でも字がきれいな子として有名だった」
それに比べて私は、書道と言えば小学生の頃2年間だけ習ったことがある程度。
これは、私より夫のほうが上手に娘をサポートしてくれるのではないか。
そう期待して、この重大任務を夫に託すことにしました。
さっそく夫に話をすると
「え?もう日がないじゃん。というか、書道初めてなのに、家で書いて提出するの!?でも娘はやる気になっているのか……。今週末書くしかないね」
と、やはり締め切りの近さに驚きつつ、娘の初めての書道に付き合うことについては少し嬉しそうな様子でした。
そして娘と夫で、書道にチャレンジすることになりました。
提出までのリミットは残り5日。
平日学校があることを考えると、土日に書き上げるしかありませんでした。
土曜日の朝。
娘と夫は真新しい書道セットを開け、さっそく書く準備をはじめました。
まずは筆を持ち、一本線を書く練習から。
娘は初めての筆に「思うように書けない!」と言いながらも一生懸命練習していました。
その後は縦線や横線などの練習をし、ウォームアップができたところで、いよいよお題に取り組むことになりました。
今回のお題は「まなざし」
一見、すべて平仮名で簡単そうに見えたのですが、大間違いでした。
「ま」や「な」の丸の箇所の筆運びや、「さ」のバランス、一筆で書く「し」でさえも初心者の娘は大苦戦。
娘は何枚も何枚も挑戦していましたが、なかなか思い通りに書くことができませんでした。
そして、うまく書けないことがよほど悔しかったようで、気づくと半紙が涙でにじんでいました。
娘は小さい頃から繊細で、間違うことや失敗することを嫌がることが多かったのですが、最近はそんな様子もなく少しタフになってきたのかな、と思っていたのです。
そんな矢先に久々に見た娘の涙。
びっくりして声をかけようかと思ったのですが、ここは夫に任せようと心に決め、見守ることにしました。
娘は思い通りに書けない自分に苛立ったのか、ついに途中で書くのをやめ、部屋に閉じこもってしまいました。
それを見ていた夫は、「こういう時はそっとしておこう」と見守ることにしたようでした。
なんだかどんよりした空気の中、動いたのは息子でした。
それまで、「僕は書かなくていい」と言ってマンガを読んでいた息子が、娘がいなくなった机で、自分の書道セットを開け始めたのです。
何をするんだろう?と思っていると、娘が練習していたように、一本線を書き始めました。
おぼつかない手つきで線を引きながら「ぼくはこれを100回練習する!」と宣言して、ひたすらに「一」の文字を練習していきました。
息子は、へなへなとした線になればケラケラと笑い、ちょっとでも上手くいくと「おおお!!これはサイコー!」「さっきより上手くいった〜」と言いながら何度も何度も書き続けました。
そして宣言通り100回を達成すると、突然「ねぇ、”のろい”って口に兄でいいんだっけ?」と言い、一心不乱に「呪い」という文字を書いては笑い転げていたのでした。
突然、自分も書道やると言いはじめ、100回の練習の後、ひたすら「呪い」と書き続けながら笑っている息子……
正直なところ、何が楽しいのかわからない……と呆気にとられてしまいました。
そんな息子の楽しげな声が聞こえたのか、娘が部屋から出てきました。
気持ちの整理がついたのか、息子の書いている様子をじーっと見ていた娘は、「本当はまだ書きたかったんだよね」と言って、また書く準備を始めたのでした。
そして、別室にいた夫に「もう一度書きたいから一緒に書いてほしい」と伝えに行きました。
繊細な娘と、笑い転げる息子。
双子でも、性格や気質が違うことはこれまでに幾度となく感じてきました。
でも今回は、性格や気質の違いだけではない、息子の娘に対する気遣いを感じたのです。
少し大きな声で笑ってみたり、楽しそうに書いている様子を伝えることで、娘が部屋から出てこれるように助け舟を出したような気がしました。
そういえば息子は小さい頃から娘が泣いたり落ち込んだりしていると、絶妙なバランスで距離をとり、様子を伺い、声をかけたり、遊びに誘ったりしていました。
小学校3年生になり、ときに激しいケンカもするし、一緒に遊ばないことも増えてそれぞれの時間を過ごすことが多くなったけれど、相手を気遣う優しさはあるのだなと、感慨深くなった出来事でした。
まだまだ子どもと思っていたのですが、ときに大人な一面も見せるようになった双子たち。
対象的な2人がこれから、どのように関わり合いながら成長していくのか、これからが楽しみになりました。