8月、夏が既に手詰まりになってきた。
中学生の長男はまだ大丈夫、この時代、心配じゃない訳ではないけれど、使用スペースと時間を細かく分けての部活動の練習がある。
それから中学生らしく塾の夏季講習。
中学生って中1から結構忙しいなあと思う。
小学生の長女もまだいい、小学校のプールが中止になってしまった事を、夏空に恨み言をいうくらい残念がっていた長女のために、少人数制で過密にならない、それだけに結構争奪戦だった水泳教室に申し込んだ。
それに普段通りの習い事もある。
問題は次女。
3歳、幼稚園は長い長い夏休み。
本当なら、小さな子どもが喜ぶ噴水のある公園や、お友達と一緒になって遊べる広場や、何より北陸にある実家に連れて行ってあげたいのに、今このご時世。
次女は基礎疾患を持っている子なので、特に用心が必要で、その上今年は随分梅雨が長いなあと思っていたらいきなり明け、突然やって来た夏は、7月の末頃から猛然と調子を出して来て今、暑くて昼間は3歳児をつれて外を歩けない。
でもこれは健康に問題が無い子も同じだろうなと思う。
まだ体力のない小さな子への感染症の心配、熱中症への用心、RSもまだ流行っている。
何処に行くにもマスクと消毒液の夏休みももう2巡目、凄い時代になったなと思う。
「キョウハ、ドコイクノ?」
これが、最近の次女の朝の挨拶で、私はこの答えにいつも困っている。
ドコイクノと聞かれても、次女と一緒に行けるところは、病院か、スーパーか、ドラッグスストアか、あとは自宅近くの公園くらい。
「えーと、じゃあ今日はお掃除してから、スーパーに卵買いに行く?」
「ソレカラドウスルノ?」
「あー…家に帰る」
「ソレカラドウスルノ?」
それから、どうもしない。
午前中に9歳の長女に次女を頼んで、例えばベランダで育てている紫蘇とバジルに水をあげてねとか、ちょっとだけ一緒にブロックやってねと言って時間を稼いでいる間に、掃除や子ども達のお昼の支度をすませて、近所のお店が開店する10時位、まだ店内が込まない内に電動自転車に次女を乗せてちょっとしたもの、卵とかパンとかを買いに行って帰ると、もう午前中は終わる。
午後は流石に気温が高すぎて出歩けない。
関西でも私達が暮らしている街は日本のアリゾナと呼ばれている、というか私がそう呼んでいる。
だから日が高くなる午後は出かけられない。以上。
ところで、私が朝から昼食を、何なら夕食さえまとめて作るのには理由があって、次女を連れて外に出かけて帰宅した時、その帰宅時間がお昼になっていようといまいと、次女は帰宅して玄関で靴を脱いで即
「オヒルゴハンハ、ナアニ?」
と聞くからだ。
そしてこういう時
「え?ちょっと待ってよ、今から作る」
そんなこと言おうものなら、玄関にひっくり返って泣いて暴れる。
特に最近の次女は、この子の事で普段から関わりのある看護師さんや、リハビリの先生方、とにかく小さな子どもの発達に詳しい人達に
「きてますよ反抗期」
そう言われている。
今まさに『この世のすべてが思う通りに、自分を中心に回っていないと気が済まない』
そんなお年頃で、例えば、食べたい時にお昼ご飯がないのが我慢できないし、お昼に作って出した素麺の器が思ってたのと違った、今日使いたいのはこのお箸じゃなかった、野菜ジュースを飲む時は黄色のコップ、お茶を飲む時は白いコップ、そういう決まり。
その決まりが1ミリでもずれると泣いてお怒りになる。
この子をいつも見てくれている優しい小児科の先生が、先生の前では俄然いい子になる次女を評して
「言えばちゃんと分かってくれる子ですよ」
と慈愛の表情で語ってくれたのに、それに対して能面の表情で
「え、全然そんなことないですよ」
そう返したのは私だ。
もう午前中だけで眩暈がする。
3歳児は、昼寝をしない。
と思う。多分。これは私調べ。
今、同じように3歳とか4歳、保育施設の長い夏休みをお家で静かに過ごす子どもの親の共通の、そして最大の悩みだと思う。
少し前、1歳や2歳の頃にはお昼ご飯を食べさせた後に1時間か2時間お昼寝してくれていたのに。
3歳にバージョンアップした今、次女は親が公園に付き添い、ベランダにビニールプールを出して遊ばせ、何なら家の周りを徒歩で周遊させても
寝ない。
そして子どもの成長と引き換えに年齢を重ねている親の方が疲れて眠くなるという現実。
それで午後の数時間は、スイミングスクールと部活から帰って来ている次女の兄姉を招集する、ねえお願いだから少しだけ次女ちゃんと遊んであげてくれない?それを
「そんなのお母さんがやればいいやん」
とは、一応うちの長男と長女は言わない。
一体何をやっているのか事の詳細は不明だけれどウチのお母さんは仕事らしいことを家でやっていて、朝、自分たちよりも何時間か早起きしてパソコンに向かい、その後、午後の時間にまた少しパソコンに向かう、そういう人だと理解しているので少しだけ助けてくれる。
これは、私のこの夏休みの大きな悩みの1つで、朝早起きしてもせいぜい取れる時間は2~3時間、あとは午後、大騒ぎする子ども達の集うリビングの食卓で、この騒音は何デシベルですかという環境で仕事をしなくてはいけない、その場所でいつも私が繰り返すのは
「ねえ、声もう少し小さく出来ない?」
という空しい注意の言葉。
よく通信教材なんかの謳い文句に「家事と育児の隙間時間に」というのがあるけれど、それってどこにあるの、見た事無いけど。
だから仕方なく隙間を作る。
うちでは、お願いすれば手先が器用で工作が得意な長女は、次女と一緒に折り紙を折ってくれたりするし、長男はレゴブロックで車を作って妹の相手をしてくれる。
でもこれ、1時間程度しか使えない技だ。
次女は、だいぶお話が上手にできるようになったけれど、自分の中にある微細な感情を言葉に乗せるということまでは、まだ日本語話者としては熟達していないので、例えば折り紙は赤いのを折りたい、でもその裏にも色がついている方のはいやだとか、蝶々を描いてくれたのはいいけど、羽はピンクで模様は黄色がいいとか細かな事を伝えきれなくて結果
「次女チャンハ!イヤダッタ!」
全部をイヤダッタに集約してしまうので、9歳と3歳は喧嘩になる、それで長女の子守は終了。
長男に至っては、最初は遊んでくれるのだけれど、少しすると、3歳の妹の相手に飽きてタブレットで遊び始めてしまう。
兄と姉を投入しても前述の通り1時間、あとはひたすら、私が積み木を摘み、アイスクリーム屋さんごっこのお客さんになり、料理をする隣でニンジンの皮で遊ばせ、夕方、少し太陽が傾いてからベランダの紫蘇とバジルにまた水をじゃぶじゃぶあげる。
実は、次女が張り切って水をあげるので、と言うよりあげすぎるので、この夏、紫蘇は一度枯れている。
世話なんかしなくてもその辺に雑草の如く生えると言われている紫蘇も枯らす3歳。
折角の夏休み、次女の世界は本当に家の中だけだ。
本当ならもっと色々な場所に連れて行って色々な風景をみせてやりたい、特に幼児期の今、経験はとても大切だと聞くし。
屋外で自然に触れる事、見た事の無い景色を見る事、お友達と遊ぶこと。
現状に焦らない訳ではないけれど、とりあえずできる事として昨日は次女にトランポリンを買った。
とても喜んでその上で飛び跳ね、兄の上に着地していた。大丈夫か長男。
次女はこの夏休み、兄も姉もいて、トランポリンはあるし、ベランダにプールは出て来るし結構楽しいらしい。
世界の在り様と親の気持ちはともかく、次女は割と元気、そして夏を意外に満喫している。