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公開 2021年10月10日  

感謝を忘れない。優しかっためがねばぁちゃんと500円玉の思い出

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誰よりも優しくて大好きな、めがねばぁちゃん。こっそり握らせてくれた500円玉は今もお気に入りのポーチの中にあります。『心に残った贈り物』をテーマに開催された、<Conobie×ネスレ日本 投稿コンテスト>。特別作品賞、めしまるさんの作品です。


私はめがねばぁちゃんが大好きだ。

めがねばぁちゃんとは眼鏡をかけている母方の祖母のことで、幼い私が父方の祖母との区別をつけるようつけたあだ名らしい。

めがねばぁちゃんはとにかく優しくて、怒られた記憶が全くない。

悪いことをした時なんかは、私の目線に立ち、気持ちに寄り添い諭してくれるのだ。

人の悪口を言っているのも聞いたことがない。

めがねばぁちゃんの夫も眼鏡をかけていて、めがねじぃちゃんと呼んでいたのだが、母が幼い頃はアルコールに溺れ、仕事もせず、めがねばぁちゃんや母と母の姉妹にも暴力をふるっていたらしい。

めがねじぃちゃんは私が小学生の頃に他界した。

絶対苦労ばかりしてきたはずなのに、めがねばぁちゃんはめがねじぃちゃんの悪いところを1つも言わない。

それどころか、めがねじいちゃんへの感謝ばかり。

愛情の深さだろうか。

ただただ、脱帽だ。


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私は大学生になると、色々なアルバイトをした。人と関わるのが大好きで、サービス業を主に経験した。

それで自信がついたのか大学4年の頃、スーパーの売り子に挑戦した。

売上目標を与えられたが余裕に構えていた。

実際やってみると想像以上に難しく、ほとんど売れなかった。

それどころか話さえ聞いてもらえず、私が立っているコーナーを避けてお買い物されたりした。

まぁ当然だ。

若かった私は少しばかり積み上げていたプライドをズタズタにされ、とてつもない孤独を感じていた。

その場から逃げ出したくなっていた。

そんな時、目の前にめがねばぁちゃんが立っていたのだ。

真実を聞いてはいないが、めがねばぁちゃんの家からは離れたスーパーだったので、おそらく母が話していたのだろう。

めがねばぁちゃんは何も聞かず何も言わず、年配の女性一人暮らしでは使わなさそうな、催事用に積み上げられたモッツァレラチーズを2袋、買い物カゴに入れた。

私は泣いた。

そんな私にめがねばぁちゃんはカバンをごそごそして、500円玉を数枚、デパートの包装紙をちゃちゃっと折って作った封筒に入れて私の手に持たせてくれた。

私はもっと泣いた。


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私は結婚して子どもに恵まれてからもめがねばぁちゃんのところへよく遊びに行った。

行く度に500玉や千円札をデパートの包装紙封筒に入れて持たせてくれた。

ただ会いたいだけなので断ってはいたが、子どもにアイスでも買ってあげてと手に包みなおしてくれた。

子どもには悪いが私のお気に入りポーチにしまっていた。

今でも大切にとっている。

子どもが2歳になる少し前の、秋風が心地よい日の午後だった。

めがねばぁちゃんは他界した。白血病闘病の末だった。

病が分かってからも、服薬治療を始めてからも、辛いことはたくさんあっただろうが私たちには見せなかった。

病気のことを聞くと、高い薬を使わせてもらってるとか、先生や看護師さんたちがよくしてくれてるとか、感謝の言葉ばかり。

唯一、辛いと言っていたのは最期に会いに行った時だけだった。

最期に言葉を交わせたのは、緩和ケア病棟で療養している中で徐々に食事が摂れなくなり、母から会いに行っておいたほうがいいと言われて行った日だった。


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めがねばぁちゃんは涙をこぼして、小さな声で辛いと言った後、しばらくおいてから、今までありがとうと言った。

私はこれで会えるのが最期だと悟ったが、受け入れられず、また会いにくるからと言ってめがねばぁちゃんの手をさすり、病室を出た。

訃報が届いたのはその数日後のことだ。

思えばあの時、自分が持っている感謝の言葉の全てを使い、気持ちを伝えておくべきだったと後悔している。

めがねばぁちゃんと会えなくなって3年になる。

私は時々、めがねばぁちゃんのお墓に手を合わせに行く。

常に感謝の気持ちを持って生きていくことがどれだけ難しいか。

子育てしながら働いている私は痛感している。

負の感情に支配されそうになった時、私はめがねばぁちゃんのところへ車を走らせる。

墓石の間からひょっこり顔を出している、めがねばぁちゃんの好きだった薄紫色の野花が私の背中を押してくれるのだ。

 
(ライター:めしまる)


『まごころが見つかる雑貨店』ネスレアミューズで連載中!

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