なんとなく、雑然とした棚が気になり整理していると、あるファイルの中から一通の手紙が出てきた。
それは夫からの手紙だった。
封筒に記されていた日付は、第一子である息子を産んだ2日後だった。
その封筒の中には、
「改めて、出産、お疲れ様でした。つわりから出産までの長い期間、本当に辛かったね。男の自分には想像を超える辛さだったと思う。出産に立ち会って、間近で必死に頑張っている姿を見て、逞しさと心の強さを感じました。すごく感動したよ、ありがとう」
と、いう夫からの感謝の言葉に始まり、
「これからの子育て、1人でやるものではないので、ぼくになんでも相談してほしい。2人で一緒に頑張っていこう」
「息子はどんな子に育つかな?真面目で素直な子に育ってほしいね。子育て論なんかは全然わからないけど、ぼくたち2人が仲良く笑顔でずっといられる夫婦なら、息子はちゃんと育ってくれると思います」
「これから、3人でたくさん楽しい思い出を作りましょう、これからもよろしく」
と、書かれていた。
夫からもらった一通の手紙。そこには家族の未来が描かれていた
8,925 View夫からもらった一通の手紙。それは夫婦の原点を思い出させてくれる、大切な宝物となりました。『心に残った贈り物』をテーマに開催された、<Conobie×ネスレ日本 投稿コンテスト>。入選、ままこぶたさんの作品です。
「あぁ、そうだ、これ、出産から2日たって夫からもらって、めちゃくちゃ泣いたやつだ」
と、私は思い出した。
産後はホルモンバランスもガタガタなので、夫からの愛情溢れる手紙をみて、当時の私は大泣きしたのだった。
付き合っていた頃や新婚の頃、私たちは手紙をやり取りすることが多かった。
正確に言うと、私が9回手紙を書いて、1回夫から返ってくる、というような具合だったのだけれど…。
喧嘩をして素直に謝れなかったときや、お互いに仕事や家事を頑張っている感謝の気持ち…などを時々手紙にしたためて伝え合っていた。
それがいつのまにか手紙のやり取りはなくなっていった。
原因は、それまで9割がた手紙の発起人を担っていた私が、子育ての忙しさを理由に、書かなくなったからだ。
そうなると、夫からの返事がないのも当然だ。
思えば、この『息子を産んだ2日後の手紙』が夫からの最後の手紙だったのではないだろうか。
懐かしい一通の手紙を読み返しながら、私はそんな風に思った。
話は少しそれるが、今からちょうど一年半前に、私は第二子である娘を出産した。
ふと、そのときのことを思い返してみた。
「あら?娘の出産のときは、夫からの手紙がなかったなぁ」
と、思い当たった。
手紙はなかったが、その分息子の世話や産後の生活を回すために必死に頑張ってくれていた夫。(里帰りしない出産だったので)
「きっと手紙なんて書く時間、なかったんだ!そうだ、そうに違いない」
と、私は自分を納得させた。
いつだって手紙の発起人は、私なのだ。私でなくてはならないのだ。
自分にそう言い聞かせて、私は久々に筆をとった。
そして、夫への手紙を書き始めた。
「本当に、久しぶりの手紙を書きます。ずっと忙しさにかこつけて手紙を書いてこなかったけど、あなたからの懐かしい手紙をみつけたので、久しぶりに書こうと思いました」
こんな風に、少し小っ恥ずかしくて、かたい文章から私の手紙は始まった。
そして、絶対にこれだけは書こうと思っていたことがあって、手紙の最後に、こう書き添えた。
「子育て論なんかは全然わからないまま、ここまで2人でやってきたけど、仲良く笑顔でずっといられた夫婦だから、息子もちゃんと育ってくれているし、可愛い娘にも恵まれたね」
「これから、4人でたくさん楽しい思い出を作りましょう、これからもよろしく」
夫からこの手紙に対しての返事が来たかどうかは、みなさんのご想像におまかせします。
私にとって、ファイルの中からみつけた一通の手紙は、息子誕生の思い出がたくさん詰まった夫からの贈り物。
そして、私たち家族の目指すところであり、夫婦の原点を思い出させてくれる大切な贈り物なのだった。
(ライター:ままこぶた)
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