高一の冬。
16歳の誕生日に、小学校卒業以来疎遠になった幼なじみが久々に家までやってきて、おめでとうって渡してくれた。
つやつやした黒い、キルティングの施された厚めの手帳。
あの頃の今ドキ女子が鞄の中にいかにも入れてそうなもの。
スマホはおろか携帯電話もなかった時代。
女子たちはこぞって可愛い手帳にお気に入りのプリクラをベタベタ貼って、交換したり見せあったりしていた。
安室ちゃん全盛期。
地元の駅はこれでもかと短いスカートにルーズソックスを合わせたJKだらけであった。
地元の高校に落ちた私は、誰も知り合いのいない私立に不本意な気持ちいっぱいで通っていた。
100年の歴史があるその学校は、親御さんが安心して年頃の女子を通わせるのにこれ以上ないほど世間の流行りを完全にシャットアウトしており、花の15歳の私はスケバンのコントでもやるのかと思うほど長いロングスカート(校則で切ってはいけない)を履いて暗い顔で毎日を過ごしていた。
引っ込み思案な私は、昔から自分から友達を作ることが苦手だった。
小1のとき、休み時間におしゃべりする相手もいなくて、あ、寂しい…って人生で初めて感じたときに、声をかけてくれたのが幼なじみの彼女だった。
同じマンションの、離れた棟に住んでる子。
プリクラ全盛期の時代。離れ離れになった友人からもらったプレゼント
406 View引っ込み思案な私と活発な友だち。突然手渡された贈り物とは。『心に残った贈り物』をテーマに開催された、<Conobie×ネスレ日本 投稿コンテスト>。入選、mamumamaさんの作品です。
「ねぇ、いっしょにあそぼう?」
声をかけられないと動けない割に、話しかけられると安心して喋り出す私と彼女はウマがあった。
あっという間に親友になった。
学校、家、外、いつも一緒。
喧嘩しても仲直り。
明るくて利発で、お家の人も上品でいつもいい服着てるんだけど、私の下らないギャグやシモネタにも爆笑してノッてくれるような、裏表のない子だった。
高学年になってクラスが別になると、彼女には大人びた友達が増えた。
相変わらずクレヨンしんちゃんみたいなことで喜ぶ私と彼女の間に、少しずつ溝ができていったことに、流石の私もうっすらと気づいていたが、彼女は私の前では昔のままでいるという優しさを持っていた。
そのズレが本格化するより前に、彼女は中学受験をして離れた女子校へ進学し、私たちは一応友達のまま、離れた。
中学時代、彼女とのかかわりは、マンションという場に触媒される以外にはほとんどなくなった。
私も私で、地元の中学では奇跡的に楽しくやっていた。
小学校からの持ち上がりで、私という人間を一通り周りが許容してくれていたからだと思う。
しかし私は人生初の受験で第一希望に落ち、失意のまま、地元を離れた高校に進学し冒頭に戻る。
冬になっても慣れない学校生活に生きる気力もなくなっていた時に、突然彼女がやってきたのだ。
なんで今、私に誕生日プレゼントくれるの?っていう疑問を悟られないように、努めて平静を装った。
玄関先でありがとう、とだけ伝えてバイバイした。
包みを開けて手帳を見たときの驚き。
今の私とは真逆のところにあるような、オシャレでギャルめいたその逸品。
これ、私が持ってていいのかな?今の私がどんなふうかを知った上でくれたのだとしても、そうでなかったとしても、彼女の優しさが嬉しかった。
それから暫く、その手帳をお守りみたいに持ち歩いた。
年が変わったら中身を入れ替えて。
頭の先から足の先までダサかった私にとって、そのイケてる手帳は水戸黄門様の印籠のようだった。
どんなに馬鹿にされても、それさえ見せれば一目置いてもらえるっていう安心感。
実際は見せる相手もいなかったけれど…。
今回、久々に彼女のことを思い出して、しみじみ嬉しくなった。
今はもう連絡先も知らない。
風の噂で、結婚してお子さんが2人いると聞いた。
生きていたらまたどこかで会えるかな。
きっと私はもじもじしてしまう気がするけど、いま話が合うとか合わないとかじゃなくて、人生のあの時期に、彼女と出会えて良かったなって、改めて思えた。
(ライター:mamumama)
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ネスレアミューズで連載中のとげとげ。さん作『まごころが見つかる雑貨店』9話(10月12日公開)にエピソードが一部採用されている最優秀作品は、10月12日にコノビーで発表されます!
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