“息子のあだ名は、興味の人。
いつも、やりたいことをさせたのは、
生きていくこと自体が創作だと思っていたから”
「息子のあだ名は"興味の人"だった」俳優 伊勢谷友介氏の母が振り返る、子どもの才能の磨き方
83,209 View今をときめく「気になるあの人」が、どのような環境で育ち、どのように親が関わったことによってその個性が磨かれたのでしょうか。その『原石の磨き方』を明らかにしていく当インタビュー特集。第3回目は、俳優・監督でありリバースプロジェクト代表を務める伊勢谷友介氏のお母様、伊勢谷尤子さんにインタビューを行いました。
子育ては、教師として学んできたことが試せる“実験”のようでした
私が息子を産んだのは40歳の時です。それまではずっと幼稚園から短大までが一貫教育の学校で教師をしていたので、多くの子どもたちが育っていく過程や親御さんの姿勢を見ていました。だから、私にとって子育ては、今まで見てきたことや学んだことが試せる“実験”のようで、楽しかったですね。
とはいえ幼いころの息子は、道を歩いていても、穴があったら必ず覗かないと気がすまないし、池に魚が泳いでいるのが気になったら、そのままじゃぶじゃぶと入ってしまう……とにかく興味が先行してしまう子どもでした。近所のお母さんたちからも「興味の人」と言われるくらいでしたから。
ただ、息子が興味を持つことに対しては、危険なこと・迷惑がかかること以外は、口出しはしなかったですね。干からびたミミズも持ち帰ってきても、気持ち悪いと思いながら一緒に観察したり、ゴキブリホイホイの中のゴキブリを必死で観ている息子に虫眼鏡を差し出したり(笑)
教師としていろいろな子どもを見てきたからこそ、息子が何を発見して、どんな行動や反応をするのかが、面白かったんです。反面、実際に育てるのはやはり大変でした。
息子が描く絵には、ストーリーがあった
絵に限らず、物づくりをしたら、食事もいらないほどずっと集中している子でした。あるとき、たくさんのA4サイズの紙に絵を描いて、それをつなげて6畳間1枚の絵にしたんです。私も一緒に楽しんでやっていたら、いつのまにか夕方になっていて(笑)。私自身も絵を描くのが好きでしたし、息子と同じような部分があったのかもしれないですね。
息子の絵には、必ずストーリーがありました。
4歳の頃、公園であった氷像フェスティバルを見に行ったら、とても気にいったので、翌日も行ってみたんです。すると、昨日が最終日だったらしく、全部壊されていて。
息子はそれがとても悲しくて、その悲しみを打ち消すかのように5、60枚もの絵を描きました。そこには「壊された氷像は鳥になって飛び立ち、仲間たちと出会い、天国に行くとそこはお花畑で……」というストーリーがあったのです。
息子は絵にストーリーを描いていくから、終わりがないんですよね。それは個性であると分かりながらも、そのままでは社会性が身に付かないと思ったので、絵は長くても15分で描きあげるということは教えましたね。
逆にプラモデルなどを与えてしまうと、すぐにできてしまうので、いつも空き箱や新聞の広告などガラクタを取って置いて与えていました。「うちは貧乏だからだ」と息子は言ってましたけど(笑)。自ら工夫していろいろと遊んでくれたので、お金のかからない子でした。
地球上のどの場所でも、生きていける人間にしたい
息子が生まれたときに漠然と思ったのは「地球上のどの場所でも生きていける人間にしたい」ということです。
いろいろな国や人に対して、決めつけや偏見を持って欲しくなかったですし、日本で生まれたからといって、その国でしか生きていけない人にはなって欲しくなったからです。それもあって、息子には幼い時から、なんとなく世界各国の面白い話を伝えていました。同時に世界に共通する英語が話せないと、どこにも出ていけないんだよって。
顎の発育と英語の発音が関係すると知っていたので、英会話教室には、ベビーの時から通わせていたのですが、本人も面白がってやってたみたいです。でも、その他は音楽も美術も習わせていなかったですし、中学や高校生になっても、クラブにさえ入ってなかったですね。
広い視野で考える力をつけるために、教育の基盤を大切に
私が子育ての中でも、特に大切にしていたのは教育です。
物事を広い視野で考えるには、教育の土台が必要だと思ったからです。それに、私が子どもたちに残してあげられるのは教育だけだとも思ってましたから。実は、幼いころも芸能界からのスカウトがあったのですが、教育の基盤ができるまでは…と思って断っていました。
けれど息子に、勉強しなさいとか「◯◯しなさい」「◯◯しなければいけないよ」と言ったことは一度もないんです。かといって“褒めて伸ばす”こともしなかったですね。特に絵に関しては、数学のように答えがない分、上手い下手はないと思ってましたし、本人が好きで描いているだけですから。
よく口にしていたのは「どんな風になりたいの?」ということです。将来のことを考えて欲しくて、いつも尋ねていました。
生きていくこと自体が“創作”だから
今でもそうですけど、息子は閃いたことをすぐに口にするし、何を考えだすか分からないから、爆弾を抱えているような感じさえありました。特に授業参観の時は、恐怖でしたね(笑)。
普通なら、閃いたことを口にする前に、咀しゃくして自分のものにしてから伝えるように教えるのかもしれません。でも、私はそれをしませんでした。
息子の絵や遊び、そして言動も、やりたいことをさせたのは、私はいつも「生きていくこと自体が創作」だと思っていたからです。
生き方は自由だし、決めつけることは何もない、自分自身で選択して人生を作りあげていけばいい――そんなふうに思っていたことで、息子の創造性は培われたのかもしれませんね。
(伊勢谷 尤子 プロフィール)
俳優・監督・リバースプロジェクト代表 伊勢谷友介氏のお母様。15年間教師を務めた後、福祉関連の仕事に携わる。
(取材・文:山本初美)
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