クリスマスがもうそこまで迫っている。
子を持つ母としてはもう、気が気でない。
そんなの毎年のことなんだけれど、やっぱり何年やってもプレッシャーと迫りくる締め切り、もといクリスマスの圧がものすごくて、常に気もそぞろなのが12月。
12月24日の夜までに、3人分のプレゼントがきちんと揃っていなくてはクリスマスは始まらないし終わらない。
この日までに、さりげなく、緻密に、正確にプレゼントを聞きだして、決定を促して、発注をする。
それが私と夫の務め。
そのすべてをうっかりボロが出ないように遂行するのって、ぼ~っとしていたらうまくはやれないのだ。
精神を研ぎ澄ませて、頭の中にほんとうのサンタを住まわせて、身も心もサンタの使いっ走りのドワーフだと思い込み、くれぐれも「ネットで注文しとくね」とか、「ポイントで買うわ」とか、口走らないように細心の注意を払わないといけない。
すべてのプレゼントはサンタの魔法で錬成される、遠い北の国からの最高の贈り物ですよ、という気持ちを持ち続けるのはなかなか鍛錬がいるのだ。
今年は長女が3年生になって、いよいよ緊張感を増している。
先日、寝る前に読み聞かせをした児童書に「サンタクロースがパパだって云々」というような文言が書かれていて、思わず早口になってしまったところでもある。
お友達の中にはもう「サンタさんはパパなんだぜ」と言う子も現れていてもおかしくない。
いつかはバレる身だと分かってはいるのだけど、まだその日を迎える覚悟ができていない私と夫は、この薄氷を踏むような緊張感をいまだ持ち続けている。
さて、前置きが長くなってしまったけれど、今年も今まさに緊張の12月をひた走っている。
夫とのLINEのやり取りもこまめに消して、発言にも気を付けて、希望するプレゼントもうまく聞き出すことに成功した。
長男と末っ子は。
そう、難所は毎年、長女なのだ。
お誕生日だろうとクリスマスだろうと、彼女のプレゼントのリクエストが個性的で困ってしまう。
今までリクエストされたプレゼントは、10円ガム、付録付き雑誌、遠方の観光地のお土産屋さんで売っていたぬいぐるみ、子猫、クリオネ、100円ショップで売っている粘土、100円ショップで以前に売っていた(つまりもうない)ぬいぐるみ……など。
普段のお買い物のついでに気まぐれで買ってあげられそうなものか、生き物、または入手が困難、という頭を抱える内容ばかりだった。
そして、今年もやはり例外ではない。
彼女の今年のリクエストはまず「小屋がほしい」だった。
「小屋!?」思わず声がひっくり返った。
「うん、お庭に小屋があったらいいなーと思って。そこで本を読んだりして遊ぶの」
うんうんうんうん、ものすごく夢があるよね。分かるよ。
気持ちは分かるけれど、小屋……小屋って。
どう考えても無理では。
建てるにしても運ぶにしても、25日の朝にこっそりお届けできる代物だとは思えない。
人手もたぶん沢山いる。
「ちょっと大きすぎるからサンタさん大変だと思うよ」
ドワーフならきっとそう言うはずと信じて、彼女にそう言った。
「運ぶときは魔法で小さくできるんじゃない?」
ピュアな眼差しが突き刺さった。
「どうかなあ…じゃあ…ちょっとサンタさんに聞いてみるけど…もし無理だったときのために、他にほしいものがないか考えておいて」
と声をかけた。
数日後、次に彼女が所望したのは「手で回す、えんぴつ削り」だった。
「えんぴつ削りなら家にあるじゃない」
と答えると
「そうじゃなくて、学校に持って行ける小さいやつ。こんなの」
図解で説明してくれたそれは、あれ。
おなじみの100円ショップで売っているものだった。
クラスで何人かのお友達が持っていたらしく、同じものを欲しいのだという。
物の価値は金額だけではないけれど、けれど、年に1度のクリスマスにほんとにそれでいいの!?
と肩を揺さぶりたくなった。
え、もう小屋を建てるしかないの??
なんなのこれ。
その後、長女に聞き取りを重ね、次に飛び出したのが
「何年か前におばあちゃんが旅行へ行ったときに買ってきてくれたオルゴール。
壊れちゃったからまったくおんなじやつがほしいの」
だった。
おばあちゃんに今から数年前の旅行の記憶を辿らせていたら、クリスマスが終わってしまう。
長女の記憶を頼りにインターネットで検索するも、「どれも違う」と首を振られてしまった。
「でもサンタさんなら……」
とわずかな希望を捨てていない長女に、胸が痛いやら、もどかしいやら、焦るやらでこちらももはや訳が分からくなった。
え、やっぱり小屋?小屋なの?
親力が…いや、サンタ力が試され過ぎているし、クリスマスはすぐそこ。
焦りが行き過ぎて
「もう言っちゃうけど、サンタはパパとママだから!我が家で買える範囲で、魔法は範疇から外してもらって、近隣のショッピングモールかいつものネットショップで買えるものでお願いしていいかな?」
と言えたらどんなに楽だろう、と思った。
この年の瀬、やることなんて永遠にある。
年賀状の準備や年末年始のご挨拶のもろもろ、迫りくる冬休み支度に大掃除、サンタ業務で足踏みしているわけにはいかないのだ。
なんとか、なんとか!!!長女!!!
親の懐のちょうどいいところを突いたプレゼントを発して!!!!と願っていたある日
「ろくろがほしい」
と長女が言った。
ろくろ、ろくろね!!陶芸のあれね!!
もはや、「いったいなんでろくろ?」とかそんなことはどうでもよかった。
今年のクリスマス、彼女が希望した最も現実的なリクエストなのだから、聞き逃さないし、もうこれしかないという気持ち。
9歳のお誕生日に陶器の乳鉢を欲しがった長女だから、ろくろを選ぶセンスにもさして驚かない。
光の速さで夫と情報を共有し、ろくろと焼き物用の土がセットになっているものを注文した。
指南用のDVDもついているらしい。完璧だ。
「やっぱり小屋がほしい」とどうか言い出さないでね、と切に願いながら今年もクリスマスがやってくる。