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公開 2023年08月23日  

夏休みで余裕のない日々。そんな時に思い出す、どんな時も笑顔だった”もう一人のお母さん”

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夏休みを駆け抜けています。


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子どもが夏休みに入るたび、思い出す人がいる。

16歳の夏にアメリカへホームステイしたときのホストマザーだ。

彼女には6人の子どもがいて、そのうち一番下の子どもはたった6ヶ月だった。

上から12歳、11歳、10歳、8歳、5歳の子どもがいて、0歳児を育てることの大変さをあの頃の私に理解できるはずもなく、私はただ、彼女のホスピタリティに甘え切っていた。

きょうだいのうち10歳の少年は私の滞在中、サマーキャンプに出ていて不在だったけれど、それでも彼女の家には5人の子どもたちがいて、さらに言うと、彼女の夫は日本人で、日本に単身赴任中だった。

そんな中、言葉もろくに分からないアジアンガールを受け入れる懐、一体どうなっているのと子どもを産んで以来、何度も思う。


今、私にとって夏休みは紛れもなく戦いで、気力と体力の限界に挑戦するような日々だ。

朝食を準備して片付けたかと思えばあっという間に昼ごはんがやってきて、片付けたと思ったらおやつの時間だ。

常になにかがこぼされて、常になにかを拭いている。

立ったり座ったり洗ったり作ったりしているうちに、ギョッとするほど時間が消費されていく。


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今年も、お盆を走り抜けているうちに仕事がまたうんと溜まってしまった。

お盆明け、昼食にハヤシライスを拵えて、子どもたちの宿題のフォローをしていたらあっという間に日が暮れかけていた。

あれもこれも終わっていない。

もうすぐ長女の習い事もあるし、ああどうしようと思いながら子どもたちに謝りながら昼のハヤシライスの残り物を出した。

「明日はきっとちゃんと作るから。お昼の残りでごめんね」
「ぜーんぜんいいよ!」

それは、遠慮ではなくおそらく本音だ。

普段の夕飯、私は野菜にとり憑かれている。

家族で囲む夕飯こそ一日の中のクライマックスだと思っている節があって、品数を多く、お野菜をたくさん、とつい力が入ってしまう。

そんな私に末っ子はときおり「おかずいくつある……?」と尋ねるのだ。

それはつまり、「あんまりおかずの種類を増やさないでね」という意。

彼女は品数が少ないほうが食べるプレッシャーを感じずにすむらしい。

申し訳なく思うのは私の自己満足に対しての仕事を全うできないから、それだけなのだ。

子どもたちは別に、なんら不満は感じていないのに。

ハヤシライスを頬張る彼らをキッチンから眺めながら、ホストマザーが脳裏をよぎった。


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私のアメリカ滞在中、たしか、彼女は1度しか夕飯を作っていない。

スクールのイベントかなにかで私の帰宅が少し遅くなった日に私ひとり分のお蕎麦を茹でてくれた。

キッチンを見ると私の帰宅前にみんなで食べたらしいピザの箱が置かれていた。

彼らの夕飯はピザかハンバーガーの2択だった。

そのことは確かに私にとってカルチャーショックではあったけれど、彼女の子どもたちも、彼女自身も、ほんとうにずっと機嫌がよく、みんながただ、楽しそうで、そのことの方がずっとカルチャーショックでもあった。

5人も子どもがいて、彼女はイライラすることも、大きな声を出すことも一切なく、すべての時間が隅々まで穏やかに過ぎていた。

彼女は、毎日、ホテルのような豪華な朝食を作ると、あとはすべてファーストフードや外食で済ませ、手放した食事の支度の分、子どもたちとうんと遊んでいた。

ある日は、プールへ。

またある日は焼き物の絵付けへ。

またある日はショッピングの後、映画へ。


夕飯はお母さんが1時間ほどかけて作って、家族で囲むもの、として育ったので少々驚きはしたものの、さみしい気持ちにはひとつもならなかった。

だって、彼らはずっと幸せそうだったのだ。

子どもたちはみんな健やかで、優しくて、親切で、ホストマザーも朝から晩までずっと品が良く穏やかで温かかった。


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夏休みに余裕のない日々が続くと、はっと彼女を思い出す。

自分で課した義務らしきものに縛られて、こんなのちっとも楽しくないじゃないか。

せっかくの夏休みがこれでは台無しだ。

野菜を、たんぱく質を、と食事を追いかけて疲れていたらキリがない。

もっと全力で楽しいことを前面に押し出したっていいじゃない。

私だって、彼女みたいに穏やかで温かいお母さんでいたい。

そうだえんやこら、もっと食事をシンプルに。


ところが、我が家の子どもたちは少々元気すぎる。

食事がさくっと終わってしまうと、持て余したエネルギーがどこまでも高まって家が壊れそうになる。

どうにか穏やかでいたいお母さんは、お願い10分だけ座って、やら、15分でいいから黙って、家の中で鬼ごっこしないで、やら、言うことになる。

食べてさえいれば静かなうちの子どもたちには、時間がかかる食事は助け舟でもある。

今日なんて、あまりに話を聞かない子どもたちに、「もう!!ふっ飛ばすよ!」と思い切って大胆な言葉を使ってみたけれど、

「ふっ飛ばされて海まで飛んで行っちゃうかも~!!!」
「砂に顔突っ込んで砂だらけになっちゃうね!!!!きゃー!」

とゲラゲラ笑い合う子どもたちがそこにいた。

これはこれで健やかなのだけど。


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そんな元気すぎる子どもたちを育てているけれど、あのホストマザーの姿が私にとってひとつの鏡であることに違いはない。

あれもこれもと忙しなく過ごしてしまうけれど、彼らの方でそれを望んでいるかと言われたらきっとそうでもないんだろう。

きっと機嫌がいいお母さんがいいに決まっている。

ただでさえ日本の子どもたちはややこしい宿題をたくさん課されていて、親御さんはそのケアに多少なりとも心を砕いているんだから、あれもこれもそれだってやらなくたっていいはずだ。


夏はうんと短いし、子どもたちと過ごす夏もきっと過ぎてしまえばとっても短い。

彼らがやりたいことをしらみつぶしに叶える夏を過ごしたい。

そう思えるのはきっと彼女と過ごした夏休みがあったからだと思う。

彼女のような品のある穏やかなお母さんとは程遠いけれど、彼女のように楽しい思い出をたくさん提供できるお母さんでいたい。

夏休みは確かに戦場だし、気力と体力の底値を記録する日々でもあるけれど、きっと一年で一番楽しい日々にもなる。

この夏何度洗ったか分からない水着を持って、この週末もプールへ行く。


※ この記事は2024年08月23日に再公開された記事です。

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