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公開 2015年08月09日  

虐待を受けた当事者がいまTEDで語る親への本当の気持ち「子どもを傷つける親の気持ちを想像してほしい」

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先日行われたTEDで、自分自身の経験を語った菊川恵さん。菊川さんは幼少期、大変な家庭環境の中で育ったことで、大人になっても対人関係に困難を抱えたり、自分自身への自信が持てない状況が続いていました。そんな菊川さんが多くの人に知ってもらいたいこととは?

出典:http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=28144079491

虐待をした親を責めているだけでは問題は解決しない!

近年、その件数の増加が問題となっている虐待事件。



虐待には、一般的なイメージとしてあがるような殴る・蹴るなどの①身体的虐待の他にも、家に閉じ込める・食事を与えないといった②ネグレクト(育児放棄)、言葉による脅し・無視・きょうだい間で全く異なる扱いをするなどの③心理的虐待、子どもに性的行為などを行う④性的虐待などが含まれています。

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児童虐待防止法施行前の平成11年度に比べ、平成24年度は5.7倍に増加

こうした虐待事件が起きると、テレビでは、



「残酷な母親!我が子を手にかける」

「自分の子どもに食事を与えず放置。とんでもない親」



といったように、センセーショナルな文字が並びます。そしてテレビを見た人たちが口に出すのは、



「子どもを愛せないんだったら、最初から産むんじゃない」

「信じられない親よね」



といった言葉。



もちろん、どんな事情があったとしても、幼い子どもに手をあげたり、世話を怠ったり、命を奪ったり…ということは許されていいことではありません。



でも、一方的に、こうした事件を起こしてしまった親を責めるだけでは、同じような虐待事件が繰り返され、問題は何も解決しません。



こうした社会のありかたに対して、問題提起を行ったのが、先日TEDで自分の体験を語り話題となった菊川恵さんです。

過酷な家庭環境のなかで育った幼少期

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菊川さんが中学生だったとき。家庭の状況は、虐待といっていいような深刻な状況に置かれていました。

床の至る所に物が散乱した部屋。カビだらけのお風呂。洗っても洗っても山のように溜まる食器たち。おいしそうなご飯は親と兄弟のもの。いつも私のご飯はありませんでした。ため息をつきながら掃除をしました。よく見てみると、死んでいた状態で生まれてきた、兄の遺灰がガラクタの中に紛れていました。

こうした環境のなかで過ごすうちに、菊川さんは自分を守るために、徐々に心を閉ざしていきます。



自分の意見を言わずに、いないふりをする。できるだけ、目の前の出来事に感情を動かさない。親しい人間を作らないようにする…そうすることで、傷つくことから自分を守ろうとしていたのだと言います。



菊川さんのようなケースでなくとも、適切な時期に親からの愛情を十分に得られなかった、自分の意見を言うことを許されなかった、親の意向に沿うように育てられた…こうした経験を持つ子どもたちは、同じように心を閉ざしたり、本当に自分の気持ちが分からなくなってしまうケースが多くあります。



以前の記事でも紹介しましたが、このように幼少期の家庭環境・親子関係が原因で、



ありのままの自分を認められない…



自分の気持ちをうまく表現できない…



自分が本当は何をしたいのかがよく分からない…



そうした気持ちを抱え、大人になっても苦しむ人たちを最近では「アダルトチルドレン」呼ぶようになってきています。

虐待をする親も苦しんでいる

ある日、この「アダルトチルドレン」という言葉に出会った菊川さん。そのときの状況を菊川さんは、



「ホッとした」



と表現しています。



なぜなら、現在の「自分や人を信じられない、本当の気持ちを表現できない」という現在の状況を、過去の自分と結びつけて、理解することができるようになったから。



どうして自分がこういう気持ち、態度になってしまうのか…そう悩んでいた菊川さんにとっては、「アダルトチルドレン」という概念は自分を理解し、解決への一歩を踏み出す手がかりとなったのです。



そして同時に、過酷な状況に自分を追いやっていた自分自身の親の背景を想像する心も生まれたと言います。

「もしかしたら、私の親だって完璧ではなかったのかもしれない。私は、自分の親に理想の親を押し付けて、親を親としてしか見ることができていなかった。そう思いました。もしかしたら、親だって痛みを抱えているのかもしれない。親だって悲しみを抱えていたのかもしれない。」

親は最初から完璧に子育てができるもの…そうした思い込みがある社会において、もしかすると苦しんでいた親に対して社会は批判をするばかりで、手をさしのべようとしなかったのかもしれない。そうしたことが理由で、虐待という状況まで親もまた追い込まれてしまったのかもしれない。



そうした視点を、虐待を受けた子ども自身が伝えることには、とても意味があることだと感じました。

アダルトチルドレンが自分を癒やす場所を ~虐待の連鎖を止める~

こうした考えをもつようになった菊川さんに次に訪れた不安は、



「自分もいずれ子どもができたとき、親のようになってしまうのだろうか」



ということでした。



こうした不安は、自分の親との間に問題を抱える人たちがよく抱える不安でもあります。



しかし、「アダルトチルドレン」は適切に自分の痛みを理解し、取り除くことができれば、自分自身の親とは違う子育てをしっかりとできるようになっていくものです。多くの人は、同じような環境で育った自助グループに通ったり、心理的ケアを受けることで、自分自身の本当の気持ちや適切な人との接し方を見つけていきます。



菊川さんもまた、自分自身の経験を気軽にシェアし、心を癒やすことができる場所として「はじめの一歩」という場所を作りました。

ここでは、同じような経験を抱えた人が集まって、自分の家庭での経験を話せる場所を提供しています。「自身の過去と向き合う」ことで、「自分のこれからを考える」こと。そんな場として「はじめの一歩」という場所が始まったといいます。

でも、こうした場所に来られるのは一握りの人。だからこそ、菊川さんは社会全体にメッセージを送ります。

「子どもを傷つける親を見たときに、少しだけ想像力を働かせてほしいんです。



もしかしたら、この大人も痛みを抱えているんじゃないか。悲しみを抱えているんじゃないか。そう思って、批判することを少しだけ躊躇してほしいんです。



それだけでは何も変えることはできない。そう思うかもしれません。でも、私はそうじゃないと思います。知ること。そして、想像力を持って相手と向き合うこと。ただそれだけで、苦しんでいる当事者は、あなたに理解してもらえている、と感じることができます。それだけで救われる人がいます。



居場所の選択肢が多い社会の実現が、結果として巡り巡って、悲しい思いをする子どもや痛みを抱える大人を減らすことにつながるのではないでしょうか。」

これはもちろん、虐待を受けている当事者の子どもに「あなたの親も苦しんでいるのだから、それを理解してあげなさい」と伝える、という意味ではありません。



でもそうした子どものケアと独立しながらも、同時に、子どもを傷つけてしまう親へのケアもしっかりと行っていく必要性がある。社会全体にそうした理解が深まることで、身近な人に相談したり、話をするだけで当事者の人が心をやすめることができる…そんな社会が実現されればと思います。

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