コノビー編集部の選りすぐり!何度でも読みたい、名作体験談。
今回はコノビーで連載中の「きなこさん」の名作をご紹介いたします!「結婚いいもの?」きなこさんご夫婦の場合は……?
初回公開はこちらです。
https://mama.smt.docomo.ne.jp/conobie/article/25877
「結婚はいいものですか」
と聞かれると、それは人それぞれなので私はなんとも言い難いけれど、私個人があんまりそのことを「人が寄り添い合って生きていくって素晴らしいんですよ!」とか「夫のこと本当に大好きなんです!」という、ポジティブに明るい性格気質の人ではないもので
「ウーン…それは、いいときもあるし、悪い時もあります」
という、ぜんぜん結婚相談所のスタッフに向いていない返答しかできません。
しかしそれは、本当にいいときも悪い時もあるのだから仕方がないのです。
互いの意見が全く嚙み合わず、子ども達の寝静まった夜更けのリビングで夫婦が骨肉の争いを繰り広げるってことは、ウチの夫婦に関して言えば過去100回以上あったことだし、「あんたとは絶交よ」なんて小学生レベルの言い合いになったことは、ここではあんまりしない方がいいですか。
でも悪いときがあれば、その反対のいいことだってちゃんとあるもの。
例えば、私はパソコンやスマホなんかの操作があんまり得意とは言えなくて
「なんかしらんけどおかしいことになってしまった…」
という時に『強制終了の後に再起動』以外の対処方法を持たない昭和産アナログ人間なのですけれど、夫はそういうのを、特にそれが壊滅的な故障なんかでなければだいたい何とかしてくれる方だし、対する私はG的な黒い虫が(家にゴキ…が出たとは、あんまり認めたくないので)我が家にこんにちはした時、颯のごとく丸めた冊子などを手に飛び出してその黒い輩を撃退できる方。
とにかく互いに苦手な部分を補い合えるという点では、確かに人が2人で生きていくのはいいことのかもしれないですね。
ところで全く生まれも育ちも、ぜんぜん違うふたりがずっとひとつ屋根の下で暮らしていると、結構何年経っても新鮮に驚くことが多いもの。
夫とはつい先日結婚15周年を迎えました。そんな15年というそれなりに長い年月を経ていても
「エッ…夫ってそうやったん…?」
ということが結構日常的に存在していて、結婚に限らず特定のパートナーと長く暮らすということは日々が「世界不思議発見!」だなあと思うし、それはわりと人生の彩りのひとつなんじゃないかと思ったりするのです。
たとえばうちの夫は、40歳をすぎたころから少し太り始め、というか「そのお腹は…どうしたの?」のようなことになり
「あなた太りましたよね…」
と会社の検診でもちょっと注意されるということがありました。
年をとると人間は代謝が悪くなるそうだし、もともとパソコンの前に座ってする仕事をしている人でもあるし、運動不足と加齢によってじわじわと体重が増加していくのは仕方がないことなのだろうなあとは思うものの、まだ小さい娘もあることだし、健康はなにより大事だからと私は夫に
「会社の帰りにジムとか、市営プールとかでこつこつ運動したら?」
と提案してみたことがありました。
夫は元々体を動かすことの好きな人だし、そのことで帰宅時間が今よりさらに遅くなると、仕事終わりには可及的速やかに帰宅し家事育児に参加していただきたいこちらとしてはちょっと痛手ではあるけれど、やっぱり健康には変えられないからと、すると夫は
「えー、でも、ひとりで運動するってつまらんやろ?」
なんて言うではないの。
この発言に私はものすごくたまげたのでした。
私個人は元々運動がすこぶる苦手で、学校の体育の時間、例えばドッヂボールではその動きの緩慢さから運動神経の良い同級生達の恰好の餌食になり、バレーボールのサーブは一向にネットのむこうに入らず、バスケットボールはドリブルをしているつもりがボールがコートのお外にひとりでお散歩に行くって案配で、それを見ていた同級生や先生は呆れたり笑ったり、いい思い出がひとつもないのです。
だからもし、今後の私の生活にもう少し時間とかお金とかの余裕ができて、健康のために何か運動を始めようかなということになったとしても、ひとりで黙々と走るとか、あとは近場の山でトレッキングでもするのがいいかな、くらいに思っていたもので、夫が「ひとりで運動なんかしてもつまんないよ」と言った時
(そうか、世界には多人数で行うスポーツが物凄く好きって人もおるのやな…!)
そんな、普通に考えればかなり当たり前のことに思い至り、私は目からうろこがぽろりと落ちたのでした。
そもそもサッカーも野球も、世間一般のメジャーなプロスポーツはチームスポーツであることが多いのだから、世の結構な割合の人は大人数で、11人とか9人なんかで集って運動するのを
「楽しいねー」
と思っているはずなのに、人間ってどうしても「自分はそういうのが苦手だから、隣にいるこの人もそうなんじゃないかな、ひいて言えば周囲の大多数のひとびとも自分と同じ傾向にあるんじゃないかなあ」なんて思い込んでしまうことがあって、大人になればなるほど、そういう偏狭な思考に偏りがち。
でも趣味嗜好のまったく違うパートナーというのは、そういう思い込みを打ち砕いてくれるので時折大変、有難いと言うか、面白いもの。
夫は今「ひとりで運動してもつまらないよ」という信条のもと、地域のスポーツ少年団のようなところでボランティアのコーチを始め、土曜日曜は真っ黒に日焼けした少年達とグランドをかけまわり、そしてそこで知り合った同じコーチのお父さん達と飲みに行くようになり、結果あんまり痩せてません。
なんでやねん。
趣味嗜好、性格が真逆のふたりがひとつ屋根の下にいると前述のように目からウロコな現象もよく起きるけれど
「アナタは今更何を言うているのか…」
なんてやや腹立たしいことも起きるもので、例えば先日突然夫が私にこんなことを聞きました。
「ねえ長男てさ、なんか食物アレルギーとか、あったっけ?」
長男は今14歳の中学3年生、髪の毛質が固めで量も多めで、更には結構なくせっ毛なもので、月に1回散髪に行ってごく短く髪を整えなくてはいけない、そしてそれと全く同じ毛質の夫も月に1回、長男と一緒に駅前の床屋さんに散髪に行っているのですけれど、散髪の後ふたりで何か美味しいものを、と言っても大体はラーメンを食べて帰ってくるのが月に1度の決まりになっているのです。
私はもうラーメンをお腹いっぱい食べられるお年頃ではなくなったし、2人の娘たちはどうも『お父さんと一緒にラーメン屋さん』ということにあまり魅力を感じないらしくて、だから父子2人でたまに外食することはちっとも構わないのだけれど、夫はある日ふと立ち寄ったラーメン屋さんのメニュー表にあった『アレルギー表示』を目にして
(そう言えばウチの子達ってアレルギーとかあるんかな)
と、気になったのだそう。
「いいい今さら?」
「えー、ないだろうなあと思ってたけど、無いよね?」
「確かに特にないけどな!」
14歳の長男には食べ物のアレルギーはなし、11歳の長女にもなし、一番下の次女にだけ、3歳ごろにちょっとした血液検査のついでにアレルギーの検査をしてもらったら「ナッツ関係がちょっと怪しい」という結果が出て、5歳になった今でも積極的には食べさせていないよってことを、私は前から言っていたはずなのですけれど。
この夫という人は、男親だからとか、昼間の主たる保育者ではないからとかそう言うことを全く抜きにしても、私とくらべて日常のあれこれがとにかくたいへん大雑把で、職業上あまり間違ってはいけない、ヒューマンエラーを何十ものチェック構造によって回避することを最高重要事項にしているはずの人なのに、こと私生活、日常のことに話が及ぶと
「そうだっけ?」
「まあ何とかなるって」
「あかんかったらあかんでええやんけ」
という3つの文言で全てをすり抜けてきたタイプの人だったりするのが、また不思議発見というかなんと言うか。
でもこれが臆病が行き過ぎて石橋を叩きまくった挙句それを自ら破壊し「渡れなくなりましたね…」と肩落とす性格の私とは真逆の気質であるもので、例えば私が、次女にやらせようかやらせまいかとしていたある習い事を
「やらせたいけれど、持病もあって体の弱い子だし、途中で『やっぱ無理』ってなってお金が無駄になるのもねえ…」
と長考の無限ループに入っていた時なんかには
「あかんかったらあかんでええやんけ、金が無駄になったらそん時はそん時や」
雑というかおおらというか適当というか、とにかくそんな夫の提案により即日決着がついたということもあって、この雑さというのもまた一概に困った性格気質ともいえないと言えないのですよね。
それだから結婚がいいか悪いかと言われると「いいことと、わるいことの比率は6:4くらい」ということかも、しれないですね。