『いないいないばあっ!』のセットは空想全開で作った。子どもを尊敬すると語る建築家・遠藤幹子さん
4,104 View今をときめく「気になるあの人」が、どのような環境で育ち、どのように周囲の大人や親が関わったことによってその個性が磨かれたのでしょうか。『原石の磨き方』を明らかにしていく当インタビュー特集第6回目。NHK教育テレビの『いないいないばあっ!』で、遊び心あふれるスタジオセットのデザインを手がけた建築家の遠藤幹子さんを取材しました。
ピアノで身についた、「超攻略ステップ」
音楽を聞きながら、絵本を読むのが大好き。
幼い頃は、そんな子どもでした。
というのも、母はピアノ先生、父は仏文の研究者だったので、音楽と本に包まれた家だったんです。
興味を持つ以前に、3歳の頃からはじめたのがピアノ。
自宅が教室なのに、一度、家の外に出てから、「よろしくお願いします」ってはじまるんです。毎日1時間は練習させられて、少しでも適当に弾いていると、台所から「指がねてるよ!」って(笑)。
でも、母にピアノをたたきこまれたおかげで、課題に対して集中して習得する“超攻略ステップ”のようなものが身についたんでしょうね。
勉強も自然とできたので、母から勉強しなさいと一度も言われたこともないですし、むしろ「なんでそんなに勉強するの?」って聞かれていたくらいです。
頭の中で描いたことが、カタチになった瞬間が至福だった
ピアノは大好きでしたけど、自分でやって楽しいと思えたのは、やっぱりものを作ること。
画用紙に展開図を描いて立体を作ったり、家にあったワインの栓やくるみで人形を作ったり。レゴブロックでものを作るのも好きでした。
ただ、頭の中であれを作りたいって描いても、どうすれば作れるのかステップもわからないし、誰も教えてくれない。だから、とにかく試行錯誤しながらやってみるんです。何度も何度も考えては作って……。
すると、ある瞬間「あっできた!」って。カタチに、バーンと生まれた瞬間の達成感が、幼いながらとても至福でした。その感覚は、今でも、どんな仕事をしても、当時のままなんです。
やりたいことは、思い切りやっていい
妄想の世界に浸ることも好きで、いろいろな絵本や物語を描いたり、作曲をしたりしていました。
イメージすることに真剣に向き合うことも勉強だ!と思っていたので、自由研究で、黄金虫の歌をアラビア風の変奏曲にして提出したり。そんな私のことを母は絶対に否定しないで、いつも「素敵ね」と受け止めてくれました。
やりたいことに関しても、絶対に駄目とは言わなかった。ものを作ることにしても、遊びにしても、やりたいことや楽しいことは、思いきりやっていい。いつもそんな環境を与えてくれながら、「あなたはできる子」「素晴らしい子」と声をかけて、個性をのばしてくれたんだと思います。
子育ては、親がいい土壌と栄養を用意すること
芸大の建築科に進んだのは、自分が好きだった、イメージを形にしたり、人と関わりを持つことに一番近いジャンルだと聞いたからです。
その後、バイトで行った会社に就職して、パートナーとなる人と知り合って結婚。建築の勉強のためにオランダに留学して、そこで、妊娠、出産しました。
子育てをしてわかったのは、子どもは言うことは聞いてくれないし、思うようにならないということ。
だからこそ子育ては、親が子どもをコントロールするのではなく、その子が持っている種が開いていくための、いい土壌と栄養を用意することだと思ったんです。
それは建築も同じ。子どもたちが妄想したり物語に入れるようなファンタジーの世界、純粋な子ども心に戻れる場を手掛けていきたいと思うようになりました。
子どもの言葉こそ、本質をついている
帰国してすぐの頃の仕事で、段ボールをつなげて立体迷路を作ったことがありました。娘を連れて行ったら、ひとしきり遊んだ後、プリプリ怒っているんです。「ママ、騙したね!中身が何にもない」って。
その言葉に、はっとさせられました。帰国後初めて人にお披露目できる仕事だったこともあって、外見のかっこよさばかり考えて、中に入った子どもたちが、どんな遊びができるかまでは考えられていなかったんです。
それからは、子どもの遊び場を計画するときは、必ず娘の意見を聞くようになりました。
子どものひと言で、本質的なことに気づかされるときもありますし、娘も調子にのって、おもしろいアイデアをいっぱい言ってくれるので、だいぶ使わせてもらいました(笑)。
『いないいないばあっ!』のセットは、ファンタジーモード全開で作った
「幹子さんが作った空間って、子どもたちが走り出すのよ」
と言われることがよくあります。それはきっと、私自身が、子どもの頃の感覚に戻って、わーっと走り出したり、踊り出したくなるような気持ちでアイデアを練っているからだと思います。
2011年の4月からの4年間手掛けた『いないいないばあっ!』のセットも、その1つです。スタッフの人たちは、みんな子どもごころに溢れていたので、私の中で“パーン”と湧き出たファンタジーモード全開の世界をすべて受け入れてくれました。
負けそうになったら、スケッチブックと好きな本を持って新宿御苑へ
仕事としてアイデアを出すことを選んだものの、正直、時間や予算など、現実的な事情に押しつぶされて、アイデアがなかなか出ずにしんどいときはありますね。
そんなときは、専用のスケッチブックを持って、新宿御苑へ行って木に話しかけたり、草むらに寝転んでして落書きをしたりします。自然に触れていると、大人社会のいろいろな事情を忘れて、ピュアに発想する力を取り戻せるんです。
いろいろな事情でアイデアがつぶされそうになると、好きな『ナルニア国物語』も欠かせません。
娘に「ファンタジーの世界を汚すものには、ファンタジーで立ち向かうしかないよ!」と言われてから、この本をデスクに置いて、「私はいま、かたっ苦しい大人世界と戦っているんだ!」と自分を鼓舞しながら仕事をしています(笑)。
子どもにしか持っていない、ピュアなまなざしを尊敬すること
私自身の子育ても、両親と同じように「子どもを受け止めること」を大切にしてきた気がします。子どもはこうやるものと決めつけず、うまくいかないことも受け止める。
何よりも大事だと思うのは、子どもであることを尊敬すること。大人が忘れている、子どもにしかないピュアで本質的なまなざしを持っていることは、すごいことなんだって。
とくに、子どもが何かに夢中になって“パーン”と気持ちがはじけているときには、その状態を尊重する。私自身、そんなふうに両親が尊厳を持って育ててくれたんだと思っています。
(遠藤 幹子 プロフィール)
建築家。1971年、東京生まれ。東京藝術大学修了後、留学先のオランダに4年間暮らし出産・子育てを経験。03年、東京に1級建築士事務所「office mikiko」を設立。13年一般社団法人マザー・アーキテクチュア設立。住宅や店舗設計のほか、Eテレ「いないいないばぁっ!」のセットなど、大人も子ども楽しく遊べる空間を美術館や公共施設でデザインしている。こども環境学会デザイン奨励賞など受賞多数。アフリカのザンビアにて、妊産婦死亡をなくすためのマタニティ・ハウスの建設プロジェクトも継続的に行っている。
(取材・文: 山本初美 / 写真:奈良英雄)
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