古くはソニーの井深大氏著「幼稚園では遅すぎる」「0歳からの母親作戦」、最近では、ノーベル経済学賞を受賞したジェームス・ヘックマン氏著「幼児教育の経済学」のヒットで重要性が再認識され、幼児教育がふたたびブームとなっています。
先行きの見えない経済状況が続く日本においても、特に都心や関西の都市部などは、小学校受験対策の教室はもちろん、0歳からの幼児教室「ベビーパーク」「くぼたのうけん」など人気は継続。「マイジム」などの幼児英語教室も相変わらず盛況なようです。
誰だって「5歳までのしつけや教育で人の一生が決まる」、「教育の投資効率が良いのは幼児期」‥などと煽られれば、「何かせねば」と焦りますよね。
小学校受験は受験者数が減少傾向ですが、これは都心では特別でなくなってきた中学受験を念頭に、併願数を絞っているため(小学校で入らなければ、妥協せず中学受験で再チャレンジする)だと思われます。逆に中学受験は一般的になってきたためか、競争も激化してるようです。
受験の低年齢化により、その前段階の「幼児教育」に目が向くのは当然のこと。しかし現在、幼児期の受験や教育にひとつの変化が見えつつあります。
幼児教育ブームは社会的成功を約束するか?2020入試大改革前夜、現場に変化の兆し
2,641 Viewヘックマンの著書が話題になってから、静かに再燃する幼児教育ブーム。小、中の受験が一般化した今、幼児教育のスタートはどんどん低年齢化しています。一方、2020年の「人物重視」の大学入試大改革を前に、その教育の内容にも変化が。
「人生の先手を打つ?」再燃する幼児教育ブーム
賢いだけではシアワセになれない!?ー2020年大学入試の大改革
2020年、大学入試が大改革を迎えることをご存知でしょうか。
マークシート式のセンター試験は廃止され、記述式の新テストが導入されます。調査書や活動報告書で一定の学力水準は担保した上で、記述回答により思考力・判断力・表現力を評価されます。また、プレゼンや小論文で主体性・多様性・協働性を見られ、特定の分野に秀でたものがあればそれも評価の対象となります。
今までのように知識量だけではなく、「いかに思考し、どういった能力がある人物か」を多元的に見られるのです。
この大改革を受け、偏差値重視だった名門中高一貫も試験内容が変化していく(元々行動観察のある小学校ではすでに変化しているところが多い)だろうと言われています。
卒業さえすれば、どんな子もやがては社会にはばたくーそれを親は期待していますが、その前につまずく子もいます。
優秀でもニート、なんて話は珍しくなくなりました。就職においても、企業は大学名で足切りした上で(有名校でもエスカレーターで上がった子は敬遠されるという風潮もあります)高いコミュニケーションスキルや個性を持つ子を採用したがります。
また、オックスフォード大のオズボーン准教授の13年の論文では、人工知能の発展により、今後10〜20年で50%近くの仕事が人から機械に取って代わられるだろうと予測されています。
今後は、コンテンツをつくる能力、表現力などのセンスが要される仕事、細かなニーズに臨機応変に応える仕事が生き残るであろうことを考えると、人物重視というのも時代に沿った変革のような気もします。
ともかく、小学校受験と就職試験は「お見合い」に似ている、なんて言われますが、そうした「選抜に学力プラス人物を見る風潮」が、中高や大学受験にも及んできたようです。
教育格差が大きくなる今、子どもたちはIQ(知能指数)はもちろん、EQ(心の知能指数)も求められる時代になったのです。
学校と家庭の役割はどう変わる?現役小学校教師に聞いてみた
大学入試の大改革を前に、実際の教育現場ではどうなっているのだろうと、公立小学校の現役教師である妹に聞いてみました。
「当然、それを踏まえた授業をしているよ。従来は、先生ひとりが生徒全員に質問し、その中の誰かが手を挙げて答えていた。これだと授業はスムーズにいくのだけれど、思考が深まらないし定着率も悪い。そこでうちのクラスでは、話し合い活動と称した討論を導入している。2〜4人の小グループに分けて集団討論をさせているよ」
ーその効果は
「歴然だと思う。まず、一人ひとりに意見を求めるので、その質問に対しての当事者意識が出る。そして討論することにより、論理的思考、情報編集力、語彙力、自己主張と協調性のバランス、発表の度胸、そして自己肯定感‥さまざまなものが鍛えられ、高められるのがはっきりと分かる」
ーその取り組みは、先生が個々の考えでやっているのか
「うちの学校では、同じ学年の先生同士チームとなり、情報共有をしている。発問ひとつも、スムーズに正解にたどりつくのではなく、疑問を浮かばせ、多様な意見が出て、思考が深まるように事前にチームで練り上げているよ」
ー受験が学力だけでなく、人物重視となると、努力家で成績がよくてもアピールが苦手な子にとっては辛くならないか。(実際、改革に際しては賛否両論あり、点数で公平にジャッジされるのを期待して愚直に努力した者が報われず、余裕がある家庭の子どもがボランティアや留学などで評価されるネタを積み重ねて学力は塾だのみ、結局経済格差が反映されるなんて声もあるが)
「賛否両論あるのは勿論知っている。持論もあるがここでは伏せる。ただ、こうした教育改革を受け入れる前提で話すと、アピールが苦手、そういう子にも光る部分は絶対にある。そしてそれを磨くのは学校だけでは不十分。身近でいちばん子どもの事を知っている家族の存在は大きいと思う」
「情熱のある教師は、受験に必要な学力だけでなく、社会に出ていかに通用するか、さらに言えば、人としていかに生きるか、ということを主体的に考えられるようになるよう日々指導している。付け焼き刃の受験テクニックを教えるだけの幼児教育であれば、今後は自然と淘汰されていくかもしれないね」
確かに、母子一体で受験に没頭し、受験テクニックは身につけたものの、受け身で指示待ちになったり、特に理系に必要な「疑う目」を摘んだのでは本末転倒。また、幼児教育は非科学的な類のものも多くあり、それが人気を博していたりします。
早期に行う幼児教育はその後の人生に大きな影響を及ぼす可能性が高いですが、玉石混交だということは知っておきたいですね。
また、幼児教育が重要だからといって、幼児教育サービスを受けさせることが重要という訳ではない。のです。幼児教室や習い事に、一番大切な「人間力」の育成を丸投げすることはできません。家庭での関わり方を土台とした総合的な環境作りが大切です。
この、IQとEQをどちらも伸ばす家庭教育について、次回はさらに深く掘り下げたいと思います。
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