親が嫌いじゃダメですか?毒親・親子関係に悩むあなたがぶつかる壁とその乗り越え方
41,731 View最近、「毒親」という言葉をよく耳にするようになりました。「自分中心で価値観を押し付ける親」などその定義はさまざまですが、共通するのは子どもの側が「親子関係に苦しみ、またその解決を望んでいる」という点にあります。毒親とはどんな親のことをいうのでしょうか。また親が苦しいのは何故で、それはどのように解決されるのでしょうか。
毒親ってなんですか?~親子関係に悩むあなたに~
最近よく耳にするようになった言葉に「毒親」というものがあります。
「自分中心で価値観を押し付ける親」
「子どもの意見に耳を傾けようとしない親」
などさまざまな定義が飛び交っていますが、共通している点として子どもの側が「親子関係に苦しさ」を感じており、そこから「解放されたい」と思っている、ということがあげられます。
とはいうものの、毒親や親子関係の悩みについてネット上ではまとまった知識を得ることが難しく、悩んでいるにも関わらずどうしたらよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今日は、
・そもそも毒親とは何なのか
・何故「親子関係」が苦しくなってしまうのか
・どうしたらその苦しさから逃れられるのか
という点について詳しく、丁寧に書いていきたいと思います。
また自分の親との関係に苦しむ人に共通している点として、
「適切な育てられ方をしていない自分に子育てがしっかりと出来るのだろうか」
という悩みを抱えているということがあげられます。
でも、私はあえて言いたいと思います。
「自分の親との関係に苦しみ、それを乗り越えようとしているあなただからこそ、素敵な子育てができるはずだ」と。
少しでも親との関係に悩みを感じている方、またそうした悩みから自分の子育てに自信が持てない方はぜひ目を通してほしいと思います。
また、「いや、私には関係ないよ」と思っている方へ。どうかここで読むのをやめないでほしいと思います。
この「毒親」「親子関係」の問題は子育てに関わる全てのみなさんにとって、「どのように子どもと関わるか」という点を考える上で非常に役に立つものだと思っています。
またあなたの周りにいる親子関係に悩む全ての人にとってこの問題を理解してくれる人が身近にいることはとても重要なことですから、ぜひ読んでみてほしいと思います。
では、さっそく見ていきましょう。
毒親とはどういう親を指すのか
では、「毒親」とは具体的にどのような親のことを指すのでしょうか。
親子関係に関するさまざまな本を読むなかで私が出した結論は、
「子どもが自分とは違う人格であると認められない親」であるということです。
例えば、子どもが電車にとても興味があるとします。
普通であれば、「ああ、この子は電車に興味があるんだな」と感じることができますが、子どもを別人格だと捉えることができない親は、以下のように感じてしまいがちです。
「そんなくだらないものに興味を持つなんて」
「私は他のことに興味を持ってほしい」
このように感じるだけならば普通の親にもあることだと思いますが、毒親と呼ばれる親の場合、
・思うだけでなく、実際に介入して思い通りにさせようとする
・進学、就職、結婚という重要な事柄から、日常生活に至る好みまであらゆる点でその押し付けを行う
・「本当にこんなことをして子どものためになるのだろうか」という自己反省の視点がない
という3つの特徴も付け加わると感じています。
より分かりやすくするために、他の人が提唱している毒親の定義も見てみましょう。精神科医の齋藤環さんは「母と娘はなぜこじれるのか」(NHK出版)の中で母親による娘の支配の形態として以下の3つをあげています。
(1)抑圧
(2)献身
(3)同一化
(1)抑圧とは、言葉によって「これをしてはいけない」という禁止を親が子に強く求めるものです。また単純な禁止だけでなく、自分の意図に沿わない行動をする子どもに対して「あなた本当にダメね」といった否定的な言葉をかけることで、子どもの行動を抑圧・限定するものです。
母娘問題をテーマに多くの作品を発表している漫画家の田房永子さんはこうした押し付けのことを「呪詛(じゅそ)」と表現していますが、子どもが無意識のレベルで価値観を内面化するまでこの抑圧が行われるということをうまく表していると思います。
(2)献身とは、斉藤さんによれば「娘の学費を稼ぎだすために身を粉にして働く母親、娘が自立してからもひんぱんに連絡をとってはアドバイスしようとする母親」などがこれにあたります。また、そうした母親の献身から逃げることは娘たちに罪悪感を感じさせるという結果をもたらします。
(3)同一化ですが、これは母親が子どもに「自分の人生の生き直し」を求めることとされています。自分が自分の人生において後悔していることなどを、自分の子どもに達成させようと強く働きかけることを指します。
私としてはこれに、(4)大人化というものを付け加えたいと思っています。
これは子どもにとっては重い責任を「子どもを大人として扱う」ことで背負わせようとする関わり方のことを指しています。
例えば、深刻な夫婦関係の問題を子どもに相談する、解決をさせようとするといった親がこれに当てはまります。(アダルトチルドレンなどはこの形態にあてはまりますがここでは詳しく説明しないので、興味がある方は以下の記事を見てみてください)
なぜ毒親から逃れられないのか
ここまで毒親と呼ばれる親にはどういうタイプがいるのかについて見てきました。
しかし当事者の人が自分の親を毒親であると認識し、その親子関係の解決を図ろうとするとき、そこには必ずぶちあたる4つの壁があります。
そこで次にその壁について明らかにすることで、親子関係がなぜ苦しいのか、その悩みの原因について見ていきたいと思います。
第1の壁:親の否定=自己否定
まず、親子関係に悩む人がぶち当たる最初の壁が「親の否定をしようとすると、自己の否定につながる」という壁です。
前の節でも「同一化」という親子関係の形態を示しましたが、毒親というものが「自分の思想や考え方を子どもに強制しようとするもの」であるがゆえに、子どもは小さいときから親の言葉を信じ、その考えをインストールする形で成長していきます。
つまり親の考え=自分の考えというように、その2つがかなり密接した状態で自分の中に存在することになります。
そのため成長し、本当の「自分の考え」を持ち、親との決別をしようとすると、それはある意味これまで生きてきた自分そのものを否定することに繋がってしまいます。そこには大変な困難を伴うといえるでしょう。
2.第二の壁:親の全てが嫌いなわけではない
第二の壁は「親の全てが嫌いなわけではない」という壁です。
親が自分と不可分にくっついていることもその一つの要因となりますが、他にも自分の心身の状況によって、許容できる親の行動や言葉が変化するという点もその原因のひとつです。
つまり「親のここが嫌い」と思っていても、状況や自分の心のゆとりによって「まあ親にはこういう面もあるよな」と許容できたり、「自分が悪いのだ」と思い込むことで親の考えを受け入れようとしてしまったりする、ということです。
フェミニストカウンアセラーの加藤伊都子さんは「私は私。母は母。(すばる舎)」という本の中でこうした現象を「行動の四角形(「Parent Effectiveness Training(邦題『親業』トマス・ゴードン著、大和書房より加藤さんが引用)という図表をもとに説明しています。
これは人には相手の行動や言葉が受容できるか、受容できないかを決める境界線があるが、その境界線は自分や相手の状況、環境によって上下するため、時には受容でき、時には受容できないという状況が生まれるということを説明したものです。
つまり受容できる、できないはすっきりと割り切れる簡単なものではないということです。
第3の壁:他者から見ると大したことがないように見える
ここまでは親と決別したいという気持ちを抱えるときに抱える「自分との葛藤」ですが、それらを乗り越え実際に親子関係を解決しようとして行動を起こそうとしても、そこには壁が立ちはだかります。
それが第3の壁である「他者から見ると大したことがないように見える」というものです。
「私の親こんな感じでね…」とやっとの思いで言葉にして身の回りの人に訴えかけても、
「へえー、そんなことあるんだね。私の親とは違うかも。」
「あー、そんなことうちの親でもあるある」
と深刻さを分かってもらえないという壁にぶちあたります。
第4の壁:「親尊敬しろ、感謝しろ」圧力
また第3の壁と同時に立ちはだかる壁が世間の「親尊敬しろ、感謝しろ圧力」です。
「親のことが嫌い、親が苦しい…」そんなことを口に出した日には、
「でも、ここまで育ててくれたのも親でしょ」「そんな親に対して感謝の念はないの?」という世間からの目が降り注ぎます。
本人自身も実際に親がお金や(適切かどうかは別として)愛情をかけてくれたことを分かっているからこそ、その親を否定したり、決別しようとすることには大きな罪悪感が伴います。
結果として、親の関わりがツライと思うことすらいけないことだと思うようになってしまうのです。
毒親を乗り越えるために
ここまで、親子関係に悩む人がぶち当たる壁を示しながら、「なぜ親子関係が苦しいのか」を書いてきました。ここからは実際にその壁を乗り越えるために私が必要だと考えていることを説明していきたいと思います。
第1の壁:親の否定=自己否定と第2の壁:親の全てが嫌いなわけではないを乗り越える
自分の全てや親の全てを否定する必要はありません。
例えば偏差値・学歴主義の母親のもとに育ち、その結果レベルの高い学校に入学することができた場合を考えてみます。
・そこで出会った友達に恵まれたこと
・結果として恵まれた就職先につけたこと
・一方で進路や自分のやりたいことが自分で分からない
というように結果にはポジティブなものとネガティブなものが存在することでしょう。
こういった場合はポジティブな面はそのまま受け入れ、ネガティブな結果で自分が否定したい部分だけを取り出して改善を図ればよいのです。(ネガティブな面を改善したいという欲求があまり高くないようならば、ネガティブな面も「自分」として受け入れる、という方向性も考えられます)
またこの時に陥りがちなポイントとして、「親の影響⇒マイナスな結果が生じた」と強く感じているために、まずは「親を変えなくては」と思い込んでしまうことがあります。しかし、親は別の人格で一朝一夕にその性格を変えることは非常に困難です。
マイナスの結果(ここでは自分で進路ややりたいことを決められない)という点だけに着目して、まずは自分のなかでそれを解決するスモールステップを考えましょう。「自分の好きなものを買いまくる日をつくる、自分がひそかにあこがれていた職業の人に話を聞きに行ってみるなど)
小さな行動を積み重ねて「親とは違う自分」を見つけることができれば大きな一歩と言えると思います。
第3の壁:他者から見ると大したことがないように見えるを乗り越える
さて、第3の壁として、他者から見ると大したことがないように見えるというものがありました。
たしかにこの問題は、経験をしていない人にとってはその辛さが理解しがたいものなのかもしれません。
ですから、そうした人に理解してもらおうとするステップはとりあえず後回しにして、自分のなかでの葛藤やもやもやを話せる仲間を見つけるということもひとつの選択肢だと思います。
最近では同じような経験をした人が集まり経験を語る当事者団体もあります。例えば、機能不全家庭で育った人が語りあう「はじめの一歩」という場を作っている菊川恵さんは以下のように語っています。
主な活動内容は、アダルト・チルドレン当事者の方々が
自身の家庭での経験を話せる安全な空間を提供することです。
アダルト・チルドレンの克服には
「自身の過去と向き合う」ことが必要だといわれています。
過去に向き合ううえで有効な手段として
「家庭での経験を繰り返し話すこと」があげられています。
そのため、わたしはこの活動を行っています。
また、先ほど登場した毒親問題を取り上げて作品を書いている漫画家の田房さんは、定期的に座談会などを開いているので、そこで同じような経験をしている人と話してみるのはどうでしょうか。
座談会や当事者団体のハードルが高い人のために、最近では母娘関係をテーマにした本も色々と書かれています。
ざっとあげるだけでも以下のようなものがあります。
・放蕩記(村山由香:小説)
・マザコン(角田光代:小説)
・うちの母ってヘンですか(田房永子:マンガ)
・母がしんどい(田房永子:マンガ)
・母と娘はなぜこじれるのか(斎藤環:対談収録)
・母が重くてたまらない(信田さよこ:事例紹介)
・私は私。母は母。〜あなたを苦しめる母親から自由になる本(加藤伊都子:事例紹介)
小説からマンガまでさまざまな形態がありますから、自分の読みやすいものから手に取ってみてはいかがでしょうか。「他者から見たらこんなこと」の積み重ねが実は人をむしばみ、深刻な影響をもたらしているということをあざやかに描いてくれていると思います。
こうした本を読んでみるのも自分を客観視し、悩みを言語化するひとつの方法だと私は思っています。
第4の壁:「親尊敬しろ、感謝しろ」圧力を乗り越える
さて、最後の壁である「親尊敬しろ、感謝しろ圧力」ですが、これに関してはもう私は
余計なお世話じゃ、ボケ!
というスタンスでいいと思います。(Conobie編集部さん、ごめんなさい。でも言わせて)
親子だって人間関係ですから、合う合わないあるはずですし、家族が抱える状況も違いますから最適解も違うはず。にも関わらず世間一般での「こうあるべき」を押し付けてくる人に対しては、
余計なお世話じゃ!
と言ってやればいいんです。
とはいいつつ、やっぱり「親への恩返し」の呪縛は根強いもので、そんなにスッパリ割り切れないよ、という人も多いと思います。
そこで、私の友人が言っていた言葉でとても納得したある考え方を紹介します。その友人はこう言っていました。
「親がお金をかけて、時間をかけてあなたを育ててくれたから、恩返ししなきゃって言うけれど、そもそも子どもが何もない状態から一人前に育つためにはどうしてもお金や手間暇がかかるのは当たり前だと思う。
でも、そのかかったお金や手間暇を「親」に返さなきゃいけないとは決まってないよね。
だから私は次に育つ子にその「恩」を返していければいいと思う」
つまり親にその恩を返すのではなく、社会全体の他の子どもたちに対して自分が育ったことへの恩を還元していくという考え方です。どうしても「恩を返さなきゃ」という思いが強い人はこのように考えてみるのはいかがでしょうか。
毒親という言葉に込められた思い
さてここまで毒親がなぜ苦しいのか、また乗り越えるためにはどうしたらよいのかについて考えてきました。
まだまだ不充分な点もありますし、これが全ての人に当てはまる解となるわけでもありません。でも、親子関係に悩んでいる人が次の1歩を踏み出すきっかけになればいいなと思います。
記事を読まれた人の中には、「毒親」なんて親のことを呼ぶのはひどい、といった感想を持たれるかたもいるでしょう。
しかし「親が苦しい、離れたい」という思いを抱えながら、「親を否定するなんてありえないことだ」「このように考えてしまう自分が悪いのだ」と考えてそこから抜け出せないという人は少なからずいると思います。
そういった人たちに、「毒親」って言ってもいいんだよ、親を否定してもいいんだよ、自分のことをまずはしっかりと大切にしてあげて…そう伝えるためのきっかけとして少し強烈なこの「毒親」という言葉が広まってくれればいいなと思います。
また冒頭にも書きましたが自分の親子関係で悩んでいる人は、「自分が適切な子育てが出来るのか」という点に不安を抱える傾向が強いと感じています。
しかし私は何度でも言いたいと思います。
「自分の親との関係に苦しみ、それを乗り越えようとしているあなただからこそ、素敵な子育てができるはずだ」と。
そもそも完璧な子育てなんてものはないんです。あなたにとって、子どもにとって試行錯誤の連続の末にたどり着いた関係性こそが、その親子にとって最適なものだと思います。
親子関係に悩む人にとってこの記事が少しでもその悩みを軽くするきっかけとなりますように。
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