搾乳だって立派な授乳!NICUで赤ちゃんと一緒に頑張るママたち
35,851 View産まれたばかりの我が子を抱いて、慣れない手つきでおっぱいをあげる。そんな当たり前の風景を夢見ていた私に待っていたのは、搾乳機を使ってせっせと母乳を絞る毎日でした。
29週で双子を早産。私にも母乳をあげられるの?
初めての妊娠は、まさかの一卵性の双子。ダブルの喜びに感激したのもつかの間、一卵性双生児特有のリスクであるTTTS(双体間輸血症候群)の疑いで2人の赤ちゃんに体重差が見られるようになっていき、小さかった方の子に子宮内発育遅延の診断がつきました。
28週目に大事をとって管理入院することになった直後、事態が急展開。29週0日で緊急帝王切開をすることになりました。
局部麻酔で意識があったため、無事に2人の元気な産声を聞いた私は、心の底からホッとしていました。
娘たちはとても小さかったけれど、無事に生まれてきてくれた。そのことに幸せな気持ちでいっぱいでした。個室でゆっくり体を休めていたところ、助産師さんが小さな試験管を持って部屋をノックしました。
「お母さん、母乳絞ってみましょうね」
正直、私はこの言葉にまったくピンときませんでした。
そもそも、思った以上の早産で全然気持ちが追いついていなく、娘たちが無事に生まれてきたことは嬉しかったけれど、自分が母親になった実感がありませんでした。まして29週での出産。私に母乳をあげることなんて、できるの?
私はただ目を丸くして、呆然とするしかありませんでした。
「授乳室」で搾乳機を使うということ
半信半疑で助産師さんに言われるがままに手で絞ってみると、なんと少量ながら母乳が出てきました。
「早産したママからは、早産で生まれてきた赤ちゃんにピッタリの栄養価の高い母乳が出るのよ。だから、搾乳をがんばってNICUの双子ちゃんたちに届けようね。」
その言葉を聞いて、私の中の母乳スイッチが入りました。
3時間置きに携帯電話のアラームをセットして、私は娘たちのために搾乳を一生懸命にがんばりました。手で絞り出すのが大変だということを助産師さんに話すと、授乳室には電動の搾乳機があるからぜひ使ってみようということになりました。
丸い吸盤のようなものをおっぱいに当ててスイッチを押すと、電動でグイグイと搾乳が始まり、面白いほど母乳が絞れるようになりました。これなら2人分のおっぱいもたくさん絞れる!と意気込んでいたのですが、ふと気づくと、周りには産まれたばかりの我が子を抱きかかえて、愛おしそうに授乳しているママばかり。
「あれ、赤ちゃんは?」
隣に座ったママから何気なく話しかけられて、双子の娘たちを早産したこと、NICUにいるけど元気にがんばっていることを話しました。どれくらいの大きさで産まれたのか聞かれたので、900gと686gという数字を口にすると、周りのママたちの空気が凍りつくのを感じました。
娘たちが無事に産まれたことにただ幸せを感じていた私は、この時、一気に現実に引き戻されました。自分で母乳を飲むこともできないような、小さな小さな赤ちゃんを産んだんだ。そのことを突きつけられたように思いました。
きっとここにいるママたちは、携帯電話のアラームなんかじゃなくて、かわいい我が子の泣き声で目覚めておっぱいをあげているんだろうな。
赤ちゃんが上手く吸ってくれない、いっぱい吸われておっぱいが痛い・・・というママたちの何気ない話を聞きながら、「それでも、赤ちゃんにおっぱいをあげられていいな」と心の中でつぶやいて、硬いプラスチックの搾乳機をあてがいながら、私はただ黙って搾乳をするようになりました。
その後は、授乳室に誰もいないタイミングを見計らって搾乳に行き、誰かが来ると逃げるようにその場を後にしていました。
なぜ「授乳室」なんだろう?「搾乳室」をつくってくれればいいのに。
そんなことさえ考えていました。
搾乳も、立派な授乳なんだ!
ある時、私がいつものように絞った母乳をNICUに持って行くと、看護師さんが、
「今からちょうどミルクの時間なのよ。せっかくだから、搾りたてをあげようね!」
と言って準備をしてくださいました。そのころの娘たちは、保育器の中で人工呼吸器や点滴などたくさんのコードにつながれており、口から胃の中に通したチューブで直接母乳を注入していました。看護師さんが機械に母乳をセットして、
「ママがおっぱい持ってきてくれたよ~。一緒にチュッチュしようね。」
と言ってスイッチを押しました。その時、娘が偶然口をパクッと動かしました。
その姿を見た時に、私は思いました。娘たちは、ママが絞ったおっぱいをちゃんと飲んで、少しずつ大きくなっている。
搾乳することも、立派な授乳じゃないか!と。
それからは、搾乳することを前向きに考えられるようになり、娘たちに母乳を届けることが楽しみになりました。
よく見渡してみると、NICUには様々な事情から搾乳をしているママが他にもいることに気づき、同じような環境にいるママたちと話をして分かり合うことも増えました。もちろん、いつか自分でおっぱいをあげることを夢見る気持ちは同じでしたが、楽しみにしていた分、後にそれが実際に叶った日の喜びはとても大きかったです。
あの時、私の手のひらに収まるほど小さかった娘たちは、今年3歳になりました。
体を動かすことが大好きで、鉄棒やジャングルジムが得意な元気な幼稚園児です。
今の私に残っているのは、あの当時の自分にとってベストな方法で、娘たちに母乳をあげていたという気持ちだけ。
搾乳を続けていた毎日を、今ではとても誇りに思っています。
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