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公開 2015年12月03日  

元NICU看護師が観た「コウノドリ」~帝王切開も“尊いお産”のひとつ。産後ママの気持ちを考える

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さて、いよいよ明日は第8話!7話の復習をしていきたいと思いますが、第7話も帝王切開という身近なテーマが取り上げられていました。「理想のお産って何?誰のためのもの?一番大切なものって何?」そんなテーマを感じました。元NICU看護師から観たコウノドリ。私が経験し、感じた帝王切開の現実と合わせてこのことについてみなさんと一緒に少しでも考えられたらと思います。


理想のお産は、一人ひとり違っている

第7話のコウノドリでは、理想のお産について描かれていましたね。
お産については生活しているとどこかで目にしたり耳にしたりするもの。
一人ひとりが理想とする、印象的なお産があるのではないかと思います。

家で産む、畳の上で産む、好きな音楽をかける、気になっていた参院・病院で産む、家族と一緒に産む、水中出産…。実は、お産には、本当にいろいろ。他にも、隣には旦那さんがいるのを想像する人もいれば、おかあさんについて欲しい人、スタッフだけがいい人、環境だけでなく姿勢や心の状態まで、実に多様な形があると思います。

しかし、ドラマの中でもあったように、「5人に一人は帝王切開となる」ことを考えると、なかなか理想通りにいかないことも多いのではないかと思います。今回ドラマでも妊婦さんは帝王切開をしたくないと言っていましたが、自ら帝王切開を希望される方はいないと思います。

ドラマの中の妊婦さんが「痛みに耐えてこそお産でしょ?痛みに耐えるからかわいいと思えるんでしょ?」といっていましたが同じように思っているママもいらっしゃいます。ママ本人がそう思っていなくとも周りの人にそう言われた、と声を詰まらせる方、そして、「帝王切開で産んだから、私に産みの苦しみはわからない」と悲しい顔をされる方はたくさんいらっしゃいます。

予想していない“帝王切開になる”ということの現実

帝王切開は、実に5人に一人の方が経験します。
果たして、帝王切開は痛みに耐えていないお産なのでしょうか?産みの苦しみがないものなのでしょうか?

私はそんなことはないと思います。
いくら赤ちゃんのためとはいえ、帝王切開は自分の体にメスを入れるということであり、心も体も容易なことではありません。

しかも、多くの場合、「命を救うためには、今すぐ帝王切開になることを了承してもらわないと困る」という選択の余地がない状況なのです。

「やるしかない」と思っていても、自分の体にメスが入るのはとても怖いと思います。ただでさえ、出産を乗り越えることは命がけなのに、思いがけないお産の形を選ばざるを得ないことは受け入れるのが難しい、という感情が当たり前のように思います。

ドラマのように、いきなり帝王切開になることを告げると「いやです。」「傷は困ります。」とおっしゃる方もいます。まだ若かりしころの未熟な私は『赤ちゃんの命がかかっているのにいやってどういうこと?!』と思っていた時もありました。

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私のそんな考えが変わっていったのは、実際に帝王切開に立ち会わせていただいたことがきっかけのように思います。事前に週数が早いなど、NICUに入ることが分かっていて、ご挨拶に行ける状況の場合は、NICUの医師と一緒に事前にご両親に説明とご挨拶をさせていただくこともあり、これから手術室に入るママに会う機会があることも。

みなさんとても緊張されているのと、どうなるか分からない不安で涙している方もいます。本当は手術室には全ての装着物は持ち込めないのですが、なんとか一目、赤ちゃんをみたい一心で、メガネを許してほしいと懇願されたママもいました。

「赤ちゃんの入院するNICUの看護師です。生まれた後に、NICUであかちゃんを見させていただきます」とご挨拶するのですが、誰かが来たということさえも、産後ほとんどのママは覚えていません。そのくらい、これから帝王切開に挑むということは緊張と恐怖と不安が入り混じっているのだとその状況を目の当たりにしました。どんなに赤ちゃんのためとはいえ、体にメスを入れることの怖さや覚悟がどれだけ必要なのか、肌で感じずにはいられませんでした。

産後のママは、もっと自分の“体”も“こころ”も大切にしてほしい

その帝王切開前のママの状況を見てからは、産後、落ち着いてきたころに、「急でびっくりしちゃいましたよね。」と声をかけると、みなさん自分のお産を振り返り、ぽつりぽつりと語り始めます。

「なんか説明されたってことは覚えているけど、よく覚えていないです。あの時はとにかく必死でした。帝王切開って言われて、一体どうなっちゃうんだろう、あかちゃんも、わたしも。大丈夫って言い聞かせても、不安で不安で。」

「もうちょっと、お腹に入れてあげたかった。本当にごめんねって思いだけしかありませんでした。」

「いろいろ出産の時のことも考えていたのに、何一つ思った通りにならなかった。どうしてっていまでも悲しくなるんです。この子が元気に生まれてきたから、それでいいって思いたいんですけど。。。そんなのわがままですよね。」



みなさん、赤ちゃんが生まれ、自分の体も思うように動かない状況の中で、それどころではないはずなのですが、ふとした瞬間に出産の時のことを思い出している方ばかりです。

理想のお産、思い描いていたお産ができなかったこと、帝王切開になってしまうことはママの心の傷になる大きな要因の一つです。

ママだから、子どものことだけを考えなければいけない、そんなことはないんですよ。

ドラマの中で助産師小松さんも「赤ちゃんのためにママがいるんじゃないよ。ママがいるから、赤ちゃんがいるんだよ。」言っていましたが

私も『あかちゃんの命も大切ないのち。そして、おなじくらいママの命もたいせつないのち』だと思っています。
もっともっとママは、ママ自身の体もこころも大切にしてほしいなと思っています。

産後は、しっかりと気持ちを受け止めることが大事

このように、産後のママは「もっとこうしたかったのにできなかった」という思いでいっぱいです。
そのことを悲しく思うことも、とても自然なこと。
ですから、心に無理をせず、悲しみを一度吐き出すことを是非していただきたいのです。

産科の助産師さんでも、NICUのスタッフにでも、パパにでもおばあちゃんにでもいいと思います。聞いた方はただその気持ちを受け止めたらいいのだと思います。

それが難しければ紙に書いてみるのも効果的です。悲しい時は無理して自分をなんとか納得させることよりも、素直に出すこともとても大切なのです。
出して出して、出しきったところから、「いま」を受け止めることが始まります。

そうすることで、「ママ自身も怖かった、だけど、頑張った自分を受け止める」それができるといいなあと思います。

コウノドリ先生も言っていましたが、帝王切開も立派なお産です。痛くないなんてこともありません。その時は麻酔していても出産するまでは意識がありますし、麻酔が切れれば手術の傷の痛みもあります。思った通りにできなかったことで、心も痛みを伴っていると思います。

どんなお産も、尊いもの。

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赤ちゃんを思う気持ちは帝王切開でも、赤ちゃんが入院しても変わるものではありません。
そのことを、ママが実感できるようになっていくのが一番大切なので、もちろん私たち看護師も医師も、産科の助産師さんもお手伝いさせていただきます。もしかしたら、帝王切開になったけれど、入院されなかったママたちもとても心苦しい気持ちを抱えているかもしれません。

お産に楽なだけのお産はないのではないかとおもいます。どのお産も一生懸命で命がけで、一人ひとりに大きなドラマがあります。

どんなお産も、尊いお産です。

命を生み出すお産も、もしかしたら空に還った命を生み出すこともあるかもしれません。それもすべて尊いお産だと思っています。
赤ちゃんは、どんな状況も受け止めて生まれてきているのではないかと感じることもたくさんあります。

少し、振り返って、もしも苦しい気持ちがあったのなら、そんな自分を許すきっかけになってもらえたらいいなとおもいます。

そして、思い描いた通りでもそうでなくても、自分自身も尊いお産で生まれてきたことを知ってもらえたらとおもいます。「一番大切なものはなにか」そんなことをドラマコウノドリは、毎回考えさせてくれますね。

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