第9話のコウノドリでは、28週で出生した1,600gの赤ちゃんが転院になるお話が描かれていました。
ドラマの中では、お母さんに次の赤ちゃんが来ることをお伝えし、了承してくれないとその子は助からないとドラマ中ではお話していましたが、現実ではそんなことはもちろんしません。
どんな状態の、どんな子が来るから移動してくれということは個人情報保護にも違反しますし、お母さんにそんな決断を迫ることはありません。
じゃあ誰が決断するのか、というと、決断するのは医師です。そして、いまいる赤ちゃんたちを危機に晒して、次の赤ちゃんを受け入れることはありません。いまいる命を守る責務があるからです。しかし同時に、可能な限り、いま緊急の状態にいるあかちゃんを助けるべく、調整をすることも怠ることはありません。
地域差もあるかもしれませんが、NICUでは、どの病院がどんな患者さんを受け入れられる状況か把握できるネットワークがあります。それで、どうしても、患者さんを受け入れることができない場合は、他の病院に打診することもあります。
赤ちゃんの状況を常に把握し、いざという時にどの赤ちゃんをどこへ移動するのか、毎日医師と確認しながら調整しています。そして、産科の状況も加味しながら、生まれそうなあかちゃんはいないのかどうかなど情報交換も行いながら、では院外で生まれた赤ちゃんはどうするか、緊急のお母さんの搬送はどうするのか、考えながら調整します。
元NICU看護師がみるコウノドリ第9話 〜NICUを追い出されるってホント!?〜
16,024 View今回のコウノドリで、あかちゃんの転院について描かれていましたね。もしかしたら、たらい回しのような印象を受けた方もいるかもしれません。医療者目線で、転院・移動についてお伝えしたいと思います。
赤ちゃんが入院していられなくなる?!
NICUを卒業したらどこへ?
今いる患者さんを移動する場合は、まず第一に患者さんの容態によります。
移動できる状態になければ、それは移動の対象にはなりません。
患者さんの状態、そして、感染・環境など様々なことを考慮した上で、赤ちゃんにとってそれがマイナスの要因にならないと判断して初めて移動の可能性が出てくるのです。
第一選択は同じ病院の中のGCUというNICUを卒業し、救命の段階がすぎて、成長発達を促す病棟を検討します。GCUはgrowing care uniteといって成長発達を促しながら退院の準備をしてく場所です。多くはNICUに併設されています。
お母さんが遠方から通っているような赤ちゃんであれば、お母さんが通いやすいように、状態が安定したところで移動しましょうというお話しを前もってお話しし、赤ちゃんの状況と先方の病院の準備が整ったところで転院となります。
状況によっては、同病院の小児科に移動になることもあります。その時も可能な限り、小児科のスタッフと事前に会っておいたり、病棟を見学したりしてなるべくスムーズに移動できるように準備をします。
ただ、ドラマでも言っていたように、満月・新月・低気圧でお産が増えたり、なぜかは分かりませんがお産が集中する時期というのがあります。その時は毎日めまぐるしく入院が増えるとなかなか準備が間に合わない時もありますが、転院や移動になる場合はいずれもNICUという緊急の治療が必要な状況を卒業できる状態の子であることがほとんどです。
(というのは、高度な医療を受けるために大きな病院へ転院になるお子さんの場合もあるからです。)
先生も卒業できる子から順番にお声かけさせていただきます。
その一方で、最後まで、退院する日まで一緒に頑張りたかったのに申し訳ないという気持ちがあることもあるので、「すみませんが。。。」とお話しされる先生もいます。
移動はひとつのステップであり、一つの「卒業」
でも、私は、その時はいつも思うのです。
「一番最初に卒業できるくらい元気になったってことだよ。」と。
卒業してもいいくらい元気になったってことだから、それは嬉しいことでもあるんだよ。とお伝えします。
これから赤ちゃんが成長していく中でたくさんの卒業があると思うのです。退院することも卒業だし、おっぱいもいつかは卒業するでしょう。一緒に眠ることも卒業する日が来るし、もちろん幼稚園、保育園、学校、、、たくさんの卒業があると思います。
NICUの卒業は、入院した赤ちゃんにとって、一番最初の卒業だと思っています。呼吸器を外し、点滴を外し、一つずつ単位を集めるようにステップを踏んで、ついに安定したところで卒業します。
NICUは治療、成長発達、家族のケアの3つのケアをしますが、やはり、治療は優先されます。
GCUでは、おうちに帰る準備をするところであり、小児科では家族が主体になります。
他の病院へ移ったとしても、移動できるくらい安定していると判断して、ママが赤ちゃんのケアを主体的に行えるようサポートしていきます。
中には、「追い出された」と悲しい顔をされたり、怒りをあらわにするご両親もいらっしゃいます。「追い出したくて移動したわけじゃないんだよ」と伝えたい思いもあります。
でも、そう言ってしまうほどに寂しかったり、環境が変わること、スタッフが変わることを不安に思ったのだなと思います。
説明が不足していたり、環境が変わることへの不安な気持ちをしっかり受け止めながら、その不安を解消できるようしっかり支えていくことがやはり大切なのだと思います。
「今いる命を守りながら、新しい命も受け入れていく」「どのご両親にもあかちゃんの命を救い、命を育む」支援をしていることを今回はお伝えしました。
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